ジョルダーノとかぐや | 怖い話します(選集)

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場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

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今回はこういうお題でいきます。宇宙について興味を持たれて
いる方なら、「ああ、あれか」とすぐにおわかりになるでしょう。
さて、まず登場してもらうのは、15~16世紀のポーランド出身の
神学者、天文学者、ニコラウス・コペルニクスです。彼はもちろん、
天動説に対して、地動説を唱えたことで知られていますね。

当時の一般的な認識は、天空そのものが地球に対して円運動
しているとする天動説です。そのほうが感覚的に理解しやすいですよね。
天動説は、地球が宇宙の中心にあるという「地球中心説」の別名も
あります。ちなみに、この時代、知識人の間では地球は球体と考え
られていましたが、一般民衆は平面だと思ってる人が多かったでしょう。

天動説
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さて、コペルニクスの時代には天文観測が進んできており、
そこで得られる知見を天動説にあてはめるには、さまざまな数学的な
操作をしなくてはなりません。司祭でもあったコペルニクスは、
「神が創られた世界がそんなに複雑なものであるはずがない」と考え、
地動説の着想を持つようになります。

ですが、教会に遠慮したため、その著書『天体の回転について』が
出版されたのは死の直前のことでした。その後、17世紀に入り望遠鏡が
発明され、自作の望遠鏡で天体観測をしていたガリレオ・ガリレイは
コペルニクス理論が正しいことに気がつきます。そして、それを公言したため
ローマ教皇庁の反感を買い、裁判によって地動説を放棄させられます。

ニコラウス・コペルニクス
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このあたりのことはよくご存知だと思いますが、この2人のビッグネームに
はさまれた存在が、16世紀のイタリアの哲学者、神学者である
ジョルダーノ・ブルーノです。ジョルダーノは天文観測もしていましたが、
主に神学的な考察から、「神が創造した宇宙が有限であるはずがない」という
宇宙無限論の信奉者になります。そしてそこから、

宇宙の時間と空間が無限であること、宇宙は地球と同じ物質でできていること、
地球上の物理法則は宇宙全体に働くこと、などを主張しました。
また、コペルニクスの地動説も、条件つきながらも認めて擁護したんです。
ブルーノはガチの修道士であったため、他の2人のようには許されず、
また自説を撤回することもなく、ローマ教皇庁によって異端審問され、

ガリレオ・ガリレイ
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火刑に処せられたんですね。その際、ジョルダーノは刑を宣告する執行官に
対して、「これから死ぬ私よりも、あなたたちのほうが真理の前に恐怖し
震えている」と言ったとされます。もちろん現在ではジョルダーノの名誉は
回復され、1979年、カトリック教会は公式に異端判決を取り消しました。

さて、ここで話変わって、このジョルダーノの名前を取ってつけられた
月のクレーターがあります。地球から見ると、月の北端のすぐ向こう側の
裏にあり、常時観測することはできません。直径22kmで、
エッジなども鋭く、きわめて新しいもののように見えます。

ジョルダーノ・ブルーノ
キャプチャert

1178年に話は遡ります。イギリスの古文書『カンタベリー修道院年代記』に、
「6月18日の日没直後、5人の修道士が、年代記編者のジャーベイスに
月の角が2つに割れたと報告した。さらにジャーベイスは、割れ目の真ん中
から炎が噴き出し、月は心配するように身もだえ、私に報告してくれた
者の言葉では、月は傷ついた蛇のように脈打っていた。

この現象は何十回も繰り返し、炎は様々なねじれた形を描いた。
この現象が収まると、月は全体が黒っぽく見えた」と記されているんです。
何か異常な天体現象が起きたのは間違いありません。
で、1976年、地質学者のジャック・アートゥングは、
この謎の現象は月面への隕石衝突であり、

異端を宣告されるジョルダーノ
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その衝突でできたのが直新しいクレーター「ジョルダーノ・ブルーノ・
クレーター」だと主張したんですね。なるほど、月の裏すぐに大隕石が
落ちれば、「月の角が割れた」という表現はうなずけます。しかし、
21世紀に入り、これに対する反論も出てきました。

そんな大衝突が本当にあったなら、飛び散った破片が地球にも降り注ぎ、
激しい流星雨が数週間は起きる計算になる。しかしそんな大流星雨の記録は
世界のどこにも残っていない・・・ まあそうですね。12世紀のことで
あれば、中国はもちろん、日本でも天体現象の記録を公式にとっていますが、
そんな記述は出てこない。これは世界のどこでも見られたはずなのに。

ジョルダーノ・ブルーノ・クレーター
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で、ここでやっと出てくるのが、2007年に打ち上げられた日本の
月探査衛星「かぐや」です。じつは、かぐやの正式名称は「SELENE
Selenological and Engineering Explorer セレーネ」で、「かぐや」は
一般公募によってつけられた愛称なんです。ご存知でしたか。

2つの子機「おきな」と「おうな」を持ち、月面から高度100kmの
月周回観測軌道に投入されました。もちろん愛称のかぐやは、
『竹取物語』の主人公の姫の名前で、光り輝いて匂うほどに美しい
というような意味です。宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の研究者は、
かぐやの地形カメラで撮影した画像から、クレーター周辺に堆積した

かぐやとおきな、おうな
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噴出物の上にできた新しい小さなクレーターの密度を調べ、その結果、
ジョルダーノ・ブルーノが形成されたのは100万年~1000万年前で
あると推定しました。それでも、直径10km以上では最も新しいものです。
では、1178年に修道士らが見たのは何だったのか。地球に向かってきた
流星が、たまたま月と重なって見えたという説が有力視されていますね。

さてさて、最後に超トンデモ説を。ジョルダーノ・ブルーノはなんと織田信長
だったという話で、根拠は肖像画の顔が似ているから(笑)。まあ、
そんなはずはないんですが、信長が本能寺の変で死んだのが1582年、
ジョルダーノは1548年生まれ、1600年に火刑にされました。
火につつまれた最期だったのは同じですね。では、今回はこのへんで。

ジョルダーノと信長 似てますかねえ

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