負け修羅、勝ち修羅
次々討ち取られていく平家一門それぞれの悲劇
本書について
この巻は、”鵯越えの逆落とし”で有名な一の谷の合戦が中心ですが、吉川英治先生は『平家物語』では描かれていたその逆落としの前に源義経が鹿が下りていくのをみて、馬も下りることができるはずだとして下りていく有名なシーンは描かれていません。
四国・屋島に根拠地を据え、清盛が築いた福原に再進出を果たして京を望むところにまで力を回復した平家に対して、後白河法皇は平家に対して和平の使いを送り、和議についての正式な院宣を下す前までは源氏にも兵を動かさせないようにするという内容でした。
ただこれは罠で、後白河法皇は鎌倉殿らと組んでおり平家を油断させるためで、院宣使が平家のところに来る前日を期して源範頼・義経らに一の谷を攻めるようにしてあり、油断した平家に源氏が攻撃を仕掛けることになります。
(本書巻末史料 一ノ谷の戦い関係地図)
各地で敗れる中、平通盛、平敦盛、平忠度などの多くの一門が討ち取られ、平重衡は捕らえられ、平家軍の主力の家人たちも討ち取られていきます。平家一門の主だったものの最期はそれぞれに章立てされて述べられており、ここら辺は『平家物語』と同じように展開していきます。
平家の「負け修羅」と源氏の「勝ち修羅」
どちらにしてもその”修羅の世界”が展開されますが、その修羅の世界に疑問を抱き始めるのが平敦盛を討ち取った熊谷次郎直実で、またこの”修羅の世界”に、ある意味大きな人類愛で接する架空キャラの医師麻鳥のその戦いによる憎しみの連鎖を断ち切り、平和を願いながら医師として傷ついたものについては源氏平家を問わずに治療にあたる姿がこの戦いの救済のように展開されます。
四国・屋島に逃げる平家、一の谷の勝利で京へ凱旋するも”三種の神器”を取り返せなかったことに対する源義経の負い目と戦指揮に関する梶原平三景時との対立(作品内では景時のやっかみ)が戦いをさらに過熱させていくことを感じさせる13巻でした。
『平家物語』のレビューはこちら
『平家物語』を読むときの辞典的な1冊