刑事弁護人の憂鬱 -13ページ目

刑事弁護人の憂鬱

日々負われる弁護士業務の備忘録、独自の見解、裁判外の弁護活動の実情、つぶやきエトセトラ

刑事政策の基礎 特別編「いわゆるテロ等準備罪について その3法案検討(中)」

 

※ 本日(平成29年6月15日)の朝、与野党の攻防の中、改正組織犯罪処罰法法案が参議院本会議で可決され、成立した。森友・加計問題での各種の政治的疑惑=忖度政治による公正さの毀損が問題視される中での、絶対賛成と絶対反対の二項対立のまま法案の中身の掘り下げた審議のないまま、ほぼ法案のとおり可決されたのは、適切な政治的プロセスとはいえまい。本来、立法過程は、政府案に対し、与野党が内容を吟味チェックし、対立しつつも「妥協」へと導くことにより、一種の行政府と立法府との抑制と均衡が働くものである。「立法は妥協である」といわれる所以である。しかし、政府と与党で審議前に吟味した上で、法案を作成すれば、国会審議で圧倒的多数を握る与党の意思決定(それは法案の丸呑みであるが)で全てが決まる。つまり、国会審議は形骸化し、儀式又は、パフォーマンスの場と化す。

 ただ、成立してしまった以上は、法律の解釈運用を適正に行うことが、一層必要となる。以下の解釈は全くの私見であり(引用判例は別)、法案立案者や裁判所などの解釈とは異なり、法的オーソリティーのあるものではないことをお断りしておく。このような目的論的解釈と危険性の観点からの限定解釈の手法は、伝統的な刑法解釈方法で有ると同時に、実践的及び学問的には、法文の曖昧さをカバーし、真に処罰に値する、つまり過度に広範な処罰を回避する謙抑主義の観点からの構成要件限定による可罰的違法性論(藤木英雄博士や佐伯千仞博士に代表される)の新たな復活を企図するものである。もちろん、逆方向の拡張解釈論も論理的には可能であるが。

 (テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)

 第6条の2

 「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。」

 第1号 「別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮

 第2号 「別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮

 

  (2)構成要件の解釈

     ア テロ等準備罪の処罰根拠は何か

 組織犯罪処罰法の改正という観点から言えば、組織犯罪の実行準備行為が、通常の陰謀・予備行為に比べて、危険性が大きいことにあると考えるべきであろう。

 けだし、組織犯罪処罰法は、組織的殺人等を処罰するが、通常の殺人等に比べて刑を加重しており、その実行準備行為も通常の陰謀・予備行為よりも刑が重いことは、加重されるだけ違法性が重い、すなわち危険性が大きいものと解するのが合理的であるからである。

 

 ちなみに判例は、組織的詐欺の事案で、

「組織的犯罪処罰法3条1項は、犯罪に当たる行為が、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われる場合は、継続性や計画性が高度であり、多数人が統一された意思の下に、指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って一体として犯罪を実行するという点で、その目的実現の可能性が著しく高く、また、重大な結果を生じやすいなど、特に違法性が高いところ、詐欺を含む刑法の一部の罪については、このような形態で犯されることが多いにもかかわらず、その場合の法定刑として十分ではないと考えられたことから、このような犯罪を行った行為者を適正に処罰できるようにするため、刑法各条の加重類型を設けたものである。」と判示した(最決平成27年9月15日刑集69巻6号721頁)。

 すなわち、判例は組織犯罪においては、①継続性・計画性が高度であること、②目的実現の可能性が著しく高いこと、③重大な結果を生じやすいことなど特に違法性が高いことを加重根拠とする。

 それゆえ、実行の着手前の組織的実行準備行為自体も①②③を前提として違法性が高い、つまり通常の陰謀・予備罪よりも危険性が高いこと(但し、それは未遂の危険性よりは低いものである)に加重ないし処罰根拠を求めることは、組織犯罪の加重処罰に関する判例の趣旨に合致しよう。

 この危険性は、①組織犯罪集団自体の危険性と②実行準備行為自体の危険性の2面から考えるべきである(後述)。

 

    イ  組織的犯罪集団

       ・団体性の意義

        組織犯罪処罰法2条1項は、団体とは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるもの」と規定する。

会社法人は当然当たるが、上記要件を満たす限り、会社法人である必要はない。しかし、会社法人であっても一人会社は「多数人の継続的結合体」に当たらない(但し、会社役員=株主が一人であっても他に従業員が複数いる場合は、団体に該当する)。

