#697 レビュー『アリストパネース2 ギリシア喜劇全集2』 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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続けて『ギリシア喜劇全集(2) アリストパネース 2 [ 久保田忠利 ]』を読みました。

うちつづくペロポネソス戦争下において、平和の尊さを表現する喜劇や、アテナイの裁判制度や裁判好きなアテナイを揶揄する喜劇で構成される第2巻

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  内容やレビュー

本書は、アリストパネース(前446~前385)の喜劇作品『蜂』『平和』『鳥』の3作品が収録されています。

 

ペロポネソス戦争(前431~前404 途中、休戦期間あり)に一貫して反戦の立場をとり、戦争よりも平和こそという姿勢で、そのときの主戦派の権力者を揶揄したり、アテナイの風潮を揶揄する内容の喜劇が展開されています。

 

30年近くも続く戦争で、アテナイの状況も有利不利がいろいろ変わるので、作品の制作・発表時点がどんな状況なのかという理解がないと基本的に笑いとしては難しいのですが、一方でエログロナンセンスな笑いもあり、古今東西、時代を問わずそういった要素が笑いになることも確認できます。


◆『蜂(スペーケス)』

前422年のアテナイのレーナイア祭の喜劇の競演で2等をとった作品です。

 

作者がこの劇を制作した時期は、ペロポネソス戦争がスパルタ側に傾いた中で、スパルタの提案による1年間の休戦条約が前423年に締結されますが、その和平交渉中にスキオーネーがスパルタ陣営に寝返ったことから、主戦派において反スパルタ感情が高まった状況で、アテナイでは主戦派のクレオーンと和平を結ぼうとするラケースが路線対立しているときのことでした。

 

ペロポネソス戦争をアテナイ側で主戦派として扇動政治家(デマゴーグ)のクレオーンがおり、そのクレオーンを登場人物の名前自体から揶揄します。父のピロクレオーンは「クレオーンを愛する人」の意味で、息子のブデリュクレオーンは「クレオーンに吐き気を催す、クレオーン嫌い」という意味です。

 

とにかく裁判好きな父のピロクレオーンの裁判所に行く活動を止めようとする息子のブデリュクレオーン、そこに父と同じように裁判人を務める老人たちが父を誘いにやってきます。父がその誘いに閉じ込められた家の中から、煙になって煙突からや、オデュッセウスのキュクロープスからの脱出さながらの方法などで家を抜け出そうとする(ここら辺のこっけいさは笑いのポイント)が、息子がそれを許しませんが、裁判好きの父のためにそれなら家で裁判を開かせることで父を満足させることを思いつきます。

 

家での裁判のネタが、犬のラベース(ラケース)を被告に、もう一匹の犬のキュオーン(クレオーンが告発人として裁判を行うというもので、この当時においても権力者であるクレオーンを揶揄します。

 

この裁判を通して、アテナイの裁判制度や裁判好きな性格を揶揄する喜劇となっています。

 

アリストパネースは、前426年にクレオーンを揶揄した喜劇を上演して、それでクレオーンから告発された経緯があるにもかかわらず、またやるわけですからおどろきです。しかも、この劇の始めの方では名指ししていないとはいえ、クレオーンを標的にしないという意味のセリフも出てきているのですが、登場人物の名前からして、思いっきりネタやん!ってつっこみたくなりますが、告発された過去を知ると驚きます。

 

そしてそれが上演できるということは、ペロポネソス戦争下とはいえ、言論・表現の自由があったんだな(アテナイの成人男性に限ってという部分はあるが)という思いのする作品です。

 

◆『平和(エイレーネ―)』

前421年のアテナイの大ディオニューシア祭で上演されて2等となった作品です。

 

この作品が書かれた時期と思われる前422年は、ペロポネソス戦争の局面が大きく変わる可能性のある時期でした。それはこの年に、アテナイ側の主戦論者クレオーンとスパルタ側の将軍プラ―シダースもともに戦死します。両側で強硬な主戦論者が亡くなったことで、和平交渉に向けて進むことになります。

