#682 レビュー  ウェルギリウスとホラティウスの作品を知る『ラテン文学を読む』逸身喜一郎 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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トロイア戦争でトロイアから脱出したアエネーアースがローマ建国の神話にもつながると知り、『アエネーイス』を詠むにあたって『ラテン文学を読む ウェルギリウスとホラーティウス (岩波セミナーブックス) [ 逸身喜一郎 ]』を読みました。

ローマ時代のラテン文革の特徴と、ウェルギリウスと『アエネーイス』とホラティウスの『カルミナ』の2作品の大枠での楽しみ方が分かる1冊

  レビュー

この前の高津春繁氏の『ギリシア・ローマの文学』に引き続き、ウェルギリウスの『アエネーイス』を読むために副読本的に読みました。

 

本書は

 第1章 内戦と平和

 第2章 ギリシャ文学の伝統

 第3章 『アエーネイス』の世界

 第4章 『カルミナ』の趣

 

で構成されています。『アエーネイス』についてはラテン文学の最高峰とか、ローマ建国の神話につながるといったぼんやりとしたイメージしかありませんでしたが、本書を読むことでその貧弱なイメージを補うことができました。

 

ウェルギリウス(前70~前19年)とホラーティウス(前65~前8年)はほぼ同時代の人で、その若いころはローマ共和制末期のカエサルらの三頭政治と言われる状況での内戦、その後のオクタヴィアヌスらの第2回三頭政治という激しい内乱を経て、オクタヴィアヌスが実質的な初代ローマ帝国皇帝アウグストゥスと尊称されるようになり、その知遇を得て、オクタヴィアヌスの右腕の宣伝担当的存在のマエケナスのサロンで文学的活動に取り組み、その才能を開かせることになることがわかります。

 

そういった背景があって、ウェルギリウスの『アエーネイス』が作られます。それはギリシア文学の源流的存在&最高峰の位置するホメロスの英雄叙事詩『イーリアス』『オデュッセイア』をラテン文学で作りあげようとするものであり、ギリシアの主神ゼウスをはじめとするオリュンポス12神が登場し、ローマの建国から、初代皇帝アウグストゥス(オクタヴィアヌス)につながる今へと接続するものとして作られた意図がわかります。

※ラテン語、オリュンポス12神は当然ラテン語名で登場します。

 

トロイア戦争で敗れたトロイア王家の一族に連なるアイネイアースが、母である女神ウェヌス(ギリシアのアフロディテとみなされる)より、トロイアの髪を連れて、イタリア半島のラティウムでローマを建国することを命じられます。

 

ただそのカルタゴからの脱出行は簡単にはいかず、ホメロスの『オデュッセイア』のネタを結構織り込まれて展開しながら、カルタゴと激しく戦うことになるポエニ戦争の原因をこの神話的展開にも伏線を張るなどします。

 

カエサルの後継者で、みずからもカエサルを名乗ったアウグストゥスは、このウェルギリウスの『アエネーイス』の完成を楽しみにしていたそうで、ウェルギリウスに完成まででもできている部分を送るよう求めたそうです。

 

その理由は単に読み物としての楽しみなんて生易しいものではなく、アイネイアースの息子はアスカニウス(またの名をイーウルス)といいますが、このイーウルスがカエサルらの出身のユーリウス家の音と似ていることがあり、カエサルなどは自分たちはこのローマ建国につながっていくそのスタートの一族に連なるものという名分を与えるものとしての効果もあったからだそうで、政治的意図もある作品であることがわかりました。

 

ウェルギリウスはこれを完全に完成させることなく、病に倒れて亡くなりますが、それゆえに未完のこの作品を託した友人に自分が死んだら焼き捨てることを求めていたそうです。アウグストゥスにもそのことを伝えたときに口論になったというエピソードもあるそうで、ウェルギリウスにとっては不本意であったかもしれないのですが、こうやって残され2000年以上の今も楽しめることはありがたいことだと思います。

 

〈書籍データ〉

『ラテン文学を読む ウェルギリウスとホラーティウス』

著 者:逸身 喜一郎

発 行:株式会社岩波書店

価 格:2,200円+税

 2011年11月29日 第1刷発行

 岩波セミナーブックスS14 

 図書館で借りた本のデータ

 
 
 
 

 

 

 

 

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