中学受験は「偏差値」から逆算しない。5年生までの家庭学習時間から進路を決めるという考え方
中学受験をするか、しないか。
多くの家庭では、かなり早い段階から「中学受験をする」と決め、そのために塾を選び、模試を受け、偏差値を上げることを目標にしていきます。
しかし、僕は少し逆の考え方をしてもいいのではないかと思っています。先に「中学受験をする」と決めるのではなく、小学校4年生、5年生の段階で家庭学習の習慣と学習量を作り、その結果としてどの程度の学力に到達したのかを見たうえで、中学受験をするか、高校受験に進むかを判断する。
この考え方なら、中学受験を「撤退する」という発想ではなく、「進路を最適化する」という発想に変えられます。
「学年×10分+10分」は本当に十分なのか
小学校の家庭学習時間の目安として、よく言われるのが「学年×10分+10分」です。
小学1年生なら20分、2年生なら30分、3年生なら40分、6年生なら70分という計算になります。
これは学校の学習内容を家庭で復習するための目安としては分かりやすい数字です。ただし、中学受験をするかどうかを判断するための「学力形成」という観点から考えると、私は少し違う設定があってもいいと思っています。
そこで考えているのが、この時間をおよそ1.7倍するという考え方です。
小学6年生なら、
「6×10+10=70分」
に1.7を掛けて、約119分。
つまり約2時間です。これは、
周囲と同じ学習量で競争するのではなく、5年生までに一定の学習時間を確保し、その時間差を先取り・習熟・応用に振り向けることで、6年生以降に優位性を作る
という、ランチェスター時間戦略を小学生の学習設計に応用するという話になります。
ランチェスター時間戦略 → 競争における投入量の差 → これを小学生の家庭学習設計に応用 → 5年生までに余力を作るといった戦略です。
そして、4教科をそれぞれ25分程度に区切り、25分学習+5分休憩というサイクルを組むと、かなり現実的な学習単位になります。
さらに英語を30分程度加える。
すると、国語・算数・理科・社会+英語で、おおむね2時間半という家庭学習モデルができます。
重要なのは、この2時間半をいきなり6年生から始めることではありません。
むしろ、4年生、5年生の段階から少しずつ定着させておくことに意味があります。
5年生で「毎日2時間半」は多いのか
ここで面白いのが、中学受験家庭の学習時間です。
一般的な小学生全体の家庭学習時間と、中学受験を意識している家庭の学習時間は当然違います。
また、中学受験対策を始める時期そのものも早くなっています。
2026年に日本漢字能力検定協会が中学受験経験者の保護者1,000人を対象に行った調査では、小学4年生までに中学受験対策を始めた家庭が57.1%、小学5年生まででは81.1%に達しています。つまり、5年生までには多くの家庭が何らかの受験対策を始めているわけです。
一方で、5年生の段階から家庭学習を毎日2時間半程度確保しているとすれば、かなりしっかりした学習習慣になります。
ここで重要なのは、「2時間半やったから偏差値が○になる」という単純な話ではありません。
偏差値は、学習時間だけで決まるものではありません。
教材、指導、理解度、家庭環境、本人の得意不得意、学習効率、模試の母集団など、さまざまな要素が影響します。
したがって、学習時間から偏差値を正確に算出することはできません。
しかし、逆に言えば、同じ偏差値55でも「どうやって55を取ったのか」を見ることには大きな意味があります。
「偏差値55」の中身を見る
例えば、5年生の終わりに偏差値55だったとします。
一方は、大手塾の授業を受け、同じ問題を何度も復習し、テストに出る範囲を繰り返し学習した結果として55を取った。
もう一方は、学校や塾の進度より少し先まで学習し、基本問題を自力で解ける状態を作ったうえで、応用問題や初見問題にも取り組みながら55を取った。
同じ「55」でも、6年生に入ったときの意味はかなり違います。
前者は、まだ習熟そのものに時間を使う必要があります。
後者には、先取りによって生まれた「余力」があります。
この余力こそ、6年生で重要になります。
5年生までの勉強を、単純なワークブックとテストの繰り返しにしてしまうのではなく、
「なぜこの解き方になるのか」
「別の問題でも使えるのか」
「初めて見る問題ならどう考えるのか」
