今日は、少しだけ遅れている。
暖簾をくぐると、ロクが鍋の火を少しだけ弱めた。
「お、来ましたね」
そう言ったきり、こちらを振り返らない。
鍋の中の湯気を見ている方が、ロクにとっては大事らしい。
朝一番の仕事は、火をつけることだ。
寸胴の中で、今日のスープがゆっくり目を覚ます。
― 来る途中で、腹減ってたやつもいるだろ。
ロクが鍋を見たまま言った。
「味見します!」
「まだ早い」
ひと口すすって、少しむせた。
覚えたはずなんですけどね。
ネギは山盛り。厚みは自由。
ロクは何も言わず、半分だけよけた。
吊るしたチャーシューが、ゆっくり回っている。
見ているだけで、少しだけ気持ちが落ち着くんですよね。
カウンターの端では、クゥーが何かを混ぜている。
今日何を作っているのか、本人も半分くらい分かっていない顔をしている。
まあ、いつものことだ。
暖簾が揺れる。
最初の一杯が、静かに出ていく。
ここに来ると、だいたい何かが煮えている。
そしてだいたい、クゥーが少しだけ失敗している。
それくらいが、ちょうどいい。
今日も、営業中。
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【本日の注意書き】
・営業日はだいたい気分です(開いてたらラッキー)
・味見はタイミング命です(早いと怒られます)
・ネギは自由ですが、ロクが少しだけ戻します
――次回