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刑事弁護人の憂鬱

日々負われる弁護士業務の備忘録、独自の見解、裁判外の弁護活動の実情、つぶやきエトセトラ

刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その5

 

5 刑の一部執行猶予の基盤…仮釈放と保護観察

 

 ア 刑の一部執行猶予の類型

   刑の一部執行猶予は、下記の類型が想定される。

  ⅰ実刑部分(仮釈放なし)+猶予部分の保護観察なし

  ⅱ実刑部分(仮釈放なし)+猶予部分の保護観察あり

  ⅲ実刑部分(仮釈放+保護観察あり※)+猶予部分の保護観察なし

  ⅳ実刑部分(仮釈放+保護観察あり)+猶予部分の保護観察あり

 

   ※仮釈放と保護観察の連動

仮釈放は、必要的保護観察なので(更生保護法第40条)、実刑部分(仮釈放+保護観察なし)は現行制度上存在しえない。なお、現行制度のように仮釈放と保護観察の連動について、残刑期間が長い場合に保護観察期間が長期化するのは妥当でないので(川出=金・刑事政策247頁)、仮釈放のみ、あるいは保護観察を事後解除する立法案(改正刑法草案第85条、83条2項但し書きなど)もある。

 

   同様に全部執行猶予については、  

  A全部執行猶予+保護観察なし

  B全部執行猶予+保護観察あり

   実刑についても、

  a実刑+仮釈放なし=満期釈放                    

  b実刑+仮釈放+保護観察あり

  となる。

 

  このことからわかるとおり、刑の一部執行猶予の各類型は、ⅰ類型=a+A、ⅱ類型=a+B、ⅲ類型=b+A、ⅳ類型=b+Bの変形した組み合わせである。しかし、仮釈放自体の判断が、判決確定後、行政官庁が行うに対し、一部執行猶予自体の判断は、全部執行猶予と同様に判決時に裁判所が判断するという違いがある。

そこで、刑の一部執行猶予制度の理解のために、社会内処遇としての仮釈放制度と保護観察制度の理解を再確認する必要がある。※

 

※犯罪傾向・再犯のおそれ

 刑の一部執行猶予は、全部執行猶予は不当という判断を前提としているので、その分だけ、全部執行猶予相当事案に比較して、犯罪傾向・再犯のおそれが高いものといえる事案が想定される。そうだとすると、犯罪傾向・再犯のおそれに比例し、更生保護的なケアーの一番高いⅳ類型、緩和されたⅲ類型、さらに緩和されたⅱ類型、もっとも緩和されたⅰ類型の適用が考えられる。ただし、一部執行猶予の趣旨からすれば、どの類型でも施設内(実刑部分)での専門的処遇プログラムなどが実施されるべきであるし、執行猶予部分に保護観察を付けない場合(ⅲ類型とⅰ類型)でも、近親者=身元引受人の事実上の監督が期待されよう(従前の満期釈放者に保護観察が付かないことの弊害を防止する必要性の考慮)。

 

 

 イ 仮釈放制度

   仮釈放とは、懲役又は禁錮に処せられた受刑者を行政官庁の処分によって、仮に釈放することをいう(刑法第28条以下、更生保護法第33条以下)。※

   仮釈放制度の趣旨は、無用の拘禁を避けるとともに受刑者に将来の希望を与えてその改善を促し、併せて刑期満了後における社会復帰を容易にさせる、つまり主として受刑者の改善更生を目的とする(条解刑法第二版66頁参照)。

