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刑事弁護人の憂鬱

日々負われる弁護士業務の備忘録、独自の見解、裁判外の弁護活動の実情、つぶやきエトセトラ

刑事政策の基礎 特別編 「いわゆるテロ等準備罪について」その1

 

1 いわゆる共謀罪の処罰を内容とする組織犯罪処罰法改正問題は、以前3回も国会に上程されながら、廃案に終わっている。しかし、本年(2017年)になってから、共謀罪改め「テロ等準備罪」に名称変更(といっても原案には「テロ」の名称はない。)と構成要件の具体化、主体の組織犯罪の要件化、対象犯罪の大幅な削減を狙って(それでも300近くある。)、2017年2月28日、新たな改正案が与党内に開示され※、審議検討を経て、3月10日の閣議決定に向けて、現在議論が進められている。

 

2017年版組織犯罪処罰法改正案(閣議決定前原案)

http://www.tbsradio.jp/124223

 

2 「テロ等準備罪」がいわば限定された「共謀罪」(これは、共謀罪における主観説・合意説ではなく、オーバートアクトovert act(顕示行為・外部的行為。国際条約上の「合意の内容を推進するための行為」)を要件とする立場を採用し、実態は、犯罪組織内における「共謀共同予備罪ないし準備罪」というべきものである。従来の予備罪不可罰の罪では犯罪化であり、予備罪可罰の罪では重罰化の立法案である。)の個別の批判は、従来の「共謀罪」批判の論考(例えば下記②)が、そのまま、ネット検索すれば、直ちに情報に接することができるので、詳細は割愛する。※

 

※ いわゆる共謀罪に関する議論

 従前の議論をまとめたものとして、①長末亮「共謀罪をめぐる議論」編集 国立国会図書館調査及び立法考査局 レファレンス788号[2016-09-2053頁以下、共謀罪否定論として、②日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017217)、共謀罪肯定論として、法務省コメント「組織的な犯罪の共謀罪について」(200610)がある。

①について http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10195997_po_078803.pdf?contentNo=1

②について http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170217_2.html

③について http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji35.html

 

  本件立法案は、治安刑法の側面があることは否めず、行動の自由保障の観点から多くの疑念が提示されるのは避けられない。法案の賛否とは別にしても捜査機関の通信傍受・電子監視における職権濫用は罰則の強化とともに令状審査の徹底と情報開示によって抑制を図ることを考えてもよいであろう(現在審理中の無令状GPS捜査の最高裁の判断が注目される。)

  とはいえ、立法事実の検証としては、日本国内については、いわゆるイスラム原理主義・過激派テロ組織の活動が事件化したことはないが(但し、イスラム国に参加しようとしていた学生に関し、刑法上の私戦予備罪の容疑で捜査が行われたことがあるし、国内での協力者と疑われる者への内偵捜査は現実に行われているようである。)1970年代の日本赤軍事件、1995年の地下鉄サリン事件など日本国内ないし日本人による組織的テロ事件の実例はある。振り込め詐欺など特殊詐欺の組織化・国際化のケースもあり、国際的な資金洗浄、薬物・人身取引と組織犯罪との結びつきは、日本も無縁ではない。重大犯罪の未然の防止・抑止刑の考えからは、現行の予備罪だけの処罰範囲のカバーで必要十分かどうかが問われる。法益の保護は、伝統的な侵害後の事後的制裁による応報に基づく一般予防だけでなく、侵害前の事前の一般予防を刑罰によって達成する、つまり処罰の前倒し既遂から未遂へ、未遂から予備へと犯罪化が行われてきたのも歴史的に理由のないことではない。但し、その分、刑罰の国民生活への干渉は増大し、濫用による自由の抑圧の危険が高まる。立法技術は、法益の保護・治安の維持と自由の保障の緊張関係をどう合理的に線引きをするのかが問われているのである。「過度に広範な規制」に憂慮する論者は消極的になるし、組織的な重大犯罪への脅威、不安感に駆られる論者は、安易に積極的になろう。いわば国家権力に対する悲観主義(性悪説)と楽観主義(性善説)の対立である。

 

3 そもそも、本件改正は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」第5条第1項(a)()金銭的利益その他物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの」=いわゆる「共謀罪=コンスピラシー」の立法措置要請の問題であって、共謀罪否定論は、同条約批准否定論が素直であるが、留保付き批准論が主張されることがままある(日弁連の意見書など。)