文理的には最低2名以上でも「団体」該当性があるようにも見えるが、それでは、通常の二人以上で成立する共同正犯と区別はできないし、加重するだけの組織的犯罪集団の危険性を認めうるだけの規模=指揮命令系統、役割分担など有機的機能的一体性から、大きな法益侵害結果もたらす可能性を有する程度の多数人で構成される必要がある。2,3名程度では、団体(集団)の危険性という観点から、団体該当性は否定されると解すべきである。※

※団体性と共謀共同正犯とに関係

 従前の組織的犯罪処罰法に関して、法務省、立法当局者が作成した三浦守ほか著「組織的犯罪対策関連三法の解説」(平成13年 法曹会)68頁は、「『共同の目的を有する多数人の継続的結合体』とは、共同の目的をもって二人以上の者が結合している集団でえあって、その構成員の一部の変更が当該集団の同一性に影響を及ぼさないだけの継続性を有するもの」として、最低2名での団体性を認めるが、「共同正犯関係にある多数人は、『共同の目的を有する多数人の結合体』に該当することも多いと思われるが、単に共謀関係が認められるというだけでは、必ずしも、その結合体が『継続性』を有するとは認められないという」という。むしろ、2名程度では原則否定すべきというべきであろう。

 

       ・結合関係の基礎としての共同目的の意義

組織犯罪処罰法で規定する別表第三に掲げる犯罪を共同で実行する目的をいう。※この目的は、組織的犯罪集団を基礎付ける目的である。

したがって、労働権行使のための労働組合や表現の自由行使のための政治デモ集団は、適法な目的を有するものであって、違法な犯罪を共同で実行する目的ではないので、原則として組織的犯罪集団に当たらない(但し、事後的変化により違法な犯罪の共同目的を有するようになった場合は除く)。

※従来の団体性の共同目的との関係

 三浦ほか前掲68頁は「『共同の目的』とは、結合体の構成員が共通して有し、その達成又は保持のために構成員が結合している目的をいい」「その目的が自体が必ずしも違法・不当なものであることを要しない」という。しかし、法案(改正法)のテロ等準備罪は明文上、「共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるもの」とある以上、違法な犯罪目的に限定して理解すべきである以上、適法な目的の団体は含まれないのは当然である。この意味で、従前の組織犯罪の前提である「団体」性より、組織的犯罪集団は狭い概念である。なお、三浦ほか前掲70頁は、従来の団体性概念でも殺人等の犯罪行為が団体の活動して行われる以上、「正当な目的を有する団体が通常行っている活動がこれに該当することは、想定しがたい」とされる。

 

組織的犯罪集団は、反復継続的に違法な犯罪を共同で実行しようとするものであるが、一回も犯罪を実行していなくても、反復継続的に犯罪を共同して実現可能な客観的危険性を前提とした上で(例えば、構成員のうち、当該犯罪実行の経験があったり、又は実現に必要不可欠な知識やスキルを持っていたり、あるいは犯罪実現のための資金や物的道具を提供できる者がいれば、)、共同目的がある限り、組織的犯罪集団該当性は肯定されよう※。すなわち、ここでいう共同目的は、単に主観的結合関係としての団体性を基礎づける要素だけでなく、集団での客観的な反復継続の犯罪実現可能性を前提として、その団体の危険性を高める意味での主観的違法要素であり、構成員全員か、少なくとも主要な構成員がその共同目的を有していなければならないと解すべきである(もちろん、結合関係を基礎付ける以上、相互認識、つまり共同で組織的犯罪を実行しようという意思連絡が必要であることはいうまでもない)。

※反復継続性の要件

三浦ほか前掲69頁も、反復継続性の要件について「過去においてその活動の全部又は一部が組織により反復して行われ、あるいは将来において反復して行われることが予定されているもの」いうとする。

 

・組織的犯罪集団の具体例

  特定の政治信条のため殺人等違法行為を行うことを目的とするテロリズム集団、違法薬物の密売グループ、振り込め詐欺など特殊詐欺グループ(会社組織に準じるカンパニータイプや、先輩後輩など繋がり・ネットワークを利用するタイプ、掛け子・受け子など役割分担を徹底し、相互の面識をできる限り持たない匿名的なタイプなど)、組織抗争における暴行・傷害・殺人などを目的とする暴力団・など反社会的集団、組織的な窃盗・強盗団、営利的な人身売買組織、構成員と組織を守るための組織的な証拠隠滅・犯人隠匿など司法妨害を図る暴力団や過激派集団などが考えられる。

