#725 レビュー 『陰陽師たちの日本史』斎藤英喜 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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大河『光る君へ』で怪しい存在感を放つ安倍晴明に興味が沸いて読んだ『陰陽師たちの日本史 (角川新書) [ 斎藤 英喜 ]

安倍晴明が活躍した平安時代だけじゃなく、その後も明治維新まではっきりと存在し、今も存在していると思われる陰陽師のその歴史を知る1冊。


  レビュー

大河ドラマ『光る君へ』で冒頭から登場し、兼家が外戚として政権首班に躍り出るための目の上のたん瘤の花山天皇を出家退位に追いやる策略を売りつけたり、道隆政権は短命に終わることを予言したりと、怪しい存在感を放っている安倍晴明や、陰陽師について、夢枕獏先生が書いて映画化されたあのイメージではなく、史実としての存在はどんなものだろうかと思って本書を読みました。

(NHK大河ドラマ『光る君へ』第1話冒頭で登場する安倍晴明(C)NHK)

 

本書は、”陰陽師”というと安倍晴明で平安時代ってことだけでなく、帯の”安倍晴明「以後」も権力の中枢にいた⁉とある通り、平安末期の源平争乱時期の安倍泰親、戦国時代に天文学への興味からキリスト教に改宗する賀茂在昌、江戸時代に幕府から免許制を勝ち取って在野の民間陰陽師らも束ねる存在となる土御門泰福に、明治時代の「陰陽道禁止令」を受け、表舞台から去るも、教派神道に流れるなどして生き残る陰陽師という陰陽師の通史を知る1冊となっています。

 

「陰陽道」は一般的には、古代中国の舶来思想と思われてきたそうですが、「陰陽道」という用語は中国の文献では確認されておらず、最近の研究では、中国の陰陽・五行説・天文説、占術に、道教や密教、それに日本の神祇信仰を混ぜ合わせて創り出された日本独自の思想、祭祀法、呪術であることが明らかとなり、「陰陽道=日本成立説」が学会でも定説となっているそうです。


奈良時代に朝鮮半島の百済から仏教とともに、「暦本」「天文・地理書」「遁甲・方術書」がもたらされ、このそれぞれの専門領域を学ぶ「書生」が選ばれます。天武天皇の律令国家で官僚組織の一つとして「陰陽寮」が設置され、「陰陽師」はその「陰陽寮」という役所の中の役職名として始まるそうです。今でいうところの国家公務員としての占星術を司る存在から始まります。

 

それが、平安時代の貴族らが、血や死などの"穢れ”を忌避する風潮が強くなり、個人的に救いを求めるようになる中で、陰陽師たちが個人占星術と独自の祭祀法などを編みだして、その個人救済に乗り出し、「陰陽道」が成立する過程で、キーパーソンとして安倍晴明が存在することが分かりました。

 

だからこそ、大河ドラマ『光る君へ』で藤原兼家や藤原道隆が個人的に安倍晴明を呼び出してその術に頼ろうとしていた姿が描かれるような状況になったことが分かります。

 

貴族の時代は平安で終わり、鎌倉時代からは武士の時代ですが、最近の研究でその鎌倉に京から多数の陰陽師が下向して、その地でさまざまな「陰陽道祭」が展開されたこと、室町幕府の時代でも陰陽道は重用され、幕府のための陰陽道祭を担ったことから、3代将軍足利義満のときには、晴明直系の子孫の安倍有世は三位にまで昇進し「公卿」入りし、「土御門」という公卿としての名乗りをするまでに重用されます。

 

応仁の乱で、京が長年の戦乱で荒廃する中、京の陰陽師らは地方の有力大名の下などに分散していくことになります。織田信長・徳川家康連合軍VS武田勝頼の「長篠の戦」を題材にした『流しの合戦図屏風』には陰陽師を思わせる人物が描かれます。

 

秀吉が天下を取ると、秀吉が秀次を切腹させる事件で、秀次が秀吉を呪詛した存在として陰陽師の土御門久脩がその怒りに触れて出奔する事件が起こるように冷遇されることもありますが、江戸幕府が成立し、豊臣家が滅ぶと「従三位」に復位できたそうですが、秀吉が陰陽師を弾圧する背景に、乞食村で生活した秀吉としては、世間から下賤されていた民間の陰陽師の「唱門師」と同じ「賤」の環境が背後にあったのではという指摘は、生まれや育ちのコンプレックスを隠したい思いからすると確かにと思わせるものでした。

 

江戸時代に入ると、5代将軍綱吉の頃に、土御門泰福が、朝廷と幕府から諸国の陰陽師の支配を認められ、地方で活動する民間の陰陽師らを「土御門ブランド」で支配する仕組みが成立するそうです。幕府らしいやり方です。

 

明治維新を迎えると、明治政府により、神道の国教化政策に先んじて「陰陽道禁止令」が出され、陰陽師たちは教派神道に入っていくなどして生きながらえていくんだそうです。

 

陰陽道・陰陽師の存在について通史で知るとともに、室町時代の吉田神道、戦国時代のキリスト教、江戸時代の「天文方」の暦など、各時代における様々な学問・宗教などとの軋轢やそれを吸収して陰陽道のスタイルを変えていく姿や、中央の朝廷・貴族・幕府の人たちの陰陽師だけでなく、全国各地で民間で活動する陰陽師の活動も分かる信書としてはかなりボリュームいっぱいながらコンパクトにまとめられている1冊です。

 

〈書籍データ〉

『陰陽師たちの日本史』

著 者:斎藤英喜

発 行:株式会社KADOKAWA

価 格:960円+税

 2023年12月10日 初版発行

 2024年2月5日  再版発行

 角川新書 K-440 

 ※2014年に選書で刊行されたものを加筆修正して新書化されたものです。

 
 
 
 

 

 

 
 

 

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