  この点の条約の留保・解釈宣言の問題は、議論があるところであるが、日本が予備罪を例外的にしか処罰していない伝統を根拠に「留保」することは、米国の州法と連邦法との関係という憲法原則に抵触することへの懸念からの「留保」と異なり、難しいのでないかとの見解として古谷修一「国際犯罪防止条約の特質と国内実施における問題-共謀罪の制定を中心に-」2007年早稲田大学社会安全政策所紀要()236頁以下がある)

  なお、同()はいわゆる「参加罪」の立法措置要請で有り、同条約は、「共謀罪」又は「参加罪」の立法措置を要請しているので。本来立法政策的には、「参加罪」の犯罪化もありうるのであるが、あまり注目されていない。

  また、そもそも国連条約に基づく犯罪化について批判的な見解として、足立昌勝「条約に基づく犯罪の創出と治安法」関東学院法学第22(2013)4号1頁以下がある。

 

4 今後、国会での論争が展開される中、治安と自由のバランス、実体法だけでなく手続き法による規制※も含めて広い視野にたった上での議論が望まれるが、与党のいつもの数を頼んだ強行採決の落ちは、国民の不信を募らせるだけである。なお、閣議決定後の上程案が確定した段階で、その是非について、追って検討する予定である。

 

※共謀罪の手続き

 実体法で共謀罪(コンスピラシー)を犯罪化しても、その立証に当たって、手続き法上の特別な手当がないとその立証は現実には難しいのではないかとの指摘をするものとして、亀井源太郎「共謀罪と刑事手続」法学会雑誌48()119頁以下(2007-07)がある。

 

 

刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その5

 

5 刑の一部執行猶予の基盤…仮釈放と保護観察

 

 ア 刑の一部執行猶予の類型

   刑の一部執行猶予は、下記の類型が想定される。

  ⅰ実刑部分(仮釈放なし)+猶予部分の保護観察なし

  ⅱ実刑部分(仮釈放なし)+猶予部分の保護観察あり

  ⅲ実刑部分(仮釈放+保護観察あり※)+猶予部分の保護観察なし

  ⅳ実刑部分(仮釈放+保護観察あり)+猶予部分の保護観察あり

 

   ※仮釈放と保護観察の連動

仮釈放は、必要的保護観察なので(更生保護法第40条)、実刑部分(仮釈放+保護観察なし)は現行制度上存在しえない。なお、現行制度のように仮釈放と保護観察の連動について、残刑期間が長い場合に保護観察期間が長期化するのは妥当でないので(川出=金・刑事政策247頁)、仮釈放のみ、あるいは保護観察を事後解除する立法案(改正刑法草案第85条、83条2項但し書きなど)もある。

 

   同様に全部執行猶予については、  

  A全部執行猶予+保護観察なし

  B全部執行猶予+保護観察あり

   実刑についても、

  a実刑+仮釈放なし=満期釈放                    

  b実刑+仮釈放+保護観察あり

  となる。

 

  このことからわかるとおり、刑の一部執行猶予の各類型は、ⅰ類型=a+A、ⅱ類型=a+B、ⅲ類型=b+A、ⅳ類型=b+Bの変形した組み合わせである。しかし、仮釈放自体の判断が、判決確定後、行政官庁が行うに対し、一部執行猶予自体の判断は、全部執行猶予と同様に判決時に裁判所が判断するという違いがある。

そこで、刑の一部執行猶予制度の理解のために、社会内処遇としての仮釈放制度と保護観察制度の理解を再確認する必要がある。※

 

※犯罪傾向・再犯のおそれ

 刑の一部執行猶予は、全部執行猶予は不当という判断を前提としているので、その分だけ、全部執行猶予相当事案に比較して、犯罪傾向・再犯のおそれが高いものといえる事案が想定される。そうだとすると、犯罪傾向・再犯のおそれに比例し、更生保護的なケアーの一番高いⅳ類型、緩和されたⅲ類型、さらに緩和されたⅱ類型、もっとも緩和されたⅰ類型の適用が考えられる。ただし、一部執行猶予の趣旨からすれば、どの類型でも施設内(実刑部分)での専門的処遇プログラムなどが実施されるべきであるし、執行猶予部分に保護観察を付けない場合(ⅲ類型とⅰ類型)でも、近親者=身元引受人の事実上の監督が期待されよう(従前の満期釈放者に保護観察が付かないことの弊害を防止する必要性の考慮)。

