ワンダーワールド 悪鬼災来編 第46話 爆誕する脅威 | 白龍のブログ 小説とかを描き続ける機械

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人間の研究所にて。
闇姫軍は、とてつもない物をまのあたりにした。

「ちっ。後先考えろよ馬鹿どもが」
一つの部屋だった。
何も物が置かれていない部屋だった。
鉄の壁や天井に囲まれるなか、部屋の中心に真っ赤な光が渦巻いていたのだ。
光の先には、赤いスーツの男が立っていた。スーツを激しくなびかせながら、光をウットリと見つめていた。
闇姫は困惑する兵士達を背に、落ち着いて聞いた。
「おい。こんな魔力を放置してたらお前らもこの研究所も魔力に取り込まれるぞ。何をぼーっとしてやがる」
「これはこれは。お待ちしてましたよ闇姫様。ご覧のとおり、あなた方が集めてくれた地獄石のおかげで、地獄への扉が開かれました」
この光の中心に、地獄の入り口があるのだ。邪神シンが作り上げた、正真正銘の地獄が。
光は、一際強くなる。今まさに、何かが起きようとしているようだった。
男は続ける。
「勿論我々はこの魔力に取り込まれ、一つとなる覚悟です。それが我々の最終目標なのですから。私を中心とした研究員全員が地獄の魔力と直接融合し、無数の人間の叡智と地獄の力を融合した究極の兵器が誕生するのです。人間の未来を守る為にね」
光が更に強くなる。
「ダイガル、頼む」
闇姫が右手を突き出すと同時に、ダイガルが赤く光る。
ダイガルは手足を広げ、自身を中心に赤いドーム状の光を召喚した!
光は兵士達を守る。
闇姫とダイガルの魔力を組み合わせたバリアだ。
強い力が押し寄せてくる。そう確信したのだ。
その予想は的中、大量の魔力が恐ろしい勢いでこちらに迫り、研究所のあちこちに貼り付いていく。
赤い光は凄まじい勢いで激しさを増し、闇姫軍一同の視界が赤く染まる…!






「…」
…これらは一瞬の出来事だった。
兵士達が目を開くと、そこは荒れ果てた荒野と化していた。
研究所は微塵も残ってない。研究員たちも誰一人残っておらず、まるでこの世から抹消されたかのようだった。

…だが、研究所達は今、新たな姿となって目の前に立っていた。


「厄介なのが出てきたな」
闇姫とダイガルが、少々声を重くした。






亜華魔の三将の勢いは、もうほとんどなかった。
剛強鬼の拳は粉砕男の拳を相殺できず、完全に剛強鬼へのダメージのほうが大きい。
百戦鬼の槍も葵の弾丸をほとんど切り裂けなくなっている。
二人共動く度に足から血が吹き出していた。

叡光鬼も、膝を曲げつつも尚刀を持っていた。
れみは息を切らしつつも、まだまだ戦える。
「まだやるの?」
「当然です…。我々が消え去る前に人間の味方をする者を確実に始末しなくてはなりません。地獄石のエネルギーを解放しても消える事ができるのは人間と悪鬼…すなわち、地獄の創造主、邪神シンに関係する者のみです。あなた方は消せませんからね」
叡光鬼は膝をつく。
全身にのしかかる負荷にいよいよ耐えられなくなったのだ。
れみはそんな彼に歩み寄る。

「…諦める訳には、いかないのですよ!」
叡光鬼は、膝をついたまま刀を振るう!
だがもう速さもキレもない。れみは少し後ずさるだけで回避し、叡光鬼の顔面を蹴りつけた!!
吹っ飛ばされながら血を吹く叡光鬼。血を吹きつつも、まだ言う。
「…これは贖罪です!我々はこの世に生まれるべきではなかった!我々を生み出した人間も、生まれるべきではなかった!この世の汚れが何よりの証拠…!」
ふと横を見ると、百戦鬼も同じような事を言いながら膝をついていた。
「この世を汚す人間が消え、そして悪鬼が消える!それはお前らにとっても悪くない話なはずだ!それなのに、何故だ!!本当に、本当に理解できな…」
「お前らの理解が足りてないからだろうが!!」
怒号が響くと同時に、百戦鬼は何かに蹴飛ばされる!
砂煙を散らしながら、百戦鬼は目を丸めた。



