小説『人間失格』は高校生のとき読み、大学生で再読し、今回、映画『人間失格~太宰治と3人の女たち』(2019)を観て、このブログを書いている。
そこで、「読んでから観た」というわけだが、?をつけたのは、この映画は、太宰の小説『人間失格』の映画化ではないからだ。
太宰治自身の人生を描いた映画であり、そのタイトルとして、『人間失格』を冠したというのが正しい。
監督:蜷川実花 主演:小栗旬
出演:宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、成田 凌 、千葉雄大、高良健吾、藤原竜也……
実際に映画を観ると、蜷川実花の映像美学に驚かされる。
室内のつくり、調度品、服装、それらの色合い、デザインが強烈なインパクトを与える。
また、戦後の街並みを見事に再現したCG映像もリアルで美しく、郷愁をそそる。
そして、配役の妙とその役づくりが興味深い。
脇役から言えば、坂口安吾が藤原竜也なのは、かっこよすぎる。
しかし、敢えてした配役なのだと思う。
坂口安吾は、蜷川監督にとってはきっと美男子なのだ。
高良健吾の三島由紀夫はお見事。
ストイックな風貌、死を意識した厳しい生き方など、晩年の三島をよく表している。
三島は当時23歳で作家デビューを果たしたばかりだから、実際はもっとひ弱で神経質な感じではないかと思うが、それもご愛敬である。
そして、タイトルにあるように太宰をめぐる三人の女。
太宰の才能を信じて忍耐強く家庭を守る妻=宮沢りえ
文才と功名心のあるセレブで、太宰の子を産み、堂々と生きる女、太田静子=沢尻エリカ
正妻の地位も子どももなく、太宰とともに死ぬという至福だけを求める女、山崎富栄=二階堂ふみ
女たちはそれぞれに異なるしかたで太宰を愛する。
おのおのの人物造形と演技は、見事なものだ。
それだけに、中心にいる太宰がつまらない男に思えてくる。
小栗旬が太宰をどう演じるのか、というのがこの映画の大きな魅力だと思うが、映画から見えてくる太宰像は、騒がしいばかりで深みに欠ける。
映画で描かれた太宰のメチャクチャな生活ぶりは、確かに史実通りなのだろう。
だが、作品から伺える太宰の内面がもっと表現されるとよかったと思う。
実際に太宰の小説を読むと、臆病でどうしようもない男が、それでも精一杯生きようとしてうまくいかない哀れさが伝わってくる。
それがこの映画からは感じられなかった。
調べてみたら、この映画の前に生田斗真演じる『人間失格』がある(2009 荒戸源次郎監督)。
こちらは原作を映画化した形のようなので、いつか観てみたい。
正直、生田斗真も太宰のイメージではないが、もう少し繊細な演技をしてくれそうである。
もちろん『人間失格』の主人公葉蔵=太宰治ではないから、葉蔵は葉蔵としての人物造形がありうるし。
ちなみに他に私の心に残る太宰原作の映画と言えば、 『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ』(2009 根岸吉太郎監督 松たか子 浅野忠信 )。
松たか子演じる健気でポジティブな妻が、とても魅力的だ。
こちらはおススメである。