 

 

 イ 仮釈放制度

   仮釈放とは、懲役又は禁錮に処せられた受刑者を行政官庁の処分によって、仮に釈放することをいう(刑法第28条以下、更生保護法第33条以下)。※

   仮釈放制度の趣旨は、無用の拘禁を避けるとともに受刑者に将来の希望を与えてその改善を促し、併せて刑期満了後における社会復帰を容易にさせる、つまり主として受刑者の改善更生を目的とする(条解刑法第二版66頁参照)。

   近時の重罰化の実務の傾向は、量刑の重罰化とともに仮釈放の許可の厳格化にあらわれる(後述)。しかし、仮釈放をあまりに厳格にすると、刑務所の定員を超える過剰拘禁を生じ、円滑適正な処遇が困難となり、また、満期釈放でいきなり社会に戻すより※※、保護監察下での社会復帰の準備を促すことが、改善更生に資する。まして、再犯率の高い犯罪や累犯受刑者については、更生保護上のケアが強く要請されるのであり、再犯予防(特別予防)を実効させるためにも仮釈放+保護観察の制度は有益で有り、政策的にはその充実化が望まれるし、現に近時の更生保護法等の改正も仮釈放と保護観察の充実化を図るものといえる。但し、人的体制である保護司(非常勤の公務員であるが無報酬のボランティア)の不足(高齢化などから定年の増加と成り手の減少)が深刻な問題となっている。この点は、保護観察制度の項目で論じる。

 

※仮の身柄釈放制度…パロール制度

なお、類似の満期前の仮の身柄釈放制度として、①拘留受刑者又は労役留置者に対する仮出場(刑法第30条等。保護観察なしの終局処分)、②少年院の在院者に対する仮退院(少年法第58条以下等)、③婦人補導院の在院者に対する仮退院がある。現行制度上、仮釈放と①②③を併せて、「仮釈放等」という。また、必要的保護観察である仮釈放、②③の比較法的沿革は、欧米における「パロール palole」(遵守事項を宣誓して釈放する制度)に求められる(松本・前掲39頁参照)。

※※仮釈放制度の問題点…残刑期間主義

  現行仮釈放制度は、残刑期間に保護観察を付する残刑期間主義をとる。しかし、これでは、「再犯の危険性が低い者が早期に釈放されて長い期間の保護観察を受けるのに対し、再犯の危険性が高いために最も処遇を必要とする者が、仮釈放の時期が遅れるために、かえって短い保護観察しか受けないという矛盾が生じ」「残刑が全くない満期釈放者の場合」に保護観察による監督が全くないという問題が生じる(川出=金・前掲244頁から245頁)。このような弊害に対して、一定の期間が過ぎると必ず仮釈放する必要的仮釈放制度や再犯の危険性に応じて弾力的に仮釈放期間を定めて保護観察に付する考試期間主義(仮釈放を執行猶予とパラレルに考える。ドイツ刑法57条参照)の立法案が主張されている(川出=金245頁から246頁参照)。

 

 仮釈放の要件として、

 ⅰ 懲役又は禁錮の受刑者に①改悛の状があり、②有期刑についてはその刑期の3分の1、無期刑については10年を経過することが必要である(刑法第28条)。

 ⅱ ①の改悛の状に関し、具体的基準として、犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(以下「社会内処遇規則」という。)第28条は悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当である【積極的要件】と認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない【消極的要件】。」と定めている。

 

 ⅲ ②の経過期間であるが、現実の仮釈放の運用上、2013年の有期刑の仮釈放許可者の75パーセントの刑の執行率は80パーセントを超える(松本・前掲50頁)。つまり、刑期の3分の1で仮釈放が許可されるのは、実際には非常に少ないということである(刑期の4分の3以上経過が事実上の運用。川出=金・刑事政策240頁によると、2010年までの統計では、仮釈放率は、約5割であり、約5割が満期釈放されているという。なお、戦後から近時の仮釈放率の経緯は、同書240頁から241頁が詳しい。)。また、無期刑の仮釈放許可は、近年経過期間が30年を超える場合に認められており、その人数も一桁台である(松本・前掲50頁)。

 

 仮釈放の手続きの流れは、

 

