続けて『ギリシア喜劇全集(3) アリストパネース 3 [ 久保田忠利 ] 』を読みました。
ペロポネソス戦争下でその反戦思想を下ネタ満載で説く喜劇や悲劇詩人エウリーピデースを揶揄する喜劇で構成される第3巻
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ギリシア喜劇全集(3) アリストパネース 3 [ 久保田忠利 ] 楽天
内容やレビュー
本書は、アリストパネース(前446~前385)の喜劇作品『リューシストラテー』『テスモポリア祭を営む女たち』『蛙』の3作品が収録されています。
ペロポネソス戦争(前431~前404 途中、休戦期間あり)に一貫して反戦の立場のアリストパネスが下ネタ満載にその反戦を説く喜劇と、悲劇詩人エウリーピデースを題材にアテナイの退廃した状況を揶揄する喜劇で構成されています。
◆『リューシストラテー(女の平和)』
前411年に上レーナイア祭で上演されたであろうとする作品。アリストパネスの「女物3作」「平和物3作」のひとつと言われる作品。
平和物とあるとおり、前431年から続いているペロポネソス戦争、戦況がアテナイかなり不利に陥っている状況下で、改めて反戦を訴える喜劇です。ただその内容が下ネタ満載‼
タイトルのリューシストラテーは、アリストパネスの喜劇としては数少ない主人公の名前がタイトルとなっています。この主人公の名前は、「軍隊を解体する者」という意味になるそうです。
リューシストラテーは、戦争に明け暮れる男性たちに対して、戦争を止めさせるべく、ひそかに敵味方の女たちを招集して、セックス・ストライキを呼び掛けるとともに、アテナイの軍資金を抑えるために女たちでその軍資金のあるアクロポリス占拠を行います。
そのアクロポリスを取り戻すべくアテナイの男性がやってきますが、リューシストラテーの活躍もあり、膠着状態に陥ります。女性側も男性恋しさに離脱しそうになるのをリューシストラテーは説得して思いとどまらせます。一方の男性側も妻を求めてやってきますが、それを逆手にとって妻に誘惑させて、我慢できなくさせ、和平を結ばせようとします。
アテナイでそんなやりとりがなされ、スパルタでもセックス・ストライキが実施されたので、、性欲が我慢できなくなった男性たちのアテナイ・スパルタ両陣営から、膨らんだ股間を抑えた使節がリューシストラテーの下にやってきて、彼女の仲介で和平が実現するという内容です。
和平・反戦を、セックス・ストライキとそれに我慢させられる男たちの姿で描くというのは、本当によくこんなこと思いついたなと驚きます。
◆『テスモポリア祭を営む女たち(テスモポリアズーサイ)』
前411年の大ディオニューシア祭で上演されたと推定される「女物3作」の一つ。
このテスモポリア祭というのは、アテナイや他のポリスで、女神デーメーテールとペルセポネー母子に捧げられた女たちだけの祭です。
この祭で女の敵として悲劇詩人エウリーピデースを女たちが民会で裁きを下そうとしているところをエウリーピデースが縁者の男に、その女だけの祭の中の女だけの民会に女装して入っていてて、話を聞いて自分の弁護をするように求めるも、縁者が男であることがバレて、さあどうなる???という喜劇です。
エウリーピデースは女嫌いや女の敵とするのはアリストパネス喜劇の常套で、笑いのネタとして使われています。
見どころは、縁者が捕まえられ、厚板に張り付けられた状態を、エウリーピデースが助けにやってきて救出しますが、その一連がギリシア悲劇の様々な作品をパロディにして展開するところです。
このパロディで笑いを生み出すことを考えると、当時のアテナイの人たちにそれだけギリシア悲劇が一般常識的に備わっているんだろうと思います。先に悲劇を読んでおかないと正直な苦笑いなのかが分からないという作品でした、
◆『蛙(バトラコイ)』
前405年に作られた喜劇で、この年のレーナイア祭で一等をとったとされる作品です。
正直、タイトルがなぜ蛙なのか?ちょっとよくわかりませんが、見どころはギリシア悲劇詩人のアイスキュロスとエウリーピデースの二大詩人が、悲劇詩人No.1を巡って冥界の神プルートーンの前でお互いの作品を攻撃し、批判し合うところです。
この作品は当時において、あまりに人気が高かったそうで、当時の作品としては例外的に再演が行われたそうです。
ペロポネソス戦争はアテナイ側がより一層苦しくなってくる中、アテナイ市民の人員不足に陥り、奴隷を動員して勝利すれば市民権と自由を与える形で戦いを続けていました。この作品の前年のアルギヌーサイの海戦でスパルタ海軍に勝利するも、その後の不手際などから、勝ち戦にもかかわらず民会において指揮した将軍8人に死刑判決を下して処刑します。その後、民衆はすぐにこの裁判を悔いて、将軍たちを弾劾したものたちの指揮権を拒否するという混乱状態でした。
この作品の見どころは2点あります。
一つは喜劇としてというよりも、当時のアテナイの状況で人気を得たこととなるパラバシスにおけるアリストパネスの全市民が一致して国を守るべきと、反戦とはことなる挙国一致を説いたところです。
二つ目は、アイスキュロスとエウリーピデースが、冥界の神プルートーンを前に、ディオニューソスを審判にしたそれぞれの作品についての戦い、アリストパネスによる二大詩人の作品批評と言えるところです(といってもエウリーピデースはアリストパネスのいじりの対象なので、アイスキュロスが勝利となりますが)。両者をかなり両極端なキャラ設定で行われますが、現存する作品を読んだ自分としてもその両極端は、デフォルメするならそういうことなんだろうなと納得できるものでした。
『アリストパネース3 ギリシア喜劇全集3』
訳 者:丹下和彦、荒井直、内田次信
発 行:株式会社岩波書店
価 格:5,400円(税別)
2009年1月27日 第1刷発行
図書館で借りてきた本のデータです。