 

・事後的変化による組織的犯罪集団

  当初は、適法な目的を有していた団体が事後的に違法な目的を有して組織的犯罪を行うようになった場合(いわゆる「一変した」場合)といえるためには、組織構成員全員が違法な組織犯罪を行っている認識が必要ではなく、ある時点から主要な構成員が犯罪を認識して組織的に遂行していれば、犯罪の認識がない構成員が含まれていても、当該団体自体が「客観的に」組織的犯罪集団に当たるといってよい(組織的詐欺に関する前記判例参照※)。

 

※最決平成27年9月15日刑集69巻6号721頁

  「問題は、上記行為が、「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により行われた」ものかどうか、すなわち、詐欺罪に当たる行為を実行することを目的として成り立っている組織により行われたといえるかどうかに尽きることになる。原判決の認定によれば、被告人はもとより、Cを始めとするAの主要な構成員にあっては、遅くとも平成21年9月上旬の時点で、Aが実質的な破綻状態にあり、集めた預託金等を返還する能力がないことを認識したにもかかわらず、それ以降も、上記ア記載の組織による営業活動として、B倶楽部の施設利用預託金及び施設利用料の名目で金銭を集める行為を継続したというのである。上記時点以降、上記営業活動は、客観的にはすべて「人を欺いて財物を交付」させる行為に当たることとなるから、そのような行為を実行することを目的として成り立っている上記組織は、「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織」に当たることになったというべきである。上記組織が、元々は詐欺罪に当たる行為を実行するための組織でなかったからといって、また、上記組織の中に詐欺行為に加担している認識のない営業員や電話勧誘員がいたからといって、別異に解すべき理由はない。」

 

・組織的犯罪団体は、テロ等準備行為(実行準備行為)の行為主体要件か?

  加重根拠ないし処罰根拠からすれば、組織的犯罪団体の実行準備行為であることが当然要請されるから、団体の構成員であることが、テロ等準備行為(実行準備行為)の行為主体要件のように思える。

  しかし、法案の文言上は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(略)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は」とあり、組織的犯罪の遂行が「計画」の目的内容であり、行為主体を構成員に限定していない。つまり、非構成員が、組織的犯罪の遂行を計画した場合もテロ等準備罪が成立しうるということである。実際、法務省当局も構成員でなくても組織的犯罪集団と密接な者も行為主体になることを否定していない。※例えばテロリズム集団の構成員が、外部の者に集団が実行する政府の施設の爆破計画とその準備を委託した場合が考えられる。

  これは、予備罪において、判例が他人予備を予備罪の共同正犯として肯定していることとの均衡を図るためと思われる。しかし、他人予備は実質は予備罪の幇助であるから(自己の犯罪ではなく、他人の犯罪であるから、正犯意思を欠く)、この場合を実行準備行為の正犯として扱うのは疑問がある。

  むしろ、加重ないし処罰根拠からすれば、共同の目的・正犯意思を有する組織的犯罪団体構成員を行為主体要件と限定して理解すべきである  外部の者の委託のケースは、組織的犯罪の現実の遂行による利益帰属の観点から、組織構成員と評価できる場合に処罰するか、構成員の実行準備行為に対する幇助と評価できる場合に処罰すれば足りよう。

※組織的犯罪における行為主体

  三浦ほか前掲86頁は、従前の組織的犯罪処罰法の組織的殺人、組織的詐欺などのについて「本項の罪の主体に制限はなく、団体の構成員に限らない。すなわち、本項の罪には、ある罪に該当する行為が、団体の活動として、これを実行するための組織により行われた場合に、その事実を認識して、当該罪を犯した者について、刑を加重するものであり、その者が団体の構成員であるか否かは問題とはならない」とし、このことからすれば、文理上の根拠もあわせて、テロ等準備罪も行為主体は無制限となろう。しかし、上記見解も非構成員の共同正犯、教唆、幇助の任意的共犯の適用を前提としていることからして、行為主体制限の解釈を前提にしても刑法65条1項を解しつつ非構成員の共犯を認めるものと解しているようにもみえる。

 

 

刑事政策の基礎 特別編「いわゆるテロ等準備罪について その3法案検討(上)」

 