しかし、アテナイ側ではヒュペルボロスが和議に反対、スパルタ側では同盟国のコリントス、テーバイ、メガラなどが反対していましたが、この劇上演ののちに和平条約は締結されるので、平和がもたらされるかもという期待感が広がっている状況でした。

 

ブドウ農夫のトリュガイオスは、主神ゼウスらはなぜギリシア人たちをたたかわせ続けるのか、そのことを天に昇って尋ねたいとの思いから、神馬ペガサスに乗って神のもとに行こうとしたベレロポンテースさながらにフンコロガシに乗って天に行きます。そこでヘルメースに会い、彼から戦争の神ポレモスが平和の女神エイレーネ―を洞窟に隠して岩でふさいでしまったことを教えられてます。トリュガイオスは様々な人たちに呼び掛けてこの平和の女神を助け出そうと動きます。中にはまじめにそうしない人も現れ、現実の世界でも和平条約に反対している者がいることを表わしています。

 

平和の女神エイレーネ―を救い出し、トリュガイオスは女神のお尽きの女性オポーラーと結婚することになりますが、その婚宴の準備中に、鎌職人や陶工が登場して平和を喜び、武具商人、兜職人、槍職人が戦争が終わったので商売あがったりだと窮状を訴えてやってきてます。戦争で利益を得ていた人たちのあしらいは笑いのポイントなんだと思います。

 

和平交渉が進みそうだけど、反対者もいる状況のアテナイの現在を捕らえ、平和がもたらす者の素晴らしさを伝えようとする反戦喜劇作家アイスキュロスらしい作品だと思います。

 

◆『鳥(オルニテス)』

前414年のアテナイの大ディオニューシア祭で上演され、2等となった作品です。

 

本作品執筆時期は、前421年にスパルタとの間に成立した「五十年休戦条約(ニーキアースの平和)」が締結されている状況下でした。ただ、それはアテナイとスパルタが互いの領土に軍を出さないだけで、他の地域では休戦条約を維持したままで戦闘が続いていました。

アテナイでは、前415年夏に、民会の決議でシケリア(シチリア)島に大艦隊を派遣することが決定されるます(ニーキアースは反対、アルキビアデースは強く遠泳を主張)。

その遠征直前にヘルメース柱像破壊事件やエレウシース秘儀冒瀆事件というのが起こり、反アルキビアデース派がアルキビアデースが僭主になる野心があるとしてこの事件で裁こうし、アルキビアデースがスパルタに亡命するという事件が起こります。そんな中でもアテナイではシチリア遠征に対して楽観的な感情でいるときにこの劇が上演されます(実際には、シチリア遠征でギリシア軍は壊滅的敗北を迎えます)。

 

内容としては、各種事件で告発し合うような裁判に多いアテナイに嫌気がさしたペイセタイロス(意味:仲間も説得したもの)とエウエルピデース(意味:楽観的な)が、元トラキア王テーレウスの鳥ヤツガシラのすみかを尋ね、鳥たちも説得して仲間にして、地上と主神ゼウスのいる天上との間の空中に新たなポリスを建てるというファンタジーな設定の喜劇です。

 

この喜劇の展開には、執筆時期の状況がネタとしてちりばめられており、ファンタジーな設定をいくつもの小ネタで現実のアテナイの状況と結びつけながら展開して、アテナイの裁判好きやアテナイのデロス同盟傘下のポリスの扱いなどについて揶揄するものとなっっています。

 

3作品とも、ペロポネソス戦争の状況が分からないと、その味わいが分からないものになっているのが特徴です。

 

『アリストパネース2 ギリシア喜劇全集2』

訳 者:中務哲郎、佐野好則、久保田忠利

発 行:株式会社岩波書店

価 格:5,400円(税別)

  2008年9月25日 第1刷発行

図書館で借りてきた本のデータです。

 
 
 
 
 


 

 

 

 

 

 

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