「覚えるべきものはどうやって定着させるのか」
まで扱っておく。場合によっては、何度も書いて覚えるという地味な学習も必要になります。
こうした「習熟」を5年生のうちに進めておくことが、6年生の余裕につながると考えています。
4年生は通信教育、5年生から塾という選択
御三家や最難関を目指さないのであれば、この考え方なら、4年生と5年生の役割も明確になります。
4年生では、通信教育や市販教材などを利用しながら、まず家庭学習そのものを安定させる。
「毎日勉強する」
「決めた時間は机に向かう」
「間違えた問題を放置しない」
という基本的な習慣を作ります。
そして5年生から中学受験塾に入る。
ただし、塾に入ったからといって、家庭では塾の授業の復習だけをするのではありません。むしろ、家庭学習の一部を「先取り」に使う。例えば2時間半のうち、英語に30分を使うなら、残りの2時間を国語・算数・理科・社会に配分し、その一部を先取りに充てる。こうすると、塾で習う内容が「初めて見る内容」ではなくなります。
塾で理解し、家庭で復習し、さらに少し先へ進む。
このサイクルを5年生のうちに作っておくわけです。
5年生の終わりに見るべきなのは「偏差値」だけではない
では、5年生の2月、3月になったとき、何を見るのか。
僕はここで初めて、中学受験をするかどうかを具体的に判断してもいいと思っています。
もちろん、全国統一小学生テストのような全国規模の模試は有効です。現在の全国統一小学生テストでは、5・6年生は国語・算数に加えて理科・社会も受験でき、偏差値や全国順位、領域別成績などが返却されます。
ただし、全国統一小学生テストと中学受験専門模試は同じものではありません。
ネット上では「全統小と四谷大塚(合不合)の偏差値には10程度の差がある」といった経験則が語られることがありますが、これは固定された換算式ではありません。母集団や問題構成が違うため、単純に「全統小-10=合不合」とするのは危険です。実際、受験者による経験談でも両者の差は語られていますが、個人差や科目差があります。
したがって、見るべきなのは「全統小で偏差値55だから、この学校」という単純な対応ではありません。
複数の模試を通して、自分の子どもの現在地を確認することが重要です。
5年生終了時点では「80%ライン」を見る
ここで四谷大塚の合不合判定の考え方が参考になります。
四谷大塚系の受験情報では、志望校判定に50%ラインと80%ラインが使われています。80%判定は、当然ながらかなり高いハードルです。早稲田アカデミーも、80%ラインをクリアすることは一般的にかなり難しいと説明しています。
だからこそ、5年生終了時点では「80%ラインを狙える学校」を一つの目安として見ておく。
ただし、それを「6年生でも80%を維持する」と考える必要はありません。
むしろ、6年生では受験者全体の学習量が一気に増えます。
5年生まで2時間半を継続していた子にとって、6年生で3時間、4時間へ増やすことは、それほど異常なことではありません。
なぜなら、すでに学習習慣ができているからです。ある程度、偏差値自体が低下する予測をしておくことは大事です。
6年生の夏以降は「偏差値を上げる」より「順位を上げる」
6年生の夏休み以降になると、受験勉強は性質が変わります。
それまでの「知識を増やす」「習熟を進める」という段階から、「志望校の問題に適応する」という段階へ移っていきます。
そのため、私は6年生の夏以降は、単純に偏差値を上げ続けることだけを目標にしなくてもいいと思っています。
むしろ、
「志望校別模試で順位を上げる」
「過去問で合格最低点との距離を確認する」
「その学校特有の問題形式に慣れる」
という方向へ変えていく。
5年生の終わりに80%ラインで見ていた学校について、6年生の夏休み以降に50%ラインを下回らない状態を維持できているなら、そこからは学校別対策によって合格可能性を高めていくという考え方です。
もちろん、これは全員に当てはまる絶対的な法則ではありません。
しかし、「6年生になったら偏差値を上げ続けなければならない」という発想から一度離れるという意味では、かなり重要な考え方だと思います。
過去問を早くやればいいわけではない
ここにも落とし穴があります。
5年生の終わりに志望校が見えてくると、「早く過去問をやらせなければ」と考える家庭もあります。
