代表と娘の会話が盛りあがる。
その後、本題を娘から切り出した。
「加害教諭からの慰謝料を有効に使って欲しいです。」
「長女さんは基金を作りたいと。」
「はい、私はあんな変態が自分の親からもらった慰謝料なんか気持ち悪くて無理です。
でも、払わせないのも許せませんでした。
私の他にいる被害者は、みんな闘いませんでした。学校に残るためには6年間、先生たちに嫌われたくないからと。
私はまだ、外部受験は考えていません。せっかく入った学校で、あいつのせいで辞めた。なんて、自分が許せないんです。
私が別の高校を受けたら、この事件は完全に風化する。なかったことにさせたくないんです」
「性加害にあって、他の被害者の子は我慢している訳なんですか」
「はい。私のように、加害者を警察に突き出したい!と最初にみんな言ってました。
しかし、親が“学校に残らなきゃやっていけないでしょう!忘れなさい”と。
私とも接点を持つなと言われています」
「盗撮を親が忘れろと子どもに言うんですね。そういうお子さんはいづれなんらかのタイミングで、親を恨み、犯罪に対するトラウマが出るというのに。
それにしても、闘うという選択をした長女さんと接点を持つなというのはひどいですね。それは個々の考え方であって、行動に移すも移さないも、誰に否定される物ではないのに。」
「私は、被害者の生徒から今、完全に無視されています。“話しかけてこないで”と。
突然捲き込まれて、最初はみんな気持ち悪いし、怖いし、あの先生は終身刑だ!って言っていたのが、実際はこれでした。
今回、弁護士費用がどれくらいかかったのかは母から聞いています。
あいつ一人を訴えるのにこんなにかかるのかと。それでも何も金銭に関し母から言われていません。」
「長女さん、親はね、二通りある。訴えかけてくる子どもの心に蓋をして、その場をしのげればいいと考える親。
もう一方で、あなたのお母さんのように我が子の気持ちを優先する。
後者の方が実際、少ないのは事実なんですよ。
どちらを選んでも結果はあとから必ず出ます。」
「私は今回、加害者を訴えることに莫大な金銭がかかることに気づいたのは最後の方になってからでした。また、どのように交渉ごとを進めていくのか、何をしていいのかまったくわからず。
弁護士の先生に気持ちを話してやりたいようにやらせてもらえたのは感謝しています。
一貫校で残り5年間、在籍するにあたり、弁護士が付いていてくれる。それだけが今の支えで、私が学校にいられる理由のひとつです。
教師や、周りの生徒からなんらか言われても私には弁護士がいて守ってくれる。ここはとても大きいんです。
しかし、世の中には
本当は加害者を訴えたくても費用負担出来ずにいる人も多いと弁護士の先生から聞きました。
今回、その費用の立て替えに基金設立をお願いしたく思います」
「そうですね。あの異常な学校のなかで一人