二宮和也主演の映画『浅田家!』。
例によって “観ながら読もう”と思い、小説『浅田家!』(徳間文庫)を入手した。
映画は、2020年公開。
監督:中野量太 脚本:中野量太 菅野友恵
出演:二宮和也 妻夫木聡 黒木華 菅田将暉 風吹ジュン 平田満
まずは映画を観ていく。
三重県津市の浅田家では、看護師の母順子(風吹ジュン)が昼夜働いて家族を支え、父の章(平田満)が専業主夫で家族の食事づくりにいそしむ。
カメラが趣味の父は、毎年、年賀状のために息子たちの写真を撮ることを好んだ。
歳月は流れ、長男幸宏(妻夫木聡)は地元で穏当に就職するが、写真家を志して大阪の写真専門学校に進んだ次男政志(二宮和也)は、2年半ぶりに帰ったと思ったら、腕に刺青を入れ、学校はサボりまくりで卒業も危いという。
帰省したのは、卒業制作の写真を撮るために家族の協力が必要だったからだ。
父子三人が相次いでケガをした幼い日のワンシーンを再現した写真は、栄えある学長賞を受賞し、政志は写真学校を何とか卒業することができた。
しかし実家に帰った政志は、就職するでもなく、写真を撮るでもなく、パチスロで稼ぎ、堤防で釣りをする毎日。
幼馴染の恋人若菜(黒木華)は、そんな政志に呆れつつ叱咤激励して、憧れていたアパレルの仕事が見つかったからと、東京へ向かう。
そんな政志が、昔は消防士になりたかったという父の夢を写真で叶えることを思いつき、兄の友人消防官の協力で、消防士姿の家族写真を撮影する。
それをきっかけに、家族によるコスプレ写真シリーズを次々と撮影した政志は、写真家デビューを目指して上京し、若菜のアパートに転がり込む。――
30分ほど映画を観るだけでも、なかなか楽しく、ほのぼのする映画だと感じた。
それをいったん中断して、文庫本を開く。
すると、人物の会話もほぼ映画通りなので、映画のイメージを再現するように読み進むことができる。
上京し、若菜と同棲を始めた政志はスタジオアシスタントの仕事をしながら、「浅田家!」の写真集を出してくれる出版社を探すが、なかなか見つからない。
しかし、若菜が準備してくれた個展で思いがけない出会いがあり、出版が実現する。
そして、物語はどんどん展開し、家族写真撮影のプロとして政志の活躍が始まる。
しかし――
しばらく読んでからまた映画をつまみ食いしつつ、半分くらいまで観ながら読んだ。
それにしても、あまりにも映画と小説が一致しすぎている……。
ふと気づいて文庫本の奥付を見ると、
「この作品は、映画『浅田家!』(脚本 中野量太・菅野友恵)の小説版として書きおろされました。」
なんだ。ノベライズ本ではないか。
そういえば、作者の中野量太はこの映画の監督の名前だ。
あまりに迂闊であった。
正直、シナリオを小説形式で書き起こしただけのノベライズは、文学作品としての味わいも深みもない。
道理でと思い、本を読むのはやめて最後まで映画を楽しむことにした。
すると、物語は東日本大震災被災地のシーンになっていく。
その瓦礫の街や避難所の様子があまりにもリアルで、圧倒的である。
この映像を観ずにノベライズでストーリーを追ってしまうのは、あまりにもったいない。
最後まで読まずに気づいてよかった。
そして、映画を最後まで堪能した。
ユーモラスで、ほのぼのとして、少しほろりと来る素敵なヒューマンドラマである。
これは、映画を単体で楽しめばよい。
申しわけないが、ノベライズ本の続きを読むのはやめた。
調べてみると、映画の最初と最後にも「事実に基づく物語」とあるように写真家浅田政志は実在し、この映画に描かれたのは、彼自身の人生である。
写真集『浅田家』も実在する。
この写真集と、東日本大震災後に浅田が被災地で行なった活動の記録『アルバムのチカラ』を原案にして、この映画は作られた。
ノベライズ本はいただけないが、中野量太監督は浅田政志の人生を見事に物語として描き出した。
そして、あまりにリアルな被災地の光景に圧倒される。映像づくりもハンパではない。
ぜひ多くの人に観てほしい映画である。