ドラゴンクエスト日記 -95ページ目

000.ムーンブルク城---序章  on ドラゴンクエスト II

はるか昔、伝説の勇者ロトの血を引く若者によって竜王は倒され、世界は光を取り戻した。
若者はその後一人の女性とともに旅に出て、いくつかの新しい国を築いたのだった。
それらの国は、若者の子供たちによって代々治められたと伝えられている。
そして100年の月日が流れた・・・。



ここはムーンブルク。
勇者ロトの末裔が築いたいくつかの王国のうち、その盟主たるローレシアよりはるか南西にこの国はあった。
城の中庭では、王様と若き姫君が平和な語らいの時を過ごしていた。



しかし・・・!



城全体を揺さぶるような振動とともに、激しい爆発音が突如鳴り響いた。
突然の出来事に怯える愛娘をかばいながら、ムーンブルク王は近衛兵に呼びかけた。
「これは・・いったい何が起こったのだ! 誰か、誰かおらぬか!」



その呼びかけに応え、直近の近衛兵が磨き上げられた鉄の槍を携えて中庭に駆け込んできた。
「お、王様! 大変でございます! 大神官ハーゴンの軍隊が、我がムーンブルクのお城を!」
「何っ!? ハーゴンが攻めてきたと申すかっ!?」



ハーゴンという響きに苦い表情を見せたが、それを一瞬で消し去り、王としての責務を思い出した。
兵を集め、ハーゴンの軍勢を撃退するのだ。
このムーンブルクの地に脈々と連なるロトの血にかけて!



ムーンブルク王は姫を地下室へと押し込んだ。ここならばたとえ万が一のことがあったとしても、生き延びられるに違いない。
果たすべき王としての責務を一瞬忘れ、ムーンブルク王は愛娘に話しかけた。


「よいな。わしの身になにが起こっても嘆くでないぞ」
「お、お父様・・・!」
そういうムーンブルク王の顔は緊張でこわばっていたものの、その瞳にはいつものように深い優しさが満ちている。もしかしたらムーンブルク王は、きわめて近い将来自分の身に降りかかる惨事を予期していたのかもしれない。



一人だけ隠れることを渋る姫を無理やり地下室に押し込み、王は再び中庭に駆け戻る。
この事態を盟友であるローレシア王に伝え、一刻も早くハーゴン打倒の手を打たねばならないのだ。



しかし、中庭を出ようとしたとき上空からグレムリンの大群が押し寄せてきた。
この子悪魔たちは単体であればそれほどの脅威ではないが、群れで押し寄せてくるとやっかいだ。
囲まれては面倒と判断し、目の前に立ちふさがった一匹にバギの呪文を唱える。
真空の刃が乱れ飛び、切り刻まれたグレムリンは反撃するまもなくそのまま崩れ落ちた。



しかし次々に襲い掛かるグレムリンたちに足を止められ、先に進むことができない。
ここはグレムリンどもを先に全滅させるしかなさそうだ。



そうと決めれば、魔術に長けたムーンブルク王にとってグレムリンたちなどはものの敵ではない。
ぐるりとモンスターの群れに向き直り、再びバギの呪文を唱える。



しかし距離が離れていたために今度は一撃で倒すことができず、さらに二撃目を放とうとしたとき、頭に血が上っていたムーンブルク王は背後に悪魔神官が忍び寄っていたことに気がつくことができなかった。



「ぐああああっ!!」



至近距離から無防備な背中に灼熱呪文のベギラマを受け、ムーンブルク王は苦悶の叫び声を上げてその場に倒れた。
激痛のために意識が遠ざかる最後の瞬間、ムーンブルク王の目に見えたのは今は亡き王妃と愛娘の微笑む姿だった。



その様子を物陰から見ていたムーンブルクの王女は、地に倒れ動かなくなった父の姿を見て声にならない叫び声をあげた。
「お父様!」



そのころ、城のあちこちでは戦闘というよりも虐殺に近い戦いが始まっていた。
鍛え上げられたムーンブルクの兵士たちは果敢に戦ったが、途方もない数で押し寄せるモンスターの群れに一人、また一人と倒れていった。



そんな中、一人の兵士が命からがらムーンブルク城を抜け出した。
つい先ほどまで談笑していた親友の亡骸を乗り越え、手塩に育ててきた自分の部下がぼろ雑巾のように切り裂かれる姿を横目に見ながら。



兵士が城を出ると、それからまもなくして城に炎の手が上がった。
モンスターたちが火を放ったのだろう。
長らく栄華を誇ったムーンブルク城が、みるみる炎に包まれていく。



王様は無事だろうか。あの愛らしい姫君はどうなったのだろうか。



兵士は全身傷ついていたが、痛みを感じることもなく、ローレシア城に向けて足を速めていった。