1 予備・陰謀とテロ等準備罪の実行準備行為…立法技術の考察

  予備・陰謀は、犯罪の未然の防止、早期の段階での処罰のため設けられる必要性、特に被害の大きい重大な犯罪においては、治安上意味を有することは明白である。しかし、その行為態様を具体的に記述することは、犯罪の実行前の行為であり、その準備は多種多様で有ることから,非常に困難である。それゆえ、いきおい、包括的な規定に成るざるを得ず、せいぜい目的による限定(目的犯構成)と処罰する犯罪類型の数をしぼって厳格な解釈運用を行うのが一つの考えである(包括的予備罪 現行刑法上の予備・陰謀罪の規定とその判例実務の運用がその例である)。

 しかし、罪刑法定主義の観点から、構成要件の明確化、行為態様の具体的記述が望ましい。そこで、具体的行為態様を記述し、独立した犯罪として規定する方法が考えられる(独立予備罪)。偽造通貨準備罪などがその例である。また、偽造罪とその行使罪のように性質上別の犯罪の準備行為でありながら、独立した犯罪類型として規定される、実質的ないし機能的な、あるいは性質上の独立予備罪の一種とみてよいであろう。例えば各種偽造罪は、行使罪はもちろん、詐欺罪などの欺罔を手段とする法益を別にする犯罪の手段ないし準備的行為として機能しているし、侵入窃盗・強盗などにおける住居侵入罪は、窃盗等の予備的行為として機能している。この点を重視して、偽造罪を文書等の社会の信頼に対する罪ではなく、詐欺罪等の独立予備罪と理解する見解もかつてはあった(宮本英脩)。

  現行刑法は、予備と陰謀を区別しているが、犯罪の発展段階からみるに、陰謀を経て予備行為に、そして犯罪の実行に至るのならば、陰謀+予備行為(実行準備行為)の犯罪類型を創出することは十分考えられる。テロ等準備罪は、この例である。日本の犯罪は、計画的に行うより、激情的なものが多く、共謀・陰謀・合意だけで処罰するという立法は、なじまない反面、共謀共同正犯にみられるように共謀+犯罪の実行という類型は、客観的事実+背後の黒幕処罰として社会的実体に即し、機能してきた。この共謀+アルファ(犯罪の実行)を応用して、共謀+実行準備行為として、つまり陰謀+予備行為(実行準備行為)を立法技術として用いること自体、単なる共謀・陰謀・合意を処罰する立法より、明確性等から技術的にはベターであることは否定できない※。さらに従前の予備・陰謀の解釈で裁判例・学説が指摘してきた「危険性」「実行の直前性」などの考えを要件とすることは、当然必要であろう(詳細は後述)。もっとも、この陰謀+予備行為(実行準備行為)というのは、予備罪の共謀共同正犯(判例・通説は肯定説にたつ)そのものであり、既に刑法典等で予備罪処罰のある犯罪については、新規の規定ではないということになる。組織犯罪対策国際条約による新たな立法の必要性が問われるゆえんである。つまり、現在の予備罪処罰規定で十分ではないかとの問題である。※※

 

※実行準備行為の性質

 一部の論者は、実行準備行為を処罰条件か構成要件かを問題にする。

 前者と考えると合意(計画)の段階で捜査が行われる懸念を指摘するが、処罰条件であれ、構成要件であれ、準備行為がなければ罰せられないことに変わりはないこと、合意を徴表する行為の存在がない場合、捜査の端緒すらつかめないことからすると、合意の段階で捜査する意義は乏しく大きな争点とはいえまい(むしろ、この点はいわゆる事前捜査の可否の問題である。)。せいぜい合意(計画)だけで犯罪とすることは内心の自由を侵害するという批判に結びつける意味しかない。しかし、そうなると、現行法上の陰謀罪、特別法上の共謀罪などは、すべて違憲となろう。裁判例(三無事件)はまさにこれを回避するため、予備、陰謀に「危険性」の要件を必要としたと解する余地はある。したがって、内心の自由との調和、合憲解釈のためには、「危険性」の要件は不可欠ということになろう。

 

