刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その5
5 刑の一部執行猶予の基盤…仮釈放と保護観察
ア 刑の一部執行猶予の類型
刑の一部執行猶予は、下記の類型が想定される。
ⅰ実刑部分(仮釈放なし)+猶予部分の保護観察なし
ⅱ実刑部分(仮釈放なし)+猶予部分の保護観察あり
ⅲ実刑部分(仮釈放+保護観察あり※)+猶予部分の保護観察なし
ⅳ実刑部分(仮釈放+保護観察あり)+猶予部分の保護観察あり
※仮釈放と保護観察の連動
仮釈放は、必要的保護観察なので(更生保護法第40条)、実刑部分(仮釈放+保護観察なし)は現行制度上存在しえない。なお、現行制度のように仮釈放と保護観察の連動について、残刑期間が長い場合に保護観察期間が長期化するのは妥当でないので(川出=金・刑事政策247頁)、仮釈放のみ、あるいは保護観察を事後解除する立法案(改正刑法草案第85条、83条2項但し書きなど)もある。
同様に全部執行猶予については、
A全部執行猶予+保護観察なし
B全部執行猶予+保護観察あり
実刑についても、
a実刑+仮釈放なし=満期釈放
b実刑+仮釈放+保護観察あり
となる。
このことからわかるとおり、刑の一部執行猶予の各類型は、ⅰ類型=a+A、ⅱ類型=a+B、ⅲ類型=b+A、ⅳ類型=b+Bの変形した組み合わせである。しかし、仮釈放自体の判断が、判決確定後、行政官庁が行うに対し、一部執行猶予自体の判断は、全部執行猶予と同様に判決時に裁判所が判断するという違いがある。
そこで、刑の一部執行猶予制度の理解のために、社会内処遇としての仮釈放制度と保護観察制度の理解を再確認する必要がある。※
※犯罪傾向・再犯のおそれ
刑の一部執行猶予は、全部執行猶予は不当という判断を前提としているので、その分だけ、全部執行猶予相当事案に比較して、犯罪傾向・再犯のおそれが高いものといえる事案が想定される。そうだとすると、犯罪傾向・再犯のおそれに比例し、更生保護的なケアーの一番高いⅳ類型、緩和されたⅲ類型、さらに緩和されたⅱ類型、もっとも緩和されたⅰ類型の適用が考えられる。ただし、一部執行猶予の趣旨からすれば、どの類型でも施設内(実刑部分)での専門的処遇プログラムなどが実施されるべきであるし、執行猶予部分に保護観察を付けない場合(ⅲ類型とⅰ類型)でも、近親者=身元引受人の事実上の監督が期待されよう(従前の満期釈放者に保護観察が付かないことの弊害を防止する必要性の考慮)。
イ 仮釈放制度
仮釈放とは、懲役又は禁錮に処せられた受刑者を行政官庁の処分によって、仮に釈放することをいう(刑法第28条以下、更生保護法第33条以下)。※
仮釈放制度の趣旨は、無用の拘禁を避けるとともに受刑者に将来の希望を与えてその改善を促し、併せて刑期満了後における社会復帰を容易にさせる、つまり主として受刑者の改善更生を目的とする(条解刑法第二版66頁参照)。
近時の重罰化の実務の傾向は、量刑の重罰化とともに仮釈放の許可の厳格化にあらわれる(後述)。しかし、仮釈放をあまりに厳格にすると、刑務所の定員を超える過剰拘禁を生じ、円滑適正な処遇が困難となり、また、満期釈放でいきなり社会に戻すより※※、保護監察下での社会復帰の準備を促すことが、改善更生に資する。まして、再犯率の高い犯罪や累犯受刑者については、更生保護上のケアが強く要請されるのであり、再犯予防(特別予防)を実効させるためにも仮釈放+保護観察の制度は有益で有り、政策的にはその充実化が望まれるし、現に近時の更生保護法等の改正も仮釈放と保護観察の充実化を図るものといえる。但し、人的体制である保護司(非常勤の公務員であるが無報酬のボランティア)の不足(高齢化などから定年の増加と成り手の減少)が深刻な問題となっている。この点は、保護観察制度の項目で論じる。
※仮の身柄釈放制度…パロール制度
なお、類似の満期前の仮の身柄釈放制度として、①拘留受刑者又は労役留置者に対する仮出場(刑法第30条等。保護観察なしの終局処分)、②少年院の在院者に対する仮退院(少年法第58条以下等)、③婦人補導院の在院者に対する仮退院がある。現行制度上、仮釈放と①②③を併せて、「仮釈放等」という。また、必要的保護観察である仮釈放、②③の比較法的沿革は、欧米における「パロール palole」(遵守事項を宣誓して釈放する制度)に求められる(松本・前掲39頁参照)。
※※仮釈放制度の問題点…残刑期間主義
