刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その4 | 刑事弁護人の憂鬱

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刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その4

4 薬物法上の刑の一部執行猶予制度

 ア 意義

  刑法上の刑の一部執行猶予制度と同時に薬物使用等を犯した者に対する刑の一部執行猶予制度を定めた「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(以下「薬物法」という。)が平成25年制定され、平成28年6月より施行されている。刑法上の刑の一部執行猶予制度の特則(例外)である。その趣旨は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することにある(薬物法第1条参照)。

 そもそも、覚せい剤など依存性の高い規制薬物の自己使用者は、薬物との親和性、常習性を有する割合が多く、再犯率も高い。いわゆる薬物依存症になった薬物自己使用者に対し、単に施設内処遇を実施しても(刑務所への収容と刑務作業の実施)、薬物に対する自己抑制が働かず、そのまま社会に戻っても薬物に手を染めることが多く、これが再犯率の高さの要因となっている。そこで、施設内処遇においても社会内処遇においても継続して薬物依存症の治療プログラム・離脱指導を実施する必要がある。薬物依存症の再犯率が高いことからすると、薬物前科のある累犯者については、より一層、治療プログラム等の実施の必要は高い。そこで、薬物法は、薬物依存症で薬物前科のある累犯者について、刑法上の刑の一部執行猶予制度の要件を満たさなくても、一部執行猶予を認め、治療プログラム等の実効性を図るため、必要的保護観察を導入したのである。

 

  (趣旨)

薬物法 第1条 「 この法律は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑み、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関し、その言渡しをすることができる者の範囲及び猶予の期間中の保護観察その他の事項について、刑法(明治四十年法律第四十五号)の特則を定めるものとする。」

 

イ 要件

  薬物法上の対象犯罪は、覚せい剤、大麻、シンナー、麻薬、あへん、シンナーなどの規制薬物の自己使用罪、単純所持罪である(薬物法第2条参照)。単純所持罪が対象となるのは、自己使用罪と同様に、薬理作用に対する依存の徴表として犯されることが多いからである(松本・前掲250頁参照)。なお、向精神薬は、麻薬及び向精神薬取締法での規制薬物であるが、薬物法上の規制薬物等には該当しない(太田・前掲198頁)。

 

定義)

薬物法 第2条第1項  「この法律において「規制薬物等」とは、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に規定する大麻毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)第三条の三に規定する興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する毒物及び劇物(これらを含有する物を含む。)であって同条の政令で定めるもの、覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に規定する覚せい剤麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定する麻薬並びにあへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に規定するあへん及びけしがらをいう。」

第2項  「この法律において「薬物使用等の罪」とは、次に掲げる罪をいう。

 刑法第百三十九条第一項若しくは第百四十条(あへん煙の所持に係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

 大麻取締法第二十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)の罪又はその未遂罪

 毒物及び劇物取締法第二十四条の三の罪

 覚せい剤取締法第四十一条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第四十一条の三第一項第一号若しくは第二号(施用に係る部分に限る。)若しくは第四十一条の四第一項第三号若しくは第五号の罪又はこれらの罪の未遂罪

 麻薬及び向精神薬取締法第六十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第六十四条の三第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)、第六十六条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第六十六条の二第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

 あへん法第五十二条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第五十二条の二第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪」

 

 適用できる宣告刑は、「3年以下の懲役又は禁錮」であり、刑法上の刑の一部執行猶予と同じである(刑法第27条の2)。

 対象者は、①刑法第27条の2第1項各号に掲げる者(ⅰ前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者、ⅱ前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者、ⅲ前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者)以外で、②薬物法第2条第2項に規定する薬物使用罪等の罪を犯した者である(薬物法第3条)。つまり、薬物使用罪等の累犯前科者である。

 実質的要件は、①犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、②刑事施設における処遇に引き続き社会内において薬物法第2条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められる場合である(薬物法第3条、刑法第27条の2)。すなわち、特別予防の必要性・相当性について、薬物法は、刑法上の場合よりも、より具体的に薬物依存の改善処遇による必要性・相当性がある場合としているのである。※

 

※薬物再使用防止のための専門的処遇プログラム(松本・前掲94頁ないし95頁、262頁ないし265頁)

 薬物依存者については、施設内処遇自体が、まず薬物摂取の物理的遮断措置となっている。さらに施設内及び社会内処遇を通じて依存症治療のための各種専門的処遇が実施されることが期待される。例えば、覚せい剤事犯者に対し、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門知識に基づき、特定の犯罪的傾向を改善するため体系化された手順による処遇=「覚せい剤事犯者処遇プログラム」の実施である(松本・前掲94頁参照)。すなわち、「覚せい剤の悪影響と依存性を認識させ、覚せい剤依存に至った自己の問題性について理解させるとともに、簡易薬物検出検査(尿検査キット、唾液検査キットを使用しての簡易検査)において薬物が検出されない旨の結果を出し続けることを目標にして、覚せい剤を再び使用しないとの意思を強化し、これを持続させつつ、再び覚せい剤を使用しないようにするための具体的な方法を習得させ、その犯罪傾向を改善することである」(松本・前掲94頁)。このような専門的処遇を受けることが、猶予期間中の保護観察における特別遵守事項として定めることが原則として義務付けられる(更生保護法第51条の2第1項)。専門的処遇は、薬物処遇重点実施更生保護施設において、専門スタッフにより実施されるほか、民間の薬物依存症リハビリテーション施設など(ダルクなど)を自立準備ホームに登録し、宿泊場所、食事提供を委託したり、同施設におけるグループミーティングに参加させ、薬物依存回復訓練を実施し、その他各種医療機関の専門的な援助を受けさせることが想定される(松本・前掲262頁以下)。

 

 

(刑の一部の執行猶予の特則)

薬物法 第3条 「 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第二十七条の二第一項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第五十号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。」

 

ウ 必要的保護観察

  薬物法上の刑の一部執行猶予判決が宣告される場合、刑法上の場合と異なり、その猶予期間に関して保護観察は必ず付される(必要的保護観察 薬物法第4条第1項)。薬物依存の累犯者の場合、薬物再使用防止のための専門的処遇プログラム、薬物依存に改善に資する医療や援助などを一体的に実施する保護観察の必要性が一般的に高いからである(松本・前掲254頁)。

 

刑の一部の執行猶予中の保護観察の特則)

薬物法 第4条第1項 「 前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第二十七条の三第一項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。」

第2項 「 刑法第二十七条の三第二項及び第三項の規定は、前項の規定により付せられた保護観察の仮解除について準用する。」

 

 エ 一部執行猶予の必要的取消の特則等

 

(刑の一部の執行猶予の必要的取消しの特則等)

薬物法 第5条 第1項 「 第三条の規定により読み替えて適用される刑法第二十七条の二第一項の規定による刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについては、同法第二十七条の四第三号の規定は、適用しない。」

第2項 「 前項に規定する刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについての刑法第二十七条の五第二号の規定の適用については、同号中「第二十七条の三第一項」とあるのは、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項」とする。」