※※国際条約の解釈

  正確には、国際条約は「共謀罪(コンスピラシー)」または「参加罪」の立法を要求している(既存の法律でまかなえる場合は、留保できるとの見解もある。)。前者は英米法圏、後者はドイツ、フランスなどの大陸法圏の刑事立法でみられる犯罪類型である。参加罪は、犯罪組織等に参加しただけで処罰されるもので、団体・結社の自由を制約するものである。日本の予備罪は、大陸法圏の考えであり、共謀(陰謀、計画)は、予備行為の前段階と解されているから、ここでいう共謀は、たとえオーバートアクトを要求しても、予備とは異なる概念である。よって、予備罪で共謀をカバーするには、予備(準備)概念を広く解釈するしかなくなるが(共謀・陰謀も予備行為に包含されるとする。)、それは従前の裁判例・学説と調和しない。共謀共同正犯の予備罪の概念であれば、共謀(計画)+実行準備行為と重なることになるが、しかし、これは逆にいえば、テロ等準備罪は、主体の範囲を制限した共謀共同正犯の予備罪を制定するものといえ、既存の予備罪と重なる罪については、一種の特別法となる。既存の予備罪の規定がない罪については、新規処罰であるが、これも共犯形態しか処罰されず(必要的共犯)、単独のテロ準備行為が、対応する予備罪がなければ処罰されず(国際条約は、もともと組織犯罪対策でテロ防止対策ではなかったものであるが。)、処罰のもれが生じる。それゆえ、既存の予備罪でカバーできるので、国際条約上の新たな立法は不要とする立論は、直ちに首肯できるものではない。むしろ新規の予備罪の規定と予備罪の拡張解釈が必要となろう。

 

 

2 テロ等準備罪の構成要件と各種論点

 

組織犯罪対策法改正案  抜粋

 

 第1条 目的 「鑑み、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を実施するため」に改める。

 (テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)

 第6条の2 「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。」

 第1号 「別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮

 第2号 「別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮

 

 

    (1)立法目的と対象犯罪の関連性の問題

     今回の法案提出にあたり、政府は、組織的犯罪集団の例示としてテロリズム集団を明示し、2020年の東京オリンピックのテロ対策に不可欠とアピールしているが、実際の目的規定は、マフィアや国際的薬物シンジケートや人身売買組織などの不正収益行為に打撃を与えるための国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(TOC条約ないしパレルモ条約)の実施のためであり、法案自体はテロ対策に限定するものではない。しかも、衆議院での政府答弁では、テロリズム集団を組織的犯罪集団の一つ、例示と明言している。よって、テロ防止との関連性から本件法案を議論するのは、本来適切ではない。

     すなわち、明示された法案の目的は同条約第5条第1項(a)(ⅰ)「金銭的利益その他物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの」の規定に適合させるためである。

     この規定から、本条約の前提とする犯罪組織は、経済的利欲ないし営利目的の「重大な犯罪」を行うものとされる。一般的に一定の思想信条のために行う殺傷行為等を行うテロ犯罪とは、必ずしも一致しない。せいぜい、テロ組織が身代金目的の拉致監禁や、テロ資金獲得行為がこれに含まれうるといえるにすぎないであろう。また、後述するが、法案の目的がパレルモ条約実施のためならば、組織の共同目的ないし実行準備行為の目的として、金銭的利益その他物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的に限定することが立法上または解釈上要請されるというべきである(条約実施の目的からくる限定性)。

     また、対象犯罪は、単に形式的な法定刑の長短で一律に決定するのではなく、条約の趣旨に照らしかつ従来の予備罪等の処罰ないし不処罰との均衡から、「重大な犯罪」にふさわしい犯罪に限定する必要があるというべきである。この点から、本法案の対象犯罪が277という総量の問題ではなく、本来、個々の対象犯罪の可罰性について、立法事実(従前、組織的犯行が行われたことがあるか、経済的被害大きいなど)に照らして個々に吟味しなければならないであろう。この点は、構成要件の解釈において具体的に検討したい。

     

  (2)構成要件の解釈

    ア 処罰根拠は何か

    イ 主体 組織的犯罪集団

         ・テロリズム集団の意義

         ・団体性の意義

         ・結合関係の基礎としての共同目的の意義

    ウ 行為

      ・計画の意義

      ・目的の意義

      ・実行準備行為の意義

    エ 危険性

      ・組織要件としての危険性

      ・実行準備行為要件としての危険性 

 

3 減免規定の問題性

 

4 捜査手続きの濫用の問題…事前捜査との関係

 

刑事政策の基礎 特別編 「いわゆるテロ等準備罪について」国会審議編…将来犯罪捜査(事前捜査)を認める法務省答弁の問題

 

