日本質的心理学会 が東京で開催され、参加しました。
こちら にも記載いたしましたように、現在質的研究に取り組んでおり、情報収集を積極的にしているところです。
本大会は、(思ったより及び会場に対して)人が多くて、待ち合わせた友人と(意外にも)会えなかったり、聞きたいシンポジウムが満員で入れなかったりで、熱気に圧倒されました!
Narrative medicine
Life review
などの視点・言葉を新たに学びました。
例えば、「医療現場で見られる側面だけでなく、その人の日常生活の全体をどうにか把握できないだろうか?把握することでより良い問題解決を模索できないだろうか?」という思いは、共通だなあと思いました。この視点は、精神科にも強いだろうし、緩和ケアとかの分野でも強いのではないかな?
間主観性
の大切さも改めて認識しました。
つまり、話す人と聞く人がそれぞれ主観を持っていて、その交差点で対話は行われ物事は捉えられるという話。
それぞれの世界観、文化もありますし、職業や経験も投影されることと思います。
まさに現在の問題だけでなく、話す人の生活歴などの背景を尋ねたり、聞き手がインタビュー中に抱いた感想をまとめたり、インタビュー中に話し手が持っている定義を聞き手が把握したりなどの過程を踏んで、間主観性を把握したりします。
従って、数を数えたり尺度で測定したりする謂わゆる量的研究と異なり、観察したりインタビューしたりする質的研究は研究者がどのような世界観、職業、経験を持っているかにより見えるものが異なります。そこを意識して研究デザインがされますし、結果の検討も行われます。私の研究は精神科に強制入院になった人の感想と入院の決め方への希望を把握するものですが、患者さんへのインタビューは同様の経験を過去にした当事者に行ってもらい、その家族や医師へのインタビューは私(医師)が担当しています。また、研究デザインに当事者に加わってもらい、私の医師の視点に偏ったものとならないように工夫しましたし、インタビュー結果の解釈も当事者と一緒に行う予定です。
読者が追体験できる
というのも大事な視点だと感じました。
こんな本も話題にのぼりました。
黒い皮膚・白い仮面 (みすずライブラリー)
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内容(「MARC」データベースより)
黒い皮膚への偏見に身を貫かれた自らの生体験から、黒人と白人の関係を理解する試みを開始した著者。黒人が白人社会で出会う現実と心理を、精神分析学的なアプローチを含め、様々な側面から描く。
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文学を解釈する手法で質的研究の分析を試みる項も紹介されていました。
しかし、これは私には今ひとつピンと来ず、そこに記載のないことを想像し(過ぎ)ている感じを受けましたし、謂わゆるresearch questionを立てて焦点・対象を絞らないためか散漫な印象を受け、逆に間違えた解釈・決めつけをする危険を感じました。
Arthur Kleinmanのお名前もあがりました。
下記とか読んでみようかしら。
Patients and Healers in the Context of Culture:...
4,091円
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臨床人類学―文化のなかの病者と治療者
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The Illness Narratives: Suffering, Healing, And...
2,651円
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時折、質的研究の結果の裏付けだったり、別の角度からの吟味だったりで、量的手法も合わせて試みようとしている場面もありました。
しかし、5例とか10例を二つの群に分けて統計的に比較しても、それは意味がなく、、、量的手法への理解も重要だなと感じました。混合研究法とかmixed methodとか呼ばれる領域を理解すると、質的研究と量的研究の出会いはとても意味のあることと思います。
日本心理学会の倫理規定も話題にあがりました。
https://www.psych.or.jp/publication/inst/rinri_kitei.pdf
Qualitative Psychologyがこの分野では一大学術誌のようです。
https://www.psych.or.jp/publication/inst/rinri_kitei.pdf
言語は考えを作る
というのも深い一言。
学会中に発表されたdiscourse分析に基づき、質的研究の分析はどんなことをするかの流れを一つ記載します。
1 インタビューなどの書き起こし文を作成
2 書き起こし文には一文ごとに番号を振り、余白を設けたものを準備
3 2をまずは何度も読み、全体を把握
4 余白に、気になる点や疑問をどんどん書く
5 全体のテーマ、関連テーマ、視点、相違点などを書き出す
6 テーマを抽出して、何度も読んでは、テーマを書き直して洗練させる
7 本来あるべきものがないとか、文章の「ので」「から」などの接続に着目して、テーマを洗練させる
8 語り手の思いを実感する
9 語りから見られる別の見方を検討する
10 語り手の現実の捉え方の妥当性を検討し、重み付け、因果関係、属性を考える
11 語り手の考え方の社会的、認知的要因を検討する。例えば、本人が原因?周囲が原因?の視点や、目立つことにばかり目が行きがちなことに配慮する。
12 改めて全体を見る。全体がわかると微細が読み取れ、微細が読み取れると全体が読み取れる。
別の会でご一緒した方とばったり会ったり、以前の知り合いが同じ学会に行くことを知ったりと、段々と点と点が線になってきている感じがあります。もう少しするとこの世界の登場人物の多くに触れ「狭い世界だから」なんて感覚を覚えるのでしょうか。
知人がポスター発表をしていて、格好良かった!
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28346072
2日間の学会のうち、諸事情で1日しか聞けませんでしたが、納得したり疑問を持ったり、賛成したり反対したりしながら学ぶものは多かったです。
ネットだと、すぐに話題に触れることはできますが、全体像だったり、流れだったりは分からないし、人との出会いがないので、そんな点においても、学会に出向くのは大切だなと思います。
もっとも、国外だったりすると費用もかなりかかるので、そこはバランスですが。でも、こういうのを思い出すと、私にはglobal感のある風が必要なので、ところどころ出向きたいかな。
ちなみに、年内はもう二回学会(東京都内)に行く予定で、来年は一つ国外(招待◎)、一つ東京近郊(招待◎)に行くことは決まっております。