観ながら読んだ 中山七里『護られなかった者たちへ』【ネタバレ無し マイナス評価あり】 | 映画を観ているみたいに小説が読める イメージ読書術

映画を観ているみたいに小説が読める イメージ読書術

小説の世界に没入して
“映画を観ているみたいに” リアルなイメージが浮かび
感動が胸に迫り、鮮やかな記憶が残る。
オリジナルの手法「カットイメージ」を紹介します。
小説を読むのが大好きな人、苦手だけど読んでみたい人
どちらにもオススメです。

 

 映画『護られなかった者たちへ』は、2021年 瀬々敬久監督 出演 佐藤健 阿部寛 清原果耶……。

 予告編で観た佐藤健の眼つきがすごくて強烈な印象が残り、小説も映画も観てみたくなった。

 

 

 そこで原作小説も購入、スタンバイして、AmazonPrimeVideoで映画を観始めた。

 映画の冒頭、東日本大震災直後の風景を再現したCG映像が衝撃的で、喧騒と泣き声が満ちる避難所の様子はリアルだった。

 刑事役の阿部寛は、東野圭吾原作の映画『新参者』シリーズで演じた加賀恭一郎のイメージと区別するのが難しい。

 20分ほど映画を観て、いったん中断し、小説を読み始める。

 

 中山七里『護られなかった者たちへ』 宝島社文庫

 

 

 仙台市内で、品行方正を絵に描いたような市役所の課長と県議会議員が、相次いで殺害された。

 二人とも、手足と口をガムテープで固定し、人目に触れない廃屋に放置して、2週間ほどの苦しみの挙句に餓死させるという手口。

 最大限に苦痛を与える残忍な殺害方法から、よほどの怨恨が動機と推察された。

 事件を追う県警捜査一課の笘篠と若手の蓮田は、被害者の経歴を辿り、二人が同僚だった福祉保険事務所にたどり着く。

 

 一方、並行してもう一人の人物の姿が描かれる。

 放火の罪で10年の懲役に服し、模範囚として8年で仮釈放となった若者、利根勝久。

 彼が罪を犯した背景には、生活保護申請を拒否して老女を餓死させた福祉保険事務所職員たちへの恨みがあった。――

 

 小説を途中まで読んだら、また映画を30分ほど観たりして読み進めた。

 しかし、次第に私の中には、この物語に対する違和感が募っていく。

 

 読んでいて、犯罪の動機にまったく共感できない。  

 生活保護の申請が通らず、餓死した老女の無念を晴らすために、その窓口職員らを殺してどんな意味があるのか。 しかも8年も経ってから。

 笘篠刑事は犯人への共感を口にするが、それも理解できない。

 

 最後まで読んで、その気持ちは強まるばかりだった。

 何の救いもない。

 救いがない物語があってもいいが、その分、投げかける問いがあるはずだ。

 しかし、社会にどんな問題提起をしたいのか、それも全然わからない。

 

 映画は少し展開が違う。

 結末の残り40分は、小説の読後に観た。

 原作の根っこにある浅さや歪みは如何ともしがたいが、脚本家や演出家が、そこを何とか修正しようとした形跡は見られる。

 観る者に問題を提起し、わずかな救いの道は描こうとしている。

 

 だから、この作品が気になるむきには、映画だけ観ることを勧めたい。

 

 震災直後、孤独な三人が絆を深めていく場面は美しい。

 倍賞美津子演じる遠島けいを中心に、利根(佐藤健)と小学生の女の子 “カンちゃん”が家族のようにつながっていく。

 歳の離れた、それぞれに孤独を抱える二人の優しさが、頑なだった利根の心を開かせたのだ。

 

 それだけに、けいを餓死に追いやることになった市職員への怒りはわからなくもない。

 その結果起こる犯罪、謎の多い捜査の展開、第3の被害者に迫る危機、そして意外な結末……。

 

 物語の終盤、明らかになるけいの遺言は、涙を誘う。

 ――だが、そこに救いはない。

 

 原作に責任のある数々の疑問、納得いかない点に目をつぶれば、映画には感動できるかもしれない。