映画は、2020年 監督・脚本:飯塚健、主演:山田孝之。
小説を読む前に、映画を観始める。
1歳半の娘を遺して妻が突然、逝ってしまった。
呆然とする日々を経て、2歳半になった娘を保育園に預けて会社勤めを再開する若き父親を、山田孝之が演じている。
初めて保育園に行く日から、物語は始まる。
少しオッチョコチョイで、親しみやすい保母さん“ケロ先生”に、朝ドラ『ひよっこ』の“米屋の娘” 伊藤沙莉は、はまり役である。
一人で娘を育てていくと決心した主人公だが、仕事との両立に悩み、いったん慣れたはずの保育園に行きたがらない娘の変化に戸惑う。
そんな娘に、ケロ先生はせめて園にいる間だけでもと母親代わりの愛情を注いでくれるのだが――。
そこまで30分ほど観て、映画は中断し、原作小説を読み始めた。
重松清『ステップ』 中公文庫 2012年
ケロ先生との保育園生活がしばらく続くのかと思ったら、2章目で、娘の美紀はもう5歳近くに成長している。
そして、新たな人物が登場し、また新たなエピソードが始まる。
どうやら各章は一話完結のエピソードで、しかも、年月を挟んで、親子の成長を追っていく構成だとわかる。
読み進んでいくと、描かれたストーリーだけでなく、章と章の間に存在する、語られない年月の意味に気づく。
ひとつひとつの話に結末はあるが、「この親子は、これからどうするのだろうか。きっとこうするだろう」と、想像を掻き立てて終わる。
そして次の章を開くと、もう何年か経っていて前の話は既に過去である。
しかし、まもなく人物が生き生きと動き出すと、前の話との間の時間差は埋められ、書かれていない年月、親子が生き、成長してきたことが確かな過去として腑に落ちていく。
各話の間にはステップ(段差)があるが、私たちの想像力が、自然とそれを埋めていく。
そこが、この作品の構成の妙である。
主人公の「僕」は、戸惑いながら、迷いながらも、さまざまな人たちとの関わりに支えられて、娘と暮らしていく。
これから娘はどう成長していくだろうか、そして、「僕」は再婚するのだろうか、……ワクワクしながら読むことができる。
と同時に、ほのぼのする場面が多く、読んでほっこりした気分になりたい人にはおススメである。
読者の年齢や人生経験に応じて、共感する場面が異なるはずだ。
年代や立場の違う同士で読書会をするのも、楽しいに違いない。
映画の最初を観ただけで、そのまま小説は最後まで読み終えた。
これから映画の残りを観るので、その報告はまた次回。