ⅰ矯正施設の長による身上調査書の作成、ⅱ帰住予定地の調査・調整、ⅲ矯正施設の長による地方更生保護委員会への仮釈放の申出、ⅳ保護観察官の調査・収容者の申告票の提出・被害者等の意見聴取、ⅴ合議体による審理・許可決定、ⅵ仮釈放・保護観察の実施、となる。

 

仮釈放が許可される場合は、対象者に対し、保護観察を付し(更生保護法第40条 必要的保護観察)、遵守事項が定められる。遵守事項違反は、仮釈放の取消事由となる(刑法第29条第1項第4号)。

遵守事項には一般遵守事項(更生保護法第50条)と特別遵守事項(同法51条以下)がある(保護観察の遵守事項でもあるので、詳細は後述)。

仮釈放中、取消もなく残刑期が経過すると(仮釈放の取消がない限り、釈放中の刑期は算入される、つまり刑期は進行する=刑法第29条第2項の反対解釈)、刑の執行は終了する。但し、保護観察が停止した場合は、刑期の進行は停止する(更生保護法第77条第5項)。

 

仮釈放の取消事由は、次のいずれかに当たる場合である(刑法第29条第1項第1号ないし第4号)。ただし、取消は必要的ではなく裁量的取消である。

 

「第1号 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。

第2号 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。

第3号 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。

第4号 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」

 

法律上裁量の判断基準は定められていないが、地方委員会は、本人の改善更生を目的とする仮釈放の趣旨からすれば、保護観察を継続することにより改善更生が期待できるかどうかで取消の可否を判断すべきと解される(取消の必要性・相当性という実質的要件 川出=金・前掲242頁から243頁参照。なお、同書243頁は、実際の仮釈放の取消率は、執行猶予の場合に比して極めて低いという。)。

 

刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その4

4 薬物法上の刑の一部執行猶予制度

 ア 意義

  刑法上の刑の一部執行猶予制度と同時に薬物使用等を犯した者に対する刑の一部執行猶予制度を定めた「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(以下「薬物法」という。)が平成25年制定され、平成28年6月より施行されている。刑法上の刑の一部執行猶予制度の特則(例外)である。その趣旨は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することにある(薬物法第1条参照)。

 そもそも、覚せい剤など依存性の高い規制薬物の自己使用者は、薬物との親和性、常習性を有する割合が多く、再犯率も高い。いわゆる薬物依存症になった薬物自己使用者に対し、単に施設内処遇を実施しても(刑務所への収容と刑務作業の実施)、薬物に対する自己抑制が働かず、そのまま社会に戻っても薬物に手を染めることが多く、これが再犯率の高さの要因となっている。そこで、施設内処遇においても社会内処遇においても継続して薬物依存症の治療プログラム・離脱指導を実施する必要がある。薬物依存症の再犯率が高いことからすると、薬物前科のある累犯者については、より一層、治療プログラム等の実施の必要は高い。そこで、薬物法は、薬物依存症で薬物前科のある累犯者について、刑法上の刑の一部執行猶予制度の要件を満たさなくても、一部執行猶予を認め、治療プログラム等の実効性を図るため、必要的保護観察を導入したのである。

 

  (趣旨)

薬物法 第1条 「 この法律は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑み、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関し、その言渡しをすることができる者の範囲及び猶予の期間中の保護観察その他の事項について、刑法(明治四十年法律第四十五号)の特則を定めるものとする。」

 

イ 要件

  薬物法上の対象犯罪は、覚せい剤、大麻、シンナー、麻薬、あへん、シンナーなどの規制薬物の自己使用罪、単純所持罪である(薬物法第2条参照)。単純所持罪が対象となるのは、自己使用罪と同様に、薬理作用に対する依存の徴表として犯されることが多いからである(松本・前掲250頁参照)。なお、向精神薬は、麻薬及び向精神薬取締法での規制薬物であるが、薬物法上の規制薬物等には該当しない(太田・前掲198頁)。

 

定義)

薬物法 第2条第1項  「この法律において「規制薬物等」とは、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に規定する大麻毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)第三条の三に規定する興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する毒物及び劇物(これらを含有する物を含む。)であって同条の政令で定めるもの、覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に規定する覚せい剤麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定する麻薬並びにあへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に規定するあへん及びけしがらをいう。」

第2項  「この法律において「薬物使用等の罪」とは、次に掲げる罪をいう。

 刑法第百三十九条第一項若しくは第百四十条(あへん煙の所持に係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