蹴飛ばしたのは、ラオンだった。
荒れた性格のラオンが、涙を流していた。
呆然とする一同。ラオンは今度は叡光鬼に近づき、胸ぐらを掴み、殴り飛ばす。
「消えるとか贖罪とか、何でそんな考えしかしないんだよ!私だって人間は嫌いだ!クソほど嫌いだ!!でも、だからって可能性を捨ててる訳じゃない!いつかは人間も心を入れ替える!そう信じて信じて、我慢して仕方なく味方でいてやってんだ!!」
叡光鬼は、すっかり黙りこんだ。あの頭脳明晰な叡光鬼が、ラオンの単純な言葉に黙ったのだ。
ラオンは畳み掛けるように続けた。
「なのに何だお前らは!?私らがこんなに耐えてやってんのに、一方的に人間を消すだの、自分達が消えるだの!可能性を感じさせてくれる人間は、ここにいるだろうが!!」
今までにない勢いで叫び、火竜とエックスを指差した。


戦闘音は、しなくなっていた。





「…れ、お、れは…」
弱々しい声がした。
誰の声かと、一同は必死に声の主を探した。


…その弱々しい声は、あの剛強鬼だった。



恐ろしい鬼の目から、涙を流していた。
…いや、その顔は恐ろしくない。
深い、深い悲しみに表情を委ねた、とても悲しげな顔だった。

「二人共…俺は、俺は…生きたい。本当は生きたいんだ。悪鬼は強い。悪鬼の力は凄い。だから、消えるには勿体ねえんだよ…」
粉砕男が、はっ、とした。
彼がやたら悪鬼の力を誇張していたのは、こんな理由があったのだ。
悪鬼の力を思い知らせたくて、自分達の存在を知らせたくて。

剛強鬼は、優しく地面に手をついた。
何粒もの大きな涙が、地面に落ちた。
「ごめん、二人共。俺、言えなかったんだ。亜華魔姫様やお前らがあまりにも決意に溢れてたから…今更、言えなかったんだ」
叡光鬼と百戦鬼は…返す言葉が見つからなかった。
いつの間にか戦場から、熱が消えていた。











それは、れなと鬼子も同じだった。
鬼子は妖姫の体を軽くはたき、汚れをとる。
いつもの妖姫が、そこに立っていた。

「さ、皆のところに戻ろう。他の将を説得しに行くわよ」
…鬼子は、妖姫の手をとっていた。
妖姫は、素直に頷いた。あのお喋りな妖姫が、何も言わない。
…今は、何も言わないのだ。

れなは、静かに笑っていた。




…しかし。

「…」
何かが、息を吐いた。



「…っ!?」
三人は、思わず息を呑む。


先程まで倒れていた亜華魔姫が起き上がったのだ。
頭から血を流し、満身創痍の状態だった。魔力もほとんど残ってないはずだが、倒れて間もなくして自力で立ち上がったのだ。
れなと鬼子は妖姫を庇いながら後ずさる。



…亜華魔姫は、俯いたまま何も喋らない。
薄汚れた白髪を垂らし、泥を被って黒ずんだ着物。
…尚もその姿は美しく、そして不気味だった。
れなが言う。
「ま、まだやる気!?でもお前の最大の武器である刀はもうこの通り!どう戦う気!?」
れなが指差す先には、瓦礫に叩きつけられ、粉々になった亜華魔姫の刀があった。
この状態で、主要武器も使えない。どう考えても亜華魔姫が不利なはずだが…。



…亜華魔姫は、何も言わない。
ただただ、黒ずんだ床だけを見つめていた。


そして…ゆっくり顔を上げ、今度は赤い空を見上げる。

「不思議だ。何故私はこうも気品ばかりに気を配っていたのだろうか」

…ようやく発した言葉が、これだ。
当然れなも鬼子も、何も返す言葉がない。

…亜華魔姫が、ようやくこちらに目線をあわせた。


…とてつもなく恐ろしい顔をしていた。
目は怒りに満ち、なのに口は喜びを体現したかのように口角が上がってる。

まさに、鬼のような…。

「ああ。確かに失った。刀も、最大の武器であった憑将、妖姫も。だが…私は一番強い武器を忘れていたよ」

亜華魔姫は、右手をあげた。

…その右手は、拳が握られていた。

「強き者達。こいつでお前達を始末する…。いや…ぶっ殺してやるぜ」
まるで別人のような口調だった。




この時、亜華魔姫の底知れぬ魔力は城の外まで流れていた。
戦闘を中止した仲間達のもとに、その魔力が伝わる。
城を一斉に見る仲間達。れなと鬼子、そして妖姫に、何かあったのかと思ったのだ。
熱のような魔力だった。何かに閉じ込められていた熱が一気に放出されたような、押し寄せるような熱の魔力が。

