え~、昔っから「無理が通れば道理が引っ込む」といいますが、客というものはいつの時代もわがままなもので
「おい、紀州屋!不良品を売りつけたな」
「どうしたんですか、八兵衛さん。藪から棒に」
「この前買った杯、穴が開いてるじゃねぇか!」
「あらあら」
「あらあらじゃねえよ。酒がこぼれて使いものになりゃしねぇ。熊こうには笑われるし、女房には馬鹿にされるし」
「困りましたねぇ」
「困ってるのはこっちだ。買い戻せ」
「八兵衛さん、あの杯を売るときに説明しましたよね?」
「何をだ?」
「あれは、酒宴の遊びに使う杯です。穴を塞ぐように杯を持ち、酒を受ける。酒がこぼれるから、飲み干すまで杯を置くことはできない。そんな遊びのための杯だって」
「あっ!」
「思い出しましたか?」
「し、しらねぇ。聞いた覚えはねぇ。とにかく、買い戻せ」
「そりゃあ、構いませんが・・・」
「ぐだぐだ言ってねぇで買い戻せばいいんだよ」
紀州屋さんの正論が、八兵衛さんの面子を潰して、意地になってしまったようです。
「あら、八兵衛さん」
「小雪ちゃん」
「どうだった?あの杯、面白かったでしょ?」
「いや・・・それが・・・その・・・」
「お酒が好きな八兵衛さんなら、きっと楽しんでくれると思ってあたしが仕入れたの」
「そうなのかい?」
「うん、ちょっと飲みすぎるかもしれないけど、八兵衛さん強いから」
「そ、そうかい?」
「わたしこれからお琴のお稽古なの。じゃあ、またね」
「あぁ、またな」
「紀州屋、今の話本当なのかい?」
「小雪が仕入れたことですか?」
「そうだよ」
「本当で御座います」
「そうか、それじゃあ、いくら不良品でも突っ返すわけにはいかねぇな」
「そうで御座いますか」
「穴があったら入りてぇ」
おやおや、結局はハッピーエンドのようで。
現実は、なかなか物語のようにハッピーエンドでは終わりません。
客のクレームを論破したものの、客は納得せず(正確には理解できない)あれやこれやと難癖をつけては、こちらに非があると結論づけようと画策します。
非があると認めてしまえば、私のプライドと、製作をした仲間の名誉が傷つくことになる。
客の面子を潰したかったわけではないけれど、対応を間違えたことは確かなようだ。
まだまだ、修行が足りませんなぁ。