 大麻取締法第二十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)の罪又はその未遂罪

 毒物及び劇物取締法第二十四条の三の罪

 覚せい剤取締法第四十一条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第四十一条の三第一項第一号若しくは第二号(施用に係る部分に限る。)若しくは第四十一条の四第一項第三号若しくは第五号の罪又はこれらの罪の未遂罪

 麻薬及び向精神薬取締法第六十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第六十四条の三第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)、第六十六条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第六十六条の二第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

 あへん法第五十二条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第五十二条の二第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪」

 

 適用できる宣告刑は、「3年以下の懲役又は禁錮」であり、刑法上の刑の一部執行猶予と同じである(刑法第27条の2)。

 対象者は、①刑法第27条の2第1項各号に掲げる者(ⅰ前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者、ⅱ前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者、ⅲ前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者)以外で、②薬物法第2条第2項に規定する薬物使用罪等の罪を犯した者である(薬物法第3条)。つまり、薬物使用罪等の累犯前科者である。

 実質的要件は、①犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、②刑事施設における処遇に引き続き社会内において薬物法第2条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められる場合である(薬物法第3条、刑法第27条の2)。すなわち、特別予防の必要性・相当性について、薬物法は、刑法上の場合よりも、より具体的に薬物依存の改善処遇による必要性・相当性がある場合としているのである。※

 

※薬物再使用防止のための専門的処遇プログラム(松本・前掲94頁ないし95頁、262頁ないし265頁)

 薬物依存者については、施設内処遇自体が、まず薬物摂取の物理的遮断措置となっている。さらに施設内及び社会内処遇を通じて依存症治療のための各種専門的処遇が実施されることが期待される。例えば、覚せい剤事犯者に対し、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門知識に基づき、特定の犯罪的傾向を改善するため体系化された手順による処遇=「覚せい剤事犯者処遇プログラム」の実施である(松本・前掲94頁参照)。すなわち、「覚せい剤の悪影響と依存性を認識させ、覚せい剤依存に至った自己の問題性について理解させるとともに、簡易薬物検出検査(尿検査キット、唾液検査キットを使用しての簡易検査)において薬物が検出されない旨の結果を出し続けることを目標にして、覚せい剤を再び使用しないとの意思を強化し、これを持続させつつ、再び覚せい剤を使用しないようにするための具体的な方法を習得させ、その犯罪傾向を改善することである」(松本・前掲94頁)。このような専門的処遇を受けることが、猶予期間中の保護観察における特別遵守事項として定めることが原則として義務付けられる(更生保護法第51条の2第1項)。専門的処遇は、薬物処遇重点実施更生保護施設において、専門スタッフにより実施されるほか、民間の薬物依存症リハビリテーション施設など(ダルクなど)を自立準備ホームに登録し、宿泊場所、食事提供を委託したり、同施設におけるグループミーティングに参加させ、薬物依存回復訓練を実施し、その他各種医療機関の専門的な援助を受けさせることが想定される(松本・前掲262頁以下)。

 

 

(刑の一部の執行猶予の特則)

薬物法 第3条 「 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第二十七条の二第一項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第五十号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。」

 

ウ 必要的保護観察

  薬物法上の刑の一部執行猶予判決が宣告される場合、刑法上の場合と異なり、その猶予期間に関して保護観察は必ず付される(必要的保護観察 薬物法第4条第1項)。薬物依存の累犯者の場合、薬物再使用防止のための専門的処遇プログラム、薬物依存に改善に資する医療や援助などを一体的に実施する保護観察の必要性が一般的に高いからである(松本・前掲254頁)。

 

刑の一部の執行猶予中の保護観察の特則)

薬物法 第4条第1項 「 前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第二十七条の三第一項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。」

第2項 「 刑法第二十七条の三第二項及び第三項の規定は、前項の規定により付せられた保護観察の仮解除について準用する。」

 

 エ 一部執行猶予の必要的取消の特則等

 

(刑の一部の執行猶予の必要的取消しの特則等)

薬物法 第5条 第1項 「 第三条の規定により読み替えて適用される刑法第二十七条の二第一項の規定による刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについては、同法第二十七条の四第三号の規定は、適用しない。」

第2項 「 前項に規定する刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについての刑法第二十七条の五第二号の規定の適用については、同号中「第二十七条の三第一項」とあるのは、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項」とする。」