しかし、過去問は早ければ早いほど良いわけではありません。
その学校の出題形式に対する適応力を測るには、まず必要な知識と解法がある程度身についている必要があります。
まだ習熟していない段階で過去問を大量に解いても、「できない」という結果だけが積み上がってしまう可能性があります。
5年生の終わりに見立てを立て、6年生で必要な習熟を進め、そのうえで適切な時期から過去問に入る。
この順序のほうが合理的です。
そして、ここで「高校受験」という選択肢が生きてくる
この戦略の最大のメリットは、5年生の終わりに「中学受験をやめる」と考えなくていいことです。
例えば、5年生まで家庭学習をしっかり続けたにもかかわらず、模試の結果が想定した中学受験校のゾーンに届かない。
その場合、
「もっと勉強させればいい」
と考えるのではなく、
「この学習量でこの到達度なら、高校受験のほうが適しているのではないか」と判断することができます。
これは撤退ではありません。
むしろ、高校受験に切り替えることで、中学3年間を使って高校受験に向けた準備をすることができます。
逆に、5年生の終わりに十分な学力が確認できれば、そこから中学受験に本格的にシフトする。
つまり、4~5年生を「進路決定前の準備期間」にするわけです。
中学受験のゴールは「中学校合格」ではない
そして、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
中高一貫校に合格すること自体が最終目的ではありません。
中学受験をして中高一貫校に入ったとしても、そこで6年間の学習が待っています。
だからこそ、「どこに合格できるか」だけではなく、「その学校に入った後、どの程度の余裕を持って学習できるか」まで考える必要があります。
無理を重ねてようやく合格した学校で、入学後も常に授業についていくために苦労するのであれば、それが本当にその子にとって最適な選択なのかは考えたほうがいい。
一方で、5年生までに先取りを含めた学習習慣を作り、ある程度の余力を残して中学受験に進めるなら、6年生ではその余力を志望校対策に使えます。
偏差値ではなく「どうやって取った偏差値か」
結局、5年生終了時点で最も重要なのは、偏差値そのものではないのかもしれません。
「偏差値55だった」
ではなく、
「どのくらいの学習時間で、どんな勉強をして、どこまで先取りし、その結果として偏差値55になったのか」
を見る。
ここが重要です。
同じ55でも、まだ習熟の途中にいる55と、先取りまで終えて余力を残した55では、6年生のスタート地点が違います。
そして、周囲が6年生になって学習時間を増やしてくるとき、先に習熟を進めていた子は、その時間を「まだ習っていないことを覚える時間」ではなく、「応用する時間」「志望校に適応する時間」に使える可能性があります。
受験直前に成績が伸びる子がいるのも、単純に最後の1か月で突然能力が上がったというより、そこまでに積み上げてきた習熟が最後に点数として表面化するケースがあります。
だからこそ、5年生の偏差値を1ポイント、2ポイント上げることだけに躍起になるより、6年生で伸びるための余力を5年生のうちに作ることのほうが重要なのではないでしょうか。
中学受験をするか、高校受験をするか。
その答えを4年生で決める必要はありません。
4年生では改めて学習習慣を再構築する。
5年生では塾で学びながら先取りと習熟を進める。
5年生の終わりに模試を使って現在地を確認する。
その結果、十分な余力があれば中学受験へ。
そうでなければ高校受験へ。そして6年生になったら、選んだ道に合わせて学習量と方法を変える。
僕は、このくらい「進路を後から選べる状態」を残しておくほうが、家庭にとっても子どもにとっても健全なのではないかと思っています。
中学受験は、早く決めた家庭が勝つゲームではありません。
むしろ大切なのは、決断するまでにどれだけ学習習慣と基礎学力を積み上げ、5年生の終わりに「この先、どちらへ進むのが合理的なのか」を冷静に判断できる状態を作れるか。
その意味では、5年生までの家庭学習2時間半は、単なる「中学受験対策」ではありません。
それは、中学受験にも高校受験にも進めるための選択肢を残すための時間なのかなと思っています。
参考になれば・・・
でわ
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