明治の文豪、夏目漱石を題材にした小説『ミチクサ先生 上』のレビュー
漱石サイドからの夏目漱石と正岡子規の真友の友情物語
夏目漱石、自分のなすことを見つけるまでのミチクサ
レビュー
明治の文豪の夏目漱石を主人公に、お互いに相手を人物と認めあう夏目漱石と正岡子規の真友の固い絆を主に夏目漱石サイドから描いたものです。
夏目漱石の生い立ちから、生まれてすぐに養子に出されるも養家の夫婦の仲たがいからの離縁などから生家の夏目家に戻り、兄の影響で英語を学ぶも、漢籍を学びたくて二松学舎に入り、その後は予備門にいって、帝国大学(のちの東京大学)で英文学を学ぶ姿とその過程での真友の正岡子規との出会いから、共に影響し合い、教え合い、助け合う姿が描かれています。
タイトルにある”ミチクサ”とは、夏目漱石は現在では明治の大文豪として知られていますが、そもそも学びたいことについてもいろいろと変わっていく過程や、大学卒業後もすぐに執筆活動をしたわけではなく、子規の故郷の松山や熊本での英語教師生活とその限界を経てと、やりたいことに一直線に進んでいくわけではないその道程から名づけられています。
上巻では、夏目漱石や正岡子規のお互いに実らなかった初恋のエピソードや、夏目漱石の結婚と妻鏡子との夫婦生活、熊本の教え子で、卒業後も夏目漱石を師とあおぐ寺田寅彦との交友が、正岡子規との友情とともに描かれています。
夏目漱石と妻の鏡子については、のちに生徒の前で「I love you」についての訳を質問されたときに、「月がきれいですね」とすればいいというエピソードとなる二人の話や、『坊ちゃん』や『吾輩は猫である』の誕生に通じるようなエピソードが描かれていて、改めて夏目漱石先生の作品を読み直してみたいと思わされました。
『ノボさん : 小説正岡子規と夏目漱石 上下』でもそうでしたが、二人の友情と交流とそこからの人脈の広がりが、俳句・短歌・小説などの日本の近代から現代文学につながっていくんだと思うと、その源流にある友情に、お互いを畏友とする二人の関係にうらやましさと心温まる思いがします。
〈書籍データ〉
『ミチクサ先生』
著 者:伊集院静
発 行:株式会社講談社
価 格:1,870円(税込)
2021年 11月17日 初版発行
夏目漱石と正岡子規の真友の友情 子規サイドの上巻
夏目漱石と正岡子規の真友の友情 子規サイドの下巻