「…ん!?どうした!」
粉砕男が三将を見た。
三将は、冷や汗をかきながら地面に手をついていた。
「しっかりして!」
ドクロが百戦鬼に駆け寄る。
百戦鬼は、低く、何かを恐れているような声を出した。
「まずい…まさか亜華魔姫様がお目覚めになったというのか!?」
百戦鬼の言葉に、剛強鬼が大きな体を震わせる。
そして、叡光鬼が一同に語った。
「…亜華魔姫様はとても美しく、気高い方です。その美しさから我々悪鬼にとって彼女は首領であると同時に女神のような存在でもありました。…しかし、それは彼女が悪鬼を束ねる為に必死に築き上げた仮の姿なのです」
ラオンが、ナイフを持ち直した。その隣でテリーも、両手に青い魔力を纏っていつでも一同を守れるように防御魔術の準備をする。
…戦いは、これから激しくなる事を悟ったのだ。

「亜華魔姫様の本性、それは鬼神の英才。鬼本来の姿と言われる野蛮さと戦闘欲を掛け合わせた暴虐無比の存在なのです。その姿は…ハッキリ言って気品の欠片もありません」
叡光鬼はゆっくりと立ち上がる。
そして、尚も魔力が放たれている城を見る。

「我々亜華魔の将は、一度だけ彼女の本当の姿を見た事があります。…もし本当に彼女が本来の姿に戻れば…彼女はこの世の全てを破壊するまで止まらない…!」




…そんな事も知らず、れなと鬼子は亜華魔姫の豹変に困惑していた。
妖姫は、あまりの恐怖に言葉も出ない。


亜華魔姫の白髪は常に風に吹かれているかのように舞っており、着物も真下から風が吹いているように揺れていた。
真っ赤な目は三人を睨みつけていた。
両手の指を鳴らし合わせ、勢いよく床に足を振り下ろす亜華魔姫。
城全体が揺れ、地面に沈みかける。
バランスを崩すれなと鬼子に、亜華魔姫は白い息を吐く。
「おいおい、そんなんで俺を楽しませられるのか?」
あのれなでさえ目を丸めていた。
「ちょ、どうしたの!?え、え?俺っ娘だったの?まさか誰かが亜華魔姫に取り憑いた!?」
亜華魔姫は震える足を抑えながら首を鳴らす。美しい顔に、恐ろしい程の喜びが浮かぶ。
「取り憑かれた?ちげぇよ。これこそが俺の本来の姿だよ。良いからとっとと、戦え!!」
言うや否や、亜華魔姫の足元の床にヒビが刻まれ、瞬時に破壊される。
無数の瓦礫が散るなか、鬼子に拳が叩き込まれる!!その衝撃で今度は壁が壊れ、元々の部屋の原型は跡形もなく消え去った。
外に放り出される鬼子。
忘れていたが、ここは城の頂上だった。凄まじい高さから凄まじい勢いで落下する!
「きっ鬼子!」
こちらを追いかけて飛んでくる妖姫の姿が見えた。
「妖姫!今ばかりは隠れてなさい!」
落下しながら鬼子は叫んだ。

「うぐっ!」

…地面に衝突する鬼子。
何とか受け身をとれたが、立ち上がろうとした瞬間に亜華魔姫が城の上から飛び降りてくる!
鬼子は勢いよく体を踏みつけられ、周囲に衝撃波が放たれ、クレーターが出来上がる。
そのまま鬼子に馬乗りになり、ひたすら顔面を殴り始める亜華魔姫。
鬼子は痛みに耐えながら必死に問う。
「亜華魔姫っ!た、頼むから話を…」
「話で済むと思うか?ここまで来て!結局は殴り合いだ!!暴力だ!!お前らが死ぬまで殴り続けて、その後に人間と共に消えてやる!!」
渾身の力を込めた拳を鬼子の胸に叩き込み、吐血させる。
鬼子は苦痛の中、炎の刀を振るおうとするが…亜華魔姫は直ぐ様刀を取り上げ、鬼子の体に叩きつける!!
刀があまりの力に分裂し、鬼子は炎に包まれてしまう!
「くあああああ!!」
亜華魔姫は燃え上がる鬼子を平然と持ち上げ、投げ飛ばす!あまりの風圧に、鬼子を包む炎が消えてしまう。
地面に叩きつけられ、バウンドする鬼子。更なる追い打ちを決めようとする亜華魔姫だが…。
「やめろー!!」
れなが、城の上からこちらに飛んでくる!
勿論れなも始末の対象だ。
集中攻撃の対象をれなに切り替え、拳を突きだす!
だがれなは打撃の専門。亜華魔姫の拳の軌道と突きの向きを瞬時に把握し、手の平で受け止めてみせた!
亜華魔姫は受け止められるが否や、回し蹴りを叩き込んでくる!れなは右腕を構えて受け止める。
蹴りを繰り出した事でバランスを崩した亜華魔姫。隙を見逃さず、れなは膝蹴りをぶちこみ、拳を振り上げて顎を殴り上げた!
高く吹き飛ばされる亜華魔姫だが、飛行能力を発動し、城の上空まで飛んでいく。
何の真似だとれなはしばらく見つめていたが…危険を察知した。
「あっ…!鬼子、危ない!!」
れなは倒れていた鬼子を抱きかかえ、その場から走り去る!
予感は的中。亜華魔姫が空中から物凄い速度で降りてきた!
そして大地を殴りつけ、自身の周囲にとてつもない衝撃波を放つ!
地面が凹み、大穴が形成、近くにあった城が穴に向かって墜落!
れなは鬼子を抱えつつ上手く飛行し、城をかわす!
城内には悪鬼達がいる。これくらいで死ぬ事はないだろうが、今の亜華魔姫は容赦なしだ。本当に周りが見えてない!
倒れてきた城と激しく舞い散る瓦礫を背に、亜華魔姫は立ち上がる。
そして、やはり拳を突き出してくる!
「もうやめろ!」
れなは鬼子を降ろし、拳を受け止める!