   近時の重罰化の実務の傾向は、量刑の重罰化とともに仮釈放の許可の厳格化にあらわれる(後述)。しかし、仮釈放をあまりに厳格にすると、刑務所の定員を超える過剰拘禁を生じ、円滑適正な処遇が困難となり、また、満期釈放でいきなり社会に戻すより※※、保護監察下での社会復帰の準備を促すことが、改善更生に資する。まして、再犯率の高い犯罪や累犯受刑者については、更生保護上のケアが強く要請されるのであり、再犯予防(特別予防)を実効させるためにも仮釈放+保護観察の制度は有益で有り、政策的にはその充実化が望まれるし、現に近時の更生保護法等の改正も仮釈放と保護観察の充実化を図るものといえる。但し、人的体制である保護司(非常勤の公務員であるが無報酬のボランティア)の不足(高齢化などから定年の増加と成り手の減少)が深刻な問題となっている。この点は、保護観察制度の項目で論じる。

 

※仮の身柄釈放制度…パロール制度

なお、類似の満期前の仮の身柄釈放制度として、①拘留受刑者又は労役留置者に対する仮出場(刑法第30条等。保護観察なしの終局処分)、②少年院の在院者に対する仮退院(少年法第58条以下等)、③婦人補導院の在院者に対する仮退院がある。現行制度上、仮釈放と①②③を併せて、「仮釈放等」という。また、必要的保護観察である仮釈放、②③の比較法的沿革は、欧米における「パロール palole」(遵守事項を宣誓して釈放する制度)に求められる(松本・前掲39頁参照)。

※※仮釈放制度の問題点…残刑期間主義

  現行仮釈放制度は、残刑期間に保護観察を付する残刑期間主義をとる。しかし、これでは、「再犯の危険性が低い者が早期に釈放されて長い期間の保護観察を受けるのに対し、再犯の危険性が高いために最も処遇を必要とする者が、仮釈放の時期が遅れるために、かえって短い保護観察しか受けないという矛盾が生じ」「残刑が全くない満期釈放者の場合」に保護観察による監督が全くないという問題が生じる(川出=金・前掲244頁から245頁)。このような弊害に対して、一定の期間が過ぎると必ず仮釈放する必要的仮釈放制度や再犯の危険性に応じて弾力的に仮釈放期間を定めて保護観察に付する考試期間主義(仮釈放を執行猶予とパラレルに考える。ドイツ刑法57条参照)の立法案が主張されている(川出=金245頁から246頁参照)。

 

 仮釈放の要件として、

 ⅰ 懲役又は禁錮の受刑者に①改悛の状があり、②有期刑についてはその刑期の3分の1、無期刑については10年を経過することが必要である(刑法第28条)。

 ⅱ ①の改悛の状に関し、具体的基準として、犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(以下「社会内処遇規則」という。)第28条は悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当である【積極的要件】と認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない【消極的要件】。」と定めている。

 

 ⅲ ②の経過期間であるが、現実の仮釈放の運用上、2013年の有期刑の仮釈放許可者の75パーセントの刑の執行率は80パーセントを超える(松本・前掲50頁)。つまり、刑期の3分の1で仮釈放が許可されるのは、実際には非常に少ないということである(刑期の4分の3以上経過が事実上の運用。川出=金・刑事政策240頁によると、2010年までの統計では、仮釈放率は、約5割であり、約5割が満期釈放されているという。なお、戦後から近時の仮釈放率の経緯は、同書240頁から241頁が詳しい。)。また、無期刑の仮釈放許可は、近年経過期間が30年を超える場合に認められており、その人数も一桁台である(松本・前掲50頁)。

 

 仮釈放の手続きの流れは、

 

ⅰ矯正施設の長による身上調査書の作成、ⅱ帰住予定地の調査・調整、ⅲ矯正施設の長による地方更生保護委員会への仮釈放の申出、ⅳ保護観察官の調査・収容者の申告票の提出・被害者等の意見聴取、ⅴ合議体による審理・許可決定、ⅵ仮釈放・保護観察の実施、となる。

 

仮釈放が許可される場合は、対象者に対し、保護観察を付し(更生保護法第40条 必要的保護観察)、遵守事項が定められる。遵守事項違反は、仮釈放の取消事由となる(刑法第29条第1項第4号)。

