ワンダーワールド 悪鬼の災来編 第45話 戦火に注がれた涙 | 白龍のブログ 小説とかを描き続ける機械

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主を守る為、三将は必死に戦っていた。
剛強鬼は腕から血を流し、叡光鬼の刀はついに折れ、百戦鬼の鎧も血濡れてる。
ここまで来ると、火竜達ももうこれ以上戦いたくなかった。
いや、戦う意味がないと見たのだ。
それでも三人は向かってくる。
叡光鬼の折れた刀を両手で弾きながら、れみが言う。
「一体なぜここまで!」
二人の横では銃声が響いている。
葵がハンドガンで発砲していた。百戦鬼は避けようとするが、何発か避けきれず当たっていた。
「これ以上戦う意味はないでしょ!いい加減話して!目的を!」
葵の回し蹴りが、百戦鬼を薙ぎ倒す。

そんな二人を見ながら、剛強鬼は拳を握りながら自身の血を睨んでいた。
「うるせえ…俺達は悪鬼だ。何よりも強い!俺達は…俺達は…!」
そんな剛強鬼の足に、鈍痛が走る。バランスを崩して転倒する剛強鬼。
彼を転倒させたのは、粉砕男の蹴りだった。
「お前らはどうも何かを隠してるようだな。目的を話す気はないのか」
「微塵もない!誰がお前らなんかに…」




そんな剛強鬼の耳に、ある声が聞こえた。


「…話しましょう」



…叡光鬼だった。



百戦鬼も、剛強鬼も、他の一同も腕を止め、沈黙する。


剛強鬼が倒れたまま叡光鬼を止めようとする。
「お、おい知将!本気か!?」
「本気です。冥土の土産ですよ」
何やら、他にも隠している事があるようだった。
しかし…今は彼の言葉に耳を向けるしかない。



折れた刀をようやく下ろし、ボロボロな城を背に、叡光鬼は言う。



「我々の目的、それは人間を消し去る事…」
一同の表情が、より固くなる。
















「…そして、我々も消える事です」




…謎の言葉に、皆口を大きく開く。


百戦鬼と剛強鬼だけは、俯いたままだった。

「人間は愚かです。あまりにも愚かなのです。彼らは昔から同じ人間同士で争い合い、殺し合い、時にはその争いに他の生物を巻き込んでいきました。彼らによって破壊された地球環境は数知れません。恐らく、地球でも最も嫌われてる生物でしょう。…しかし、彼らの悪意から我々が生まれたのも事実」
戦場は、沈黙に包まれていた。今や風一つ吹いてこない。


軽く息を吐き、続ける。
「分かってるんですよ。我々が人間を見下す資格などないとね。でも…罪の意識を持たない人間が多すぎる。人間がいては、地球がもちません。だから、消える道筋を選んだのですよ。人間を消し、そして彼らの罪の爪痕たる我々もまた消える。そんな運命の道筋をね」
















「地獄石…あれには、地獄と現世を繋げる力が存在する。地獄石を一定数揃えれば、現世と地獄が同化、人間も悪鬼も、本来あるべき場所、すなわち地獄へと流れていく。我々は、人間と我々自身を消すために、地獄石を集めていたのだ。獄炎刀を使って人間を滅ぼすのも視野に入れていたが、地獄石の方がリスクが少ないのでな」
美しい声、美しい佇まいで淡々と話す亜華魔姫に、れなと鬼子はただただ呆然としていた。
妖姫も、亜華魔姫に隠れながらも複雑な表情を浮かべていた。
…れなが言う。
「なんで…!人間は確かにどうしようもないし、弱いし、悪い事も沢山してきた!でも…だからって何なの?未来はどうなるか分からないよ!」

「お前、その言葉を人間が何回言ってきたと思ってる」
亜華魔姫の美しい顔が、まさに鬼と呼ぶべき顔に歪む。
「我々は古来から人間から生まれ、やつらの行いを見てきた。何か起こせば、その場で反省するだけ。その後にやつらがやる事は必ず決まっている。怠惰に未来に希望を託し、今の現状に目を向けない。自身の欲を抑えれば醜い争いなど起こらないというのに、それすらしようとしない」
…れなと鬼子は黙りこんでしまう。
れなはアンドロイドだ。
そして鬼子は人間であるが、人間全ての諸事情についてあれこれ言える程大きな人間ではない。

対する相手は人間の悪意から誕生した存在…悪鬼の首領だ。
今この場で人間の罪について語るに最も相応しい存在は、亜華魔姫なのだ。
「我々は悪意から生まれてしまった存在、忌まわしき存在だ。ならばせめて、我々はこの世界の為に一つやるべき事をする。人間を消し去る事だ。そして…」
亜華魔姫は刀を振り上げる。
木製の床を貫き、炎の壁が出現した。更にその炎の壁は、こちらに迫ってくる。
部屋が赤く輝く。こんな攻撃を喰らえば、ただでは済まない。
炎の向こうに見える亜華魔姫は、白い髪をなびかせながら美しく笑っていた。
「そんな人間の味方をするお前達も、世界を汚す要因だ。始末対象として十分すぎる。…死ね」
炎の壁は、あっという間に目の前まで迫ってくる。
このまま焼き殺される訳にはいかない。

