辻村深月『朝が来る』(文春文庫)。
小説を数ページだけ読んで、映画を観始めた。
2020年、河瀨直美監督作品。
主演は、永作 博美、井浦 新、蒔田 彩珠。
幼稚園の子ども同士のトラブルで、ギクシャクするママ友関係。
どこにでもありそうな、子育ての風景。
時は遡り、夫婦が子どもなしでも幸せに暮らしていた数年前。
あるときから不妊治療を始めると、どんどん袋小路に追い詰められていく。
そんな彼らがふとテレビで観たのは、「特別養子縁組」を仲介する団体の報道だった。
子どもを産んでも育てられない妊婦と子どもを欲しくても持てない夫婦の間をつなぐ、法律で定められた制度。
映画はそこに至る夫婦の心の襞を丁寧に描き、団体の説明会の場面は、まるでドキュメンタリー映画のようにリアルに迫ってくる。
そこまで30分ほど観て、いったん映画を中断し、小説に戻る。
ページをめくるとすぐ、イメージの世界に入っていくことができる。
映画の記憶の助けを借りつつ、必ずしも束縛されずに、自分なりの映画が心の中に展開する。
若干場面の前後があるが、映画はほぼ小説通りに作られている。
映画で印象に残ったセリフのほとんどは、そのままの形で小説の中に書かれていた。
どんどん引き込まれ、映画で観た範囲を超えて、先まで読み進んでいく。
何だか、角田光代『八日目の蝉』の場面が切れ切れに浮かんでしかたがない。
永作博美が出ているせいかもしれないが、もっと深いところで似ている気がする。
実は、永作博美が主演する映画『八日目の蝉』を、私は観たことがない。
しかし、予告編をチラ観してから小説をカットイメージで深読みしたので、実際に”映画を観たみたいに”、数々の場面が記憶に焼きついている――。
さて、小説『朝が来る』は、ある程度読んだら、また映画に戻るつもりだったが、読みだしたら、もう止まらない。
とくに、場面が大きく変わる後半の展開……。
もう映画は後で観ようと割り切って、とうとう最後まで読み切った。
すると……
とてもよかった。
読後感がよく、私は好きな小説である。
そして、「親子とは何か、家族とは何か」という問いが、残響のように心に残る。
親と子が出会うこと、また、赤の他人が出会い、縁(えにし)でつながることの不思議が、胸に迫る。
やっぱり、『八日目の蝉』と似ている。
もちろん、設定もストーリーも全く違う。
しかし、読んでいく体験の感触が似ている。
底に流れるテーマ、そして、作者が人間を見つめる眼の優しさも。
この二つの作品は、面影の重なる姉妹のように、私の記憶のアルバムにしまわれていくだろう。
さて、映画がまだ残っている。
後半の主人公片倉ひかり役の蒔田彩珠は、現在放送中のNHK朝ドラ『おかえりモネ』でヒロインの妹役を演じている。
翳りのある表情が印象的で妙に気になっていたが、調べてみると、是枝裕和監督の秘蔵っ子だという。
なるほど。
映画を観るのがますます楽しみになってきた。
その報告はまた、次のブログで。