遵守事項には一般遵守事項(更生保護法第50条)と特別遵守事項(同法51条以下)がある(保護観察の遵守事項でもあるので、詳細は後述)。

仮釈放中、取消もなく残刑期が経過すると(仮釈放の取消がない限り、釈放中の刑期は算入される、つまり刑期は進行する=刑法第29条第2項の反対解釈)、刑の執行は終了する。但し、保護観察が停止した場合は、刑期の進行は停止する(更生保護法第77条第5項)。

 

仮釈放の取消事由は、次のいずれかに当たる場合である(刑法第29条第1項第1号ないし第4号)。ただし、取消は必要的ではなく裁量的取消である。

 

「第1号 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。

第2号 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。

第3号 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。

第4号 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」

 

法律上裁量の判断基準は定められていないが、地方委員会は、本人の改善更生を目的とする仮釈放の趣旨からすれば、保護観察を継続することにより改善更生が期待できるかどうかで取消の可否を判断すべきと解される(取消の必要性・相当性という実質的要件 川出=金・前掲242頁から243頁参照。なお、同書243頁は、実際の仮釈放の取消率は、執行猶予の場合に比して極めて低いという。)。

 

刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その4

4 薬物法上の刑の一部執行猶予制度

 ア 意義

  刑法上の刑の一部執行猶予制度と同時に薬物使用等を犯した者に対する刑の一部執行猶予制度を定めた「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(以下「薬物法」という。)が平成25年制定され、平成28年6月より施行されている。刑法上の刑の一部執行猶予制度の特則(例外)である。その趣旨は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することにある(薬物法第1条参照)。

 そもそも、覚せい剤など依存性の高い規制薬物の自己使用者は、薬物との親和性、常習性を有する割合が多く、再犯率も高い。いわゆる薬物依存症になった薬物自己使用者に対し、単に施設内処遇を実施しても(刑務所への収容と刑務作業の実施)、薬物に対する自己抑制が働かず、そのまま社会に戻っても薬物に手を染めることが多く、これが再犯率の高さの要因となっている。そこで、施設内処遇においても社会内処遇においても継続して薬物依存症の治療プログラム・離脱指導を実施する必要がある。薬物依存症の再犯率が高いことからすると、薬物前科のある累犯者については、より一層、治療プログラム等の実施の必要は高い。そこで、薬物法は、薬物依存症で薬物前科のある累犯者について、刑法上の刑の一部執行猶予制度の要件を満たさなくても、一部執行猶予を認め、治療プログラム等の実効性を図るため、必要的保護観察を導入したのである。

 

  (趣旨)

薬物法 第1条 「 この法律は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑み、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関し、その言渡しをすることができる者の範囲及び猶予の期間中の保護観察その他の事項について、刑法(明治四十年法律第四十五号)の特則を定めるものとする。」

 

イ 要件

  薬物法上の対象犯罪は、覚せい剤、大麻、シンナー、麻薬、あへん、シンナーなどの規制薬物の自己使用罪、単純所持罪である(薬物法第2条参照)。単純所持罪が対象となるのは、自己使用罪と同様に、薬理作用に対する依存の徴表として犯されることが多いからである(松本・前掲250頁参照)。なお、向精神薬は、麻薬及び向精神薬取締法での規制薬物であるが、薬物法上の規制薬物等には該当しない(太田・前掲198頁)。

 

定義)

薬物法 第2条第1項  「この法律において「規制薬物等」とは、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に規定する大麻毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)第三条の三に規定する興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する毒物及び劇物(これらを含有する物を含む。)であって同条の政令で定めるもの、覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に規定する覚せい剤麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定する麻薬並びにあへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に規定するあへん及びけしがらをいう。」

第2項  「この法律において「薬物使用等の罪」とは、次に掲げる罪をいう。

 刑法第百三十九条第一項若しくは第百四十条(あへん煙の所持に係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

 大麻取締法第二十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)の罪又はその未遂罪

 毒物及び劇物取締法第二十四条の三の罪

 覚せい剤取締法第四十一条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第四十一条の三第一項第一号若しくは第二号(施用に係る部分に限る。)若しくは第四十一条の四第一項第三号若しくは第五号の罪又はこれらの罪の未遂罪