…しかし、亜華魔姫の言葉も一理ある。
本当に抵抗して良いんだろうか?彼女の言う通り、人間がこれから先世界に良い影響ばかり及ぼすとは絶対に限らない。
何も反省しないかもしれない。

いつの間にか部屋は炎が唸る音だけが立ちのぼっていた…。













「おりゃあああああ!!!!」
…そして、勇ましい声が響く。

鬼子は、いつの間にか俯いていた自分の顔を振り上げた。




…れなが、炎の壁を両手で受け止めていた。
「おい鬼子おお!!!何しとんねんシャキっとしろ!!今は考えてる時間じゃない!力をぶつけ合う時間でしょ!!ほら戦え戦え!!」
れなの両手が青く光り、炎の壁を分解していく。
反撃は予想の内だったのか、亜華魔姫は更に刀を振り上げる。
着物が美しくなびき、更に炎の壁が出現、二重の炎がれなに叩きつけられる!
れなは声を震わせつつも、踏ん張り続ける。
「もうこういうのはいいんだよ!人間を守るか見捨てるかなんて!アタシらは人間を守る為に悪鬼と、闇姫と、多くの敵と戦ってきた!もうそれで良いじゃん!!続けようよ今の意志を!それに…」
炎に照らされるれな。
黄色いツインテールは、今にも燃え上がりそうに熱風に揺れていた。



「ここで鬼子が死んだら、お父さんもお母さんも悲しむだろ!!!」


はっ、とした。









「…!うりゃあああああ!!!」
鬼子は炎の刀を振り上げる!!
亜華魔姫の炎と鬼子の炎がぶつかり合い、周囲に飛び散る!!
天井にぶつかった火の粉が、激しく爆発、部屋が炎に呑まれていき、崩壊していく。
天井が吹き飛ばされ、赤い空が顔を出した。
崩れる瓦礫の中、れなの髪が一瞬黒く光った。
そして…。


「喰らえやあああああ!!!」
れなが拳を突き出した!!
同時に拳から黒い波動が放たれる!
鬼子の攻撃で勢いが落ちていた炎の壁が、れなの波動で一気に弾き返された!
炎は亜華魔姫に向かっていく。
少し驚いた顔をするが、尚余裕な亜華魔姫。刀を構えると同時に全身を赤い光のドームに包み、炎を防ぐ。
ドームバリアの先は炎で何も見えない状態だ。
今度こそ二人を始末しようと、刀に魔力を込めようとしたが…。



「なっ!?」

亜華魔姫は、はっきりと驚いた。
炎の壁が通り過ぎ、消えると同時に、れなが突っ込んできた!!
黒く光る拳を亜華魔姫の光のドームに叩き込み、破壊する!
そのままの勢いで拳が突撃、亜華魔姫の美しい顔を、容赦なく殴りつけた!!
背後の妖姫が、一瞬よろめく。
急いで体勢を直そうとする亜華魔姫だが、その隙を鬼子が突く!
「終わりだあああ!!!」
鬼子の炎の刀が、今までにない勢いで振り下ろされた!!
あまりの速さで、切られた亜華魔姫と振り下ろした鬼子の時間が一瞬止まる。


そして…亜華魔姫の全身から炎が吹き出した。
悲鳴を上げる間もなく、静かに膝をつき、うつ伏せに倒れる亜華魔姫。
そしてその体は光り、妖姫が分裂、勢いよく床を転がった。






…部屋は、完全に崩壊していた。




「妖姫…」
鬼子は鬼人化を解き、妖姫に歩み寄る。
煙があがる床の上、倒れる妖姫。まだほんの僅かに上がる炎。

妖姫の顔は、完全に諦めきった顔だった。


「…れなのその力、いつも悪意の杖の力で修行していた恩恵か。お前の中に、悪意の力が僅かに残っていたようじゃな。そして鬼子は…」
妖姫の頭が、完全に床についた。

「…これが人間の力か」

妖姫は、四肢を広げてこちらに胸を向けた。
本当に、完全に諦めたのだ。


「トドメを刺せ。もうこれで…少なくとも悪鬼は消えるべき存在であると気づいたじゃろ。味方のふりをして、こんな形で裏切って…ん!?」

…妖姫の頬に、痛烈な衝撃が走る。



…鬼子の平手打ちだった。


涙目の鬼子。驚きを隠せない妖姫に向かって怒鳴る。

「私の言葉、忘れたの?」








…妖姫は、黙りこんだ。





…そして、恐る恐る手を差し出す。

鬼子は、小さな手をしっかりと掴んだ。



「言ってくれて良かったのに」


強く、強く抱きしめた。


妖姫は、ぼんやりと口を開けたまま泣いていた。