水没ではなくアトランティス化の危機 | 知りたがりな日本人のブログ@インドネシア

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日本語では検索できないインドネシア国内の話題を、雑談に使えるレベルで解説。

気候変動の影響による海面上昇で、世界各国の沿岸に位置する大都市が水没する可能性について語られる時、最も早く水没する都市として名前が挙げられる首都ジャカルタ。面積は東京23区と同じくらい。漁港のある沿岸沿いが海抜ゼロ以下というところも東京と似ている。

 

Climate centralによる2030年水没予測マップによると、沿岸線から10キロ範囲内まで都市の主要部は全て赤く塗られていて、相当ヤバいという印象を与える。といって映画のように一揆に津波が押し寄せるのではなく、あるとすれば大雨のあと水が引かない地区が次第に増えてくるという沈み方になるだろう。

#Peta proyeksi Jakarta Tenggelam 2030 

 

海面上昇について世界的な議論が交わされるもうずっと前から、ジャカルタ市の地盤沈下問題の深刻さについては警告されてきた。いくつもの河川や水路が、街の中を通り抜け海に注ぐ脆弱な土壌な上に水はけが悪く、急激な都市化の重みにそもそも耐えられないことはよく知られている。

 

ジャカルタ湾から海峡を渡ったカリマンタン島西部の既存の町を都市化する形で首都を移転させる計画は、建国の父スカルノ大統領の発案によるもの。しかし何故、東部のジャングルを伐採して建てることになったのかは謎。もうすぐ移転式典はやるかもしれないけれど、すぐに全て移転できるわけではなくまだまだ巨額の国家予算負担が続く見通しだ。

 

ジャカルタ都心には、カンプンアプン(浮かぶ村)とよばれる、竹や廃材などで床を高くして水の上に暮らしている地区があるが、その水たまりの深さがなんと今や3メートルにもなっているという。自主的に引っ越せば何の補償も受らえない、職を失うリスクがあるとして引っ越せないままもう何十年もくらしている。
#Kampung Apung 

 

首都機能が移転したところで、何か変わるようにも思えない。使用しなくなった省庁のビルは二束三文で売り渡されるに違いない。そういう利権があるからなおさら、11月の知事選挙もまたゴリゴリに荒れるだろう。投資対象であるビルを取り払って、政府が緑地を作るなどはありえないだろう。

 

戦後70年もたつというのにまだ上下水道がない、ごみ収集もできていない危険で不衛生な地区に人口の60%が暮らしている。それらを移住させて、洪水や渋滞の問題を解決しようと市営住宅の建設がすすめられたこともあったが、次の知事の代になって白紙撤回、全面停止になるという、矛盾だらけの都市それがジャカルタ。

 

漁村を守る堤防建設の計画とは別に、ジャカルタ湾の入り口をふさぐ形で巨大な壁を築くジャイアントシーウォールという計画もあったが、未だに計画の段階。どれだけ実現可能なのかはまだわからない。湾を巨大な壁でふさいだら、市街の水路から流れる水が海に流れ込むのを阻んで、ますます洪水がひどくなるだけだとも言われている。

 

出来たばかりの堤防ですら、二年に一度20センチかさ上げしなければならなかったり、出来上がって間もないのにすでにヒビが入って堤防沿いの道路が常に水浸しだったり。つまり今もこれからもずっと政府の方針と予算の割り振りに依存していくわけだが、それでも地元の人は堤防が出来たからもう安心だと喜んでいる。

#Turunnya Permukaan tanah jakarta

 

そうではあっても、ジャカルタは堤防があるだけまだいい。ジャカルタ湾の西端に位置するブカシ県、さらに西隣のカラワン県の北部沿岸の方では既に水没した村がいくつもあるからだ。

 

現地での対策といえば中古タイヤや土嚢などを積むぐらい。長く耐え忍んだ末、結局、村人は移住を決断することになる。スハルト大統領の指導によりマングローブの森を抜いて築いた魚の養殖所はあっという間に海に沈んでしまったという。

 

村人は沈んでしまった家がまた住めるようになることを願いをこめて、水際にマングローブやテンバカウの苗を植えている。村の経済を担ってきた年に三度も収穫できる肥沃な農地が沈んで、陸と島の間の海峡に代わってしまったという地域もある。自然の前に人間はいかに無力かということを実感する。

#Pantura tenggelam

 

これらはジャワ島北岸をつたって中部・西ジャワ地方まで続いている。人口や建物が過密なわけでもない海岸でも沈むのだから、これが本当の気候変動の影響なのか、それとも最近地震が多いが大きな地殻変動でも起こっているのか。

 

その一方でジャカルタ湾の西側にあるバンテン県の沿岸部では真逆のことが始まっている。つい最近になって(次期大統領が確定した憲法裁判の判決が出た直後)住宅街拡張のための強引な土地買収で地元住民との紛争のただ中にある大企業に、国の戦略的プロジェクト指定というお墨付きが付いた。

 

そういえば、沈没の危機といわれている漁村のすぐ近くに、玄関先にヨットが停泊できるという超高級な住宅街があるがそこでは洪水や堤防が漏れたなどという話はあまり聞いたことがない。

 

沈没予測マップでは赤く塗りつぶされた地域であっても、きちんと対策すれば、大規模な開発しても心配はいらないということだろうか。しかしそのような場所に、無理して浸水しない居住区を作れば、その影響が他の村を地盤沈下させるようなことにつながらないのだろうか。

 

こんなことを考えだしたらきりがない。そんなことを想いながら観ていた現地取材のレポーターの言っていた”ジャワ島はアトランティス化してしまうのでしょうか?” というひとことが心に引っかかった。

 

イスラムの教えでは、自然災害は人間が間違った方向に向かっているということに対する警告だという。アトランティス化というと、為政者が警告に心を止めず、悔い改めないためついに終末がおとずれるとき、現在ある陸地が沈み、太古の昔に沈んだアトランティス大陸が浮上してくるというイメージ。

 

今の現象はその予兆なのだと思うことで、無駄な焦りやストレスを背負いこむというありがちな過ちを戒めるための尊い先人の知恵なのかもしれない。最終的に裁くのは神であって人間じゃない。その通りだ。これからは、水没の危機という文字をみたら、アトランティス化の危機と、心の中で変換することにする。

 

何故、インドネシアで、アトランティスの話が出てくるかというと、インドネシアの島々と東南アジアが陸続きだった頃のスンダランドこそがアトランティスなのだとする説が存在し、大多数の支持を得ている。これが中々興味深いのでまた別に書く。