 麻薬及び向精神薬取締法第六十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第六十四条の三第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)、第六十六条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第六十六条の二第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

 あへん法第五十二条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第五十二条の二第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪」

 

 適用できる宣告刑は、「3年以下の懲役又は禁錮」であり、刑法上の刑の一部執行猶予と同じである(刑法第27条の2)。

 対象者は、①刑法第27条の2第1項各号に掲げる者(ⅰ前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者、ⅱ前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者、ⅲ前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者)以外で、②薬物法第2条第2項に規定する薬物使用罪等の罪を犯した者である(薬物法第3条)。つまり、薬物使用罪等の累犯前科者である。

 実質的要件は、①犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、②刑事施設における処遇に引き続き社会内において薬物法第2条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められる場合である(薬物法第3条、刑法第27条の2)。すなわち、特別予防の必要性・相当性について、薬物法は、刑法上の場合よりも、より具体的に薬物依存の改善処遇による必要性・相当性がある場合としているのである。※

 

※薬物再使用防止のための専門的処遇プログラム(松本・前掲94頁ないし95頁、262頁ないし265頁)

 薬物依存者については、施設内処遇自体が、まず薬物摂取の物理的遮断措置となっている。さらに施設内及び社会内処遇を通じて依存症治療のための各種専門的処遇が実施されることが期待される。例えば、覚せい剤事犯者に対し、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門知識に基づき、特定の犯罪的傾向を改善するため体系化された手順による処遇=「覚せい剤事犯者処遇プログラム」の実施である(松本・前掲94頁参照)。すなわち、「覚せい剤の悪影響と依存性を認識させ、覚せい剤依存に至った自己の問題性について理解させるとともに、簡易薬物検出検査(尿検査キット、唾液検査キットを使用しての簡易検査)において薬物が検出されない旨の結果を出し続けることを目標にして、覚せい剤を再び使用しないとの意思を強化し、これを持続させつつ、再び覚せい剤を使用しないようにするための具体的な方法を習得させ、その犯罪傾向を改善することである」(松本・前掲94頁)。このような専門的処遇を受けることが、猶予期間中の保護観察における特別遵守事項として定めることが原則として義務付けられる(更生保護法第51条の2第1項)。専門的処遇は、薬物処遇重点実施更生保護施設において、専門スタッフにより実施されるほか、民間の薬物依存症リハビリテーション施設など(ダルクなど)を自立準備ホームに登録し、宿泊場所、食事提供を委託したり、同施設におけるグループミーティングに参加させ、薬物依存回復訓練を実施し、その他各種医療機関の専門的な援助を受けさせることが想定される(松本・前掲262頁以下)。

 

 

(刑の一部の執行猶予の特則)

薬物法 第3条 「 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第二十七条の二第一項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第五十号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。」

 

ウ 必要的保護観察

  薬物法上の刑の一部執行猶予判決が宣告される場合、刑法上の場合と異なり、その猶予期間に関して保護観察は必ず付される(必要的保護観察 薬物法第4条第1項)。薬物依存の累犯者の場合、薬物再使用防止のための専門的処遇プログラム、薬物依存に改善に資する医療や援助などを一体的に実施する保護観察の必要性が一般的に高いからである(松本・前掲254頁)。

 

刑の一部の執行猶予中の保護観察の特則)

薬物法 第4条第1項 「 前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第二十七条の三第一項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。」

第2項 「 刑法第二十七条の三第二項及び第三項の規定は、前項の規定により付せられた保護観察の仮解除について準用する。」

 

 エ 一部執行猶予の必要的取消の特則等

 

(刑の一部の執行猶予の必要的取消しの特則等)

薬物法 第5条 第1項 「 第三条の規定により読み替えて適用される刑法第二十七条の二第一項の規定による刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについては、同法第二十七条の四第三号の規定は、適用しない。」

