ヘンリーおじさんにシーバスの中で、引越し先の電話番号を教えてしまったが為に、ちょくちょく電話
がかかってくるようになりました。
私は番号を教えてしまった事と、帽子を貰ってしまった事を深く後悔していました。
私が住んでいたシェアハウスには、各部屋にそれぞれ電話機
はあるものの、ラインが一本だったため、かかってきた電話に誰かが出たら、その電話をかかってきた相手の子の部屋まで、知らせに行かなければならなかったのです。
なので、そのおじさんからの電話は、私にはとっても嫌なものでした。
最初の頃は、とりあえず電話に出て、今何してるとか何とか、適当に付き合って話していたのですが、だんだん頻繁にかかってくるようになり、私はハウスの子達に、おじさんから電話がきたら出かけていると伝えて欲しい、と頼んでいました。
しかし、こう頻繁にかかってくるようになっては、さすがに居留守作戦も使えなくなり、ある日、久しぶりに電話に出たら、ヘンリーおじさんが私に貸していた翻訳機を返して欲しいから、一度会おうと言ってきたのです。
私は、ちょっと焦ってしまいました。
なぜかというと、借りていたミニ翻訳機が動かなくなっていたからです。
でもまー、いつか会って返さなければならない物だったので、一度ヘンリーおじさんとは、会わなければならないとは思っていました。
そして仕方なく、学校が終わった後に会う約束をしたのでした。
さて、久久に会ったヘンリーおじさんは、妙に浮かれているように見えました。
マクドナルドで彼はピザとチップスと飲み物(コーラだったかな?)を買ってくれ、小型の赤い車でスタンレーパークまで行って、それらを食べる事にしたのでした。
スタンレーパークに着いた私たちは、「この場所から見る夕日がきれいなんだ」と言うヘンリーおじさん推薦の場所に行き、ベンチに座り、ピザを食べ始めました。
ピザを食べている私の横でおじさんは、カラスにチップスを投げながら、自分の身の上話をし始めたのです。
それによると、ヘンリーおじさんは離婚しており、お嫁に行った娘さんが、一人ニューヨークにいるようなことを言っていました。
それと、日本に一度仕事で行ったことがあり、その時、日本人女性に親切にしてもらい、良い思い出になったということも...。
私はそれを聞くまで、てっきりおじさんには奥さんがちゃんといるだろうから大丈夫、などと安易に考えていたのです。
そして、カラスにチップスをやり終えたおじさんが、ベンチの方にやって来て、彼の方を向いた私の頬っぺたに、いきなりチュッとして来たのです。
もうその瞬間、これ以上ここにいたら絶対にやばいと思った私は、この後予定があるから、すぐに帰らないといけないと言って、車に乗り込みました。
勿論おじさんは了解してくれ、私を送ってくれた訳ですが、家まで送られちゃー、たまったもんじゃありません。
結局、近くのセーフウェイまで送ってもらい、その途中、車を止められ危うかったのですが、何とかそこは切り抜け、無事に車から降りることができ、ヘンリーおじさんとGood byeすることが出来ました。ホッ...
おじさんが、完全にセーフウェイから出て行くのを見送ってから、私はなんともいえない重い面持ちで、シェアハウスまでの道のりを歩き始めたのです。
紳士に見えたのに、私の見る目が甘かった。トホホ...(´・ω・`)
結局、ミニ翻訳機も返し忘れてしまったし...。
「ああ、もうヘンリーおじさんとは、絶対に会いたくない」
そう思う私が、そこにはいたのでした。
つづく...