現行仮釈放制度は、残刑期間に保護観察を付する残刑期間主義をとる。しかし、これでは、「再犯の危険性が低い者が早期に釈放されて長い期間の保護観察を受けるのに対し、再犯の危険性が高いために最も処遇を必要とする者が、仮釈放の時期が遅れるために、かえって短い保護観察しか受けないという矛盾が生じ」「残刑が全くない満期釈放者の場合」に保護観察による監督が全くないという問題が生じる(川出=金・前掲244頁から245頁)。このような弊害に対して、一定の期間が過ぎると必ず仮釈放する必要的仮釈放制度や再犯の危険性に応じて弾力的に仮釈放期間を定めて保護観察に付する考試期間主義(仮釈放を執行猶予とパラレルに考える。ドイツ刑法57条参照)の立法案が主張されている(川出=金245頁から246頁参照)。
仮釈放の要件として、
ⅰ 懲役又は禁錮の受刑者に①改悛の状があり、②有期刑についてはその刑期の3分の1、無期刑については10年を経過することが必要である(刑法第28条)。
ⅱ ①の改悛の状に関し、具体的基準として、犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(以下「社会内処遇規則」という。)第28条は「悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当である【積極的要件】と認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない【消極的要件】。」と定めている。
ⅲ ②の経過期間であるが、現実の仮釈放の運用上、2013年の有期刑の仮釈放許可者の75パーセントの刑の執行率は80パーセントを超える(松本・前掲50頁)。つまり、刑期の3分の1で仮釈放が許可されるのは、実際には非常に少ないということである(刑期の4分の3以上経過が事実上の運用。川出=金・刑事政策240頁によると、2010年までの統計では、仮釈放率は、約5割であり、約5割が満期釈放されているという。なお、戦後から近時の仮釈放率の経緯は、同書240頁から241頁が詳しい。)。また、無期刑の仮釈放許可は、近年経過期間が30年を超える場合に認められており、その人数も一桁台である(松本・前掲50頁)。
仮釈放の手続きの流れは、
ⅰ矯正施設の長による身上調査書の作成、ⅱ帰住予定地の調査・調整、ⅲ矯正施設の長による地方更生保護委員会への仮釈放の申出、ⅳ保護観察官の調査・収容者の申告票の提出・被害者等の意見聴取、ⅴ合議体による審理・許可決定、ⅵ仮釈放・保護観察の実施、となる。
仮釈放が許可される場合は、対象者に対し、保護観察を付し(更生保護法第40条 必要的保護観察)、遵守事項が定められる。遵守事項違反は、仮釈放の取消事由となる(刑法第29条第1項第4号)。
遵守事項には一般遵守事項(更生保護法第50条)と特別遵守事項(同法51条以下)がある(保護観察の遵守事項でもあるので、詳細は後述)。
仮釈放中、取消もなく残刑期が経過すると(仮釈放の取消がない限り、釈放中の刑期は算入される、つまり刑期は進行する=刑法第29条第2項の反対解釈)、刑の執行は終了する。但し、保護観察が停止した場合は、刑期の進行は停止する(更生保護法第77条第5項)。
仮釈放の取消事由は、次のいずれかに当たる場合である(刑法第29条第1項第1号ないし第4号)。ただし、取消は必要的ではなく裁量的取消である。
「第1号 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。
第2号 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。
第3号 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。
第4号 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」
法律上裁量の判断基準は定められていないが、地方委員会は、本人の改善更生を目的とする仮釈放の趣旨からすれば、保護観察を継続することにより改善更生が期待できるかどうかで取消の可否を判断すべきと解される(取消の必要性・相当性という実質的要件 川出=金・前掲242頁から243頁参照。なお、同書243頁は、実際の仮釈放の取消率は、執行猶予の場合に比して極めて低いという。)。