それと同時に衝撃波が生じ、仲間達のもとへ届く。
崩れる瓦礫の音、何より突然形成された大穴に城が落ちていく一部始終を、一同は目の当たりにした。
叡光鬼が真っ先に反応する。
「この力は…!亜華魔姫様が城の外に!」
立ち上がろうとする叡光鬼。しかし戦いで傷ついた体では上手く立ち上がれない。
ドクロが彼に駆け寄り、無理に立たないようにと上から押さえつける。そんな事をしたら逆に体に来る。
葵がハンドガンを構えながら将達を落ち着かせた。
「私達が亜華魔姫を止めてくる!皆はここで休んでて…」
…言いかける。

…嫌な事に気づいた。

亜華魔姫の力とは別に、もう一つ力が近づいてくるのに気づいたのだ。
とても熱い魔力だ。燃え上がる炎が建物を焼き払っていくような、突き進む炎の力を感じる。
熱く、強い意志の力だが…なぜか嫌なものも感じた。
悪寒に近い不気味な力を。


上を見上げた。




「…!」
息を呑む。



頭上には…一つの巨影が飛んでいた。
スキンヘッドの怪人だ。しかし、その身長は四メートル程もある。
顔は黄色い小さな目を持ち、下顎からは無数の牙を生やしている。まるで猪のような牙だ。
青いスーツを着ており、両肩には白くて大きな棘、腰元にはブースターを備えており、両腕には鋼鉄の腕輪。
兵器を備えた巨人だった。
巨人は異形の口を開き、その外見とは裏腹な高い声を発する。
「さあ悪鬼ども、出てこい!この兵器が誕生した今、この世にお前らの場所はない!」
葵達ははじめ、また亜華魔姫の使いかと思ったが、この発言、この見た目。どう見ても部外者だ。
その姿に強く反応したのはエックスだ。巨人を指さして叫ぶ。
「や、やつは…!まさか!」
巨人は両腕を広げて胸を張る。その一つ一つの動きは、生物とは思えぬ角ばった動きだった。
「そう!これは地獄石を集め、現世と地獄を繫ぎ合わせる事で出現した地獄の魔力から作り上げた最強の肉体!更にそこへ我々人間が作り上げた兵器を搭載する事で、地獄と兵器の力を合わせた究極の生命体が誕生したのだ!」
巨人は手始めに拳を振るう。
すると、たった一回振るっただけの拳から衝撃波が放たれ、地面のあちこちで爆発が起きる!
不意打ちだった。一同は爆発に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる!
「ぐはぁ!ど、どんな仕組みだよ!」
れみが唸りながら立ち上がろうとするが…その時は既に巨人が拳を振りかぶっていた…!第二撃だ!


しかし、同時に一同の目の前に赤い光が出現、衝撃波を防ぐ!
「!?」

…視線を向けると、槍を振るった百戦鬼の姿があった。
息を切らしつつ、巨人を見上げる百戦鬼。
「ここは致し方あるまい…。手を貸してくれ!」
同時に横一列に並ぶ一同。
巨人は腰元のブースターから炎を射出し、周囲に煙を散らす。
白い煙のなかでも、一同は一切怯まなかった。

「良いだろう。まずはお前らから殺してやる。悪鬼も、悪鬼の味方をする連中も皆殺しだ!さあ、このエクスクローMKⅡの礎となれ!」
エクスクローの咆哮が、空に響く!