2020年 河瀨直美監督作品
主演:永作博美· 井浦新· 蒔田彩珠
原作:辻村深月
前回書いたように、映画と小説をクロスして読み進める計画が、映画を少し観てから小説を読んでいったら、最後まで引き込まれて読み終えてしまった。
ひじょうに気に入った小説だったので、映画の続きを楽しみに見始めた。
永作博美と井浦新が夫婦を演じる前半は、かなり原作に忠実に作られている。
それは、最初の30分映画を観てから小説を読んで、実感していた。
続きを観ていくと、印象深いのは、風景映像の美しさである。
人間たちのドラマの狭間に、季節とともに移り変わる自然の一コマが挿入される。
木々、鳥たち、山や海、朝陽や夕陽、そして風の音。
それらが人々の営みを優しく見守り、包み込む。
そして、劇映画なのに、ドキュメンタリーのような撮影アングルと光加減。
特別養子縁組の斡旋団体「ベビーバトン」の説明会や妊婦たちの島での生活は、とくにその印象が強い。
たとえば、ベビーバトン代表の浅見(浅田美代子)に、片倉ひかり(蒔田彩珠)が「なんでベビーバトンを始めたんですか」と何気なくたずね、浅見がそれに答える。
ひかりは声だけで、カメラをもってインタビューしているようなアングルである。
その不思議な臨場感。
しかし、後半から終盤のシナリオは、かなり原作を端折っている、と思った。
『八日目の蝉』と似ていると感じた、逃避行とか追い詰められ感がない。
これでは、片倉ひかりの行動の理由に共感できない。結末の感動も薄れてしまう――。
そう思いながら最後まで観た。
結末は原作通りで、感動的なラストではあったが、そこに至る過程に違和感が残った。
……
しかし、いや待てよと、思い直した。
私は小説を読んで感動したのと、映画の前半がかなり原作に忠実だったので、後半もそれを期待して観てしまったのだ。
一本の映画は、独自の完結した世界である。
それをありのまま味わえばよいのに、原作と比較して観るのは、言ってみれば邪道だ。
シナリオが原作と違えば、人物の心理も異なり、テーマだって違ってきて当然だ。
そう思って、映画の後半をところどころ再生しながら、もう一度ストーリーをたどり、人物に寄り添って観ていく。
すると、原作とはまた違う、ひかりの心の動きが見えてきた。
そして、それを裏づける、小説ではそこに出ていないはずの「ことば」も……。
映画だけを観たなら、それはすんなりと入ってきたのだろう。
なまじ原作を読んではまってしまったので、映画を観る目に偏見が入ってしまった。
「観てから読むか読んでから観るか」シリーズを続け、「映画は映画、小説は小説」と割り切って楽しむことの大切さを、自ら語っていたはずなのに……。
まだまだ修業が足りないようだ。
ところで、前回、楽しみだと書いた、蒔田彩朱の演技は、期待以上だった。
やはり表情に独特の魅力があり、中学生から20歳まで、懸命に生きるひかりをみごとに演じている。
ますます気になる女優である。