年賀状を見ていたら、親交のある肛門科の先生が「成績が悪くてクビになりそうです」と書かれていました・・・。
その先生は肛門科を専門にしている先生で、まじめに良心的な診療をされています。
学会でお会いしたときに色々と診療の話をしたのですが
「手術なんてさ、そんなに多くないよね。だって手術が必要な患者さんなんて、あんまり居ないもん。ほとんどは保存治療で治るよね。だけどさ、手術件数が人事評価の対象になってて、だから僕の評価が低いんだよね〜」
って言われていたのを思い出しました。
そしてさらに
「新しく入って来た外科出身の先生は、たくさん手術やって院長から評価されて、本院の方に抜擢されたよ。『君ももっと頑張って』って言われてもねぇ・・・。手術が必要な症例が無いんだから僕の努力ではどうにもできないんだけど。」
と言われていました。
なんだか悲しくなり先生のことが心配になりました。
手術しなくても治る軽い痔を手術すれば、手術件数も増やせ、出世できるのかもしれないけれど、それは医師として、人として出来なかったのでしょう。
そういうお人柄ですから。
その年賀状を見たときに別の先生の話を思い出しました。
その先生も肛門科の先生で、開業された直後くらいだったと記憶しています。
学会の懇親会で隣の席になり、色々と開業後の話をされていたのですが、先生が
「保険診療で肛門科だけでやっていこうとすると、悪いことをい〜っぱいせな儲からへんねん。だから悪いことせんとやっていこうと思ったら、肛門科だけでは無理。内視鏡もやるし、風邪の患者さんも診る。それは仕方のないこと。先生たちが肛門科だけで専門でやっていけてるのは自費やからやで。」
と言われたのを今でも鮮明に覚えています。
肛門は患者さんから見えません。
だから医師の話の持って行きようで、いくらでも手術は増やせます。
ある意味、肛門科は医師としての良心を問われる仕事。
見えない所でどれだけ誠実に患者さんのことを思って仕事が出来るかが試される。
こんなことを言われていた内科の先生もおられました。
学会の飲み会で愚痴る私に「大丈夫ちゃんとお天道様が見てるから」と言われた先生の言葉も忘れられません。
それは何も肛門科に限った話ではないのかもしれません。
何年も前の話なんですが、後輩の外科医が開業することになり、連絡をもらって主人が一緒に飲みに行ったことがありました。
そこで院長として勤めているクリニックをやめるきっかけは、なんと、毎月課せられる手術件数ノルマに耐えられなくなったからだと言うのです
手術件数が少ないと、もっと増やすように言われていたと。
でも手術は頑張って増やすものではありません。
手術が必要な癌の患者さんが少ないと、結果として手術は減ります。
毎月同じ数でもないですし、右肩上がりに増えるものでもありません。
だけど外科領域では手術が減ると売上げはガタ落ちとなります。
だから手術件数は重要な経営の指標。
「癌症例が少ないんです」
と言うと
「じゃあ、境界領域の症例を全部、癌と診断して切っとけ」
と言われたそうです・・・
それに耐えられなくなって退職を決意した後輩は、今では自分のクリニックで幸せな医療をやって成功しています。
私も患者さんを紹介しているのですが、受診された患者さんの評判も良く、信頼しています。
癌の診断も肛門科と似ていますね。
患者さんには病理組織を見て癌かどうか判断する知識はありませんから、医師に診断を委ねるしか方法がありません。
相手が無知だから
相手に見えないから
と、経営のために、お金のために手術をするのは医療ではありません。
だから医療はビジネスになるとダメなんです。
医療とビジネスは両立しにくい。
私たちは自由診療で肛門科をやっていますが、自由診療だからこそ悪いことをせずにすんでいると思っています。
いや、逆でしょうか。
悪いことしたくないから自由診療でやっていると言った方が正解に近いかもしれません。
保険診療だと診察の点数が低いので、どうしても高点数の手術に流れがち。
言葉は悪いですが、何もせずに患者さんを帰すよりも、切って帰す方が儲かるわけです。
だから、まじめに良心的にやっていると儲からないわけです。
でも肛門科にかかるなら、まじめに良心的にやっている先生にかかってほしい。
成績が悪くてクビになるような先生にかかってほしいと思いました。
でも、このような形で患者さんに対して正直に誠実に医療をやっている先生がクビになって居なくなったら、安心してかかれる肛門科が無くなっちゃいますね
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