1 周知のとおり、いわゆるテロ等準備罪について、国会審議がすすめられている。参議院では、有識者等の参考人招致も実施され、賛成意見、反対意見もかわされている。

ア 組織犯罪国際条約締結目的の観点から 現行法上の陰謀予備罪等で対処できるか≒新規立法の必要性の可否、イ テロ防止と組織犯罪対策は必ずしも一致しない≒テロ防止の強調は、組織犯罪対策目的というテロ防止より広い目的であり、対象犯罪の限定(277罪)は、テロ防止の観点からではなく、組織的犯罪による不正収益が多く生じやすい著作権法違反などが対象とされており、これを「テロ資金源」との関連性から説明するのは、無理があるし、テロ防止を強調するのならば、単独テロ準備行為が対象から外れること、サイバーテロなどにおける組織性が緩やかなサイバー攻撃準備行為が対象となるかどうかは組織要件を厳格に考えると、かえって適用外になる(例えば、アノニマスなど)と、テロ防止目的達成はちゅうと半端ではないかといった疑問、ウ 捜査の濫用・一般人への適用の問題(最近の審議はこの点に法務大臣らの答弁を中心に反対派の批判が集中している。法務大臣答弁の矛盾等に対する民進党の追及は、法案の中身についての掘り下げがないので、揚げ足取り的な感じと、審理を遅らせる引き延ばし戦法も焼け石に水の感もある。)などが気になった点である。内心の自由の侵害のおそれは、構成要件の不明確性、捜査機関の判断の恣意性の問題と関連しており、結局ウの問題に収斂しよう。

 

2 政府与党は、来週にも衆院通過を考えているようであり、濫用防止等の附帯決議は別として(自民党、公明党と維新間において捜査の可視化等の維新の要望と附則規定の政治的折衝が行われている)、法案の中身である構成要件や対象犯罪についての修正は、現時点の報道をみる限りは、予定されていないようである。

このような状況下で、昨日(平成29年5月12日)の法務委員会での法務省刑事局長の答弁が気になった。

東京新聞(平成29年5月13日朝刊 ネット掲載版)から、引用すると、公明党の質問に対し、法務省の刑事局長は「『犯罪の計画行為が既に行われた嫌疑がある状況で、準備行為が行われる確度が高いと認められるような場合は、手段が相当であれば任意捜査を行うことは許される』と述べた」という。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017051302000126.html

 

一般的に、捜査とは、過去に行われた犯罪に対する証拠収集と犯人検挙の活動であり(司法警察活動)、犯罪の防止、鎮圧といった行政警察活動とは区別されていた。

ところが、通信傍受(盗聴)捜査やおとり捜査が、リアルタイムで現在進行中の将来の犯罪検挙のためのものとして行われる場合、その許容性の問題として、将来犯罪捜査(事前捜査)の問題が20年以上前から、刑事訴訟法上の論点として、議論されていたものである。古くは、故・田宮裕教授の論考があり、ネットで検索できる最近の論文として、加藤康榮「行政警察活動と犯罪の事前捜査」日本法学80巻第4号(2015年2月)などがある。

http://www.law.nihon-u.ac.jp/publication/pdf/nihon/80_4/01.pdf

 

法務省の答弁は、積極説(要件を限定したものであるが)に立っており、これは、単にテロ等準備罪の問題だけでなく、犯罪捜査一般に及ぶ危険のある重大な発言である。判例も従前の実務、学説(通説)も消極説と理解されていたからである。将来の犯罪について、捜査できることになると、罪を犯す蓋然性があることを理由に逮捕等も理論上は可能となってしまうのである(いわゆる「予防拘禁」。ちなみに戦前の治安維持法の最後の改正で予防拘禁を認める規定が設けられていたのは歴史的事実である)。答弁が任意捜査に限定する趣旨としても、そもそも、刑訴法上の任意捜査の原則からすると、将来犯罪捜査も原則的な捜査処分となってしまう。捜査機関による個人のプライバシー領域への過度で広範な介入を招いてしまうおそれがある。適正手続き(憲法31条等)からは、その趣旨を野党は徹底的に解明すべきではないだろうか。また、将来捜査を一定の場合に認めるとしても(従来の大陸法的行政警察・司法警察の区別の修正ないし放棄)、それは、解釈ではなく、徹底議論の上、立法で明確化すべき事項であろう。