悲劇なのかという作品もあったりしますが、恐らくギリシア神話としては日本ではマイナー系なものをネタにしたエウリピデースの悲劇作品その1
絶版 新訳決定版 ギリシア悲劇全集 全14巻揃 岩波 古典劇 ギリシア哲学 思想 芸術 喜劇 ニーチェ プラトン アリストテレス
レビュー
エウリーピデースの作品をについてです。
「アルケースティス」 展開は悲劇だけど、ハッピーエンド
エウリーピデースの現存する作品としては最古の作品と言われます(ただ作品としては50歳近くのもので中期の後半に位置するものです)。
主な登場人物は、ペライの王であるアドメートスとその妃のアルケースティス、王の父のぺレース、そして友人のへーラクレースになります。
悲劇全集に入っており、全体のトーンとしては悲劇的に展開するのですが、へーラクレースのおかげで一件落着、よかったねと終わる作品です。
自分の身代わりに死ぬものを出すことができれば長生きできることとなったアドメートスは、父のぺレースらに依頼するも断られ、妻のアルケースティスが身代わりになり死ぬことになります。その死に向かっていく中、アドメートスと父のぺレースはその身代わりについて激しい言い合い、なじり合いを行いますが、結局アルケースティスが亡くなります。
その悲しみに沈んでいたところに現れたのが、アドメートスの友人へーラクレースでした。アドメートスはへーラクレースに妻が亡くなったことを語らずに客人としてのもてなしをしますが、そこでアドメートスの妻が亡くなり葬儀をするところであったことを知らされ、そんな状況でももてなしてくれたアドメートスのために、冥府からアルケースティスを取り返し、アドメートスに帰して、よかったねという悲劇というと・・・です。
ただ、アドメートスと身代わりに死ぬ妻のアルケースティスとのやり取り、アドメートスと父ぺレースとの身代わりの死に関するやりとりや、アルケースティスが亡くなっての弔いなどはまさに悲劇です。終わり方がハッピーエンドということで、実際に専門家の間でも悲劇なのかという議論がある作品です。
「メ―ディア」 恐るべき女メーディアの復讐劇
日本では「王女メディア」と呼ばれることも多い作品。
主な登場人物は、イアーソーンとその妻のメーディア、二人が逃れ住むコリントスの王のクレオーン
イアーソーンが黒海の果てコルキスに金羊毛皮をゲットする冒険で出会ったのがコルキス甥の娘のメーディアで二人は夫婦になり、子どもとなして幸せなはずでした。
二人はコリントスに住むことになるとそこの王のクレオーンがイアーソーンを娘婿にしようとし、そのことに激昂するメーディアとその子らを追放することに決めます。一日だけ猶予を得たメーディアは、ちょうどそのときに現れたアテナイ王アイゲウスにアテナイへの亡命を受け入れさせてから、恐るべき復讐を実行します。
メーディアは父のコルキス王からイアーソーンと逃れる時も、そのために弟を惨殺した女性でした。自分を捨てるイアーソーンへの復讐として、クレオーンの娘にプレゼントするふりをして毒で殺害し、その体に触れたクレオーンも殺害、そしてイアーソーンとの間にできた子ども達については自らが手を下して殺害して、アテナイに逃げ、イアーソーンに大悲劇を見回せるというものです。
「ヘーラクレーダイ‐へーラクレースの子供たち」 へーラクレース死後の残された子どもらの悲劇
ヘーラクレイダイは「ヘーラクレースの後裔」の意味。
主な登場人物は、へーラクレースの甥のイオラーオス、マカリアーをはじめとする経ーラクレースの子ども達、アテナイの王デーモポーン、ミュケーナイ王のエウリュステウスとその使者など
へーラクレースの死後、その子と保護者で年老いたイオラーオスらは、ミュケーナイ王のエウリュステウスの迫害を受け、ギリシア各地に亡命しますが、そこでもエウリュステウスは圧力をかけて追い出させます。途方に暮れる中、ついにアテナイに保護を求めて亡命してきます。
エウリュステウスは使者を派遣してアテナイでも追い出すことを求めます。ここでアテナイ王デーモポーンはへーラクレースの子らを受け入れることを決めます。ここでの一人の王により治められる王制のミュケーナイと、アテナイも王がいるとはいえ直接民主制で決められる自由な政治体制との言い合いは、すでにペロポネソス戦争の最中からすると、アテナイの正当性を表現するモノでもあるのだろうということが分かります。
この結果、ミュケーナイとアテナイは戦争することになります。敗れたエウリュステウスが処刑されるというものです。
「ヒッポリュトス」女神アプロディーテによりもたらされた悲劇
エウリーピデースは、ヒッポリュトスについて2作品作っているそうです。先行すると考えられるもう一つは断片でしか残っていないそうです。
主な登場人物は、アテナイ王テーセウス、その先妻との間の子のヒッポリュトス、テーセウスの現在の妻であるパイドラー、女神アプロディーテ、女神アルテミスなどです。
ヒッポリュトスの母(テーセウスの先妻)は、アマゾーンの女王でした。ヒッポリュトスは処女神アルテミスを深く信仰し、女性との接触を嫌ってい、女神アプロディーテを蔑視していました。それに怒った女神アプロディーテがパイドラーの胸にヒッポリュトスへの恋の火を燃え上がらせます。
ヒッポリュトスはパイドラーの想いを拒絶したことから、パイドラーは夫のテーセウスに知られることを恐れ、高貴なものとしての在り方を守ろうと首をくくります。そこにヒッポリュトスの乱暴されそうになり低層を守るために死んだと書置きます。
帰宅して妻の死とその書置きを知ったテーセウスは、ヒッポリュトスと激しく口論を繰り広げ、追放し、海神ポセイドーンにその死を願い、ヒッポリュトスは瀕死の状態に陥ります。死の寸前に女神アルテミスが現れて、テーセウスにこの一連の出来事は女神アプロディーテによるもので、テーセウスとヒッポリュトスの二人は和解しますが、その直後、ヒッポリュトスは息絶えるというものです。
〈書籍データ〉
『エウリーピデースⅠ ギリシア悲劇全集5』
編 者:松平千秋・久保正彰・岡道男
発 行:株式会社岩波書店
価 格:4,300円(税別)
1990年5月11日 第1刷発行
図書館で借りた当時のデータです。