コアなファンの多い伊坂幸太郎だが、ある意味独特な世界なので、うかつには人に勧められない……?
その点、この連作短編作品『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)は、安心しておススメできる。
短編の多くは恋愛がらみで、善良な人々の優しいエピソードに、伊坂流の仕掛けがしゃれている。
伊坂自身、「あとがき」にこう書いている。
収録している短編の大半が恋愛にまつわる話となり、個人的にはどこかくすぐったい気持ちもあるのですが、裏を返すと僕の書く話にしては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定、そういったものがほとんど出てこない本になりました(今までの大半の本に、そういう要素が入っていることもいかがなものかとは思いますが)。ですから、普段の僕の本に抵抗がある人にも楽しんでもらいやすくなったのではないか、そうであってほしい、と期待しています。(P331)
最初読んだ時、出てくる人物同士が少しずつつながり、それらが十数年の時を遡ったりするので、最後にものすごい大どんでん返しがあるのかと、あれこれ伏線を推理して読んでいったが、それは気の回し過ぎだった。
別にそんな大仕掛けはないので、散りばめられた素敵なエピソードを、ひとつひとつ楽しめばよい。
そして、それらが微妙につながりあっていることに、静かな感動が広がる。
これをどうやって映画にしたのか。
とても興味を惹かれて、今回もNETFLIXで観てみた。
2019年、今泉力哉監督。主演は、三浦春馬、多部未華子。
原作の個々のエピソードをうまくひとつの話にまとめている。
しかし、三浦春馬と多部未華子が演じるメイン・エピソードは、原作に元をとりつつ、さらに発展させたオリジナルストーリーになっている。
生真面目で恋愛に不器用な青年を、三浦春馬が好演している。
その後の運命を思うと、こうした演技ができる彼はやはり、傷つきやすい繊細な心の持ち主だったのだろうと感じる。
映画に取り上げられなかったエピソードもあるので、映画を観てからでも小説の楽しみはまだまだ続く。
私は“読んでから観る” で楽しめたが、逆に“観てから読む” のも悪くない。
伊坂幸太郎ファンで、彼女・彼氏にも紹介したいのだが、ちょっと心配……。
と思うあなたは、一緒に映画を観て、「原作も読んでみて」と勧めてはどうだろうか。