第2項 「 前項に規定する刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについての刑法第二十七条の五第二号の規定の適用については、同号中「第二十七条の三第一項」とあるのは、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項」とする。」

 

刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その3

 

  イ 保護観察

 

刑の一部の執行猶予中の保護観察)

刑法第27条の3

第1項  「前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。」

第2項  「前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。」

第3項  「前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。」

 

刑の一部執行猶予には、猶予期間中、保護観察をつけることができる(裁量的保護観察 刑法第27条の3第1項)。つまり、刑の一部執行猶予には、全部執行猶予の場合と同様に保護観察のつく場合とつかない場合がある。なお、薬物法による一部執行猶予の場合は、保護観察は必要的とされる。薬物依存の改善のためである。

保護観察期間は、猶予期間と同じ1年以上5年以下の期間であるが、改善が認められる場合、行政官庁(地方更生保護委員会)の処分による保護観察の仮解除が可能である(刑法第27条の3第2項)。保護観察は、保護観察官及び保護司ないし更生保護施設などが行う(更生保護法61条)。

 

 ウ 一部執行猶予の取消

(刑の一部の執行猶予の必要的取消し)

刑法第27条の4 

「 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。

一  猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。

二  猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。

三  猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。」

 

 刑の一部執行猶予は、猶予を受けた被告人が、①猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき、②猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき、さらに③猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき(但し③の場合、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者(前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者)であるときは、除く)は、必要的に取り消される(刑法第27条の4)。

 

(刑の一部の執行猶予の裁量的取消し)

刑法第27条の5 

「 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。

一  猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。

二  第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」

 

 もっとも、①猶予の言い渡し後、犯した罪が罰金刑の宣告を受けたとき、②一部執行猶予期間中に保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったときは、一部執行猶予の取消は裁量的である(刑法第27条の5)

 

 

刑の一部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し)

刑法第27条の6  

「前二条の規定により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。」

 

 

 エ 猶予期間経過の効果

 

(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)

刑法第27条の7

 「 刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。」

 

 刑の一部執行猶予が、裁量的または必要的に取り消されることなく猶予期間を経過した場合、その刑は、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分(実刑部分)の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽される(刑法第27条の7前段)。例えば、懲役3年、そのうち1年について3年間執行を猶予するとの判決の場合、3年間の猶予期間経過により、実刑部分2年に刑が減軽される。この場合、実刑部分の執行を終わった日又は、その執行を受けることがなくなった日(実刑部分について仮釈放がされた実刑部分の残期が経過した場合)が刑の執行を受け終わった日とされる(刑法第27条の7後段)。

 

オ 仮釈放

(仮釈放)

刑法第28条 懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。

 

(仮釈放の取消し)

刑法第29条

第1項 「次に掲げる場合においては、仮釈放の処分を取り消すことができる。

 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。

 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。

 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。

 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」

 

第2項「 刑の一部の執行猶予の言渡しを受け、その刑について仮釈放の処分を受けた場合において、当該仮釈放中に当該執行猶予の言渡しを取り消されたときは、その処分は、効力を失う。

第3項「仮釈放の処分を取り消したときは、釈放中の日数は、刑期に算入しない。」

 

刑の一部執行猶予の場合でも、実刑部分について、仮釈放が可能である(刑法第28条)。例えば、懲役3年、うち1年について3年間の刑の執行猶予(実刑部分2年、猶予刑1年、猶予期間3年)の判決の場合、実刑部分について、実刑1年が経過後、残期間の1年について仮釈放する場合である。この場合、仮釈放後、実刑部分の残期間が終了してから、猶予刑の猶予期間が始まる。

刑の一部執行猶予の場合の仮釈放も通常の仮釈放の場合と同様の裁量的取消事由(刑法第29条第1項)がある。仮釈放中に刑の一部執行猶予が取り消されると、実刑部分の仮釈放は効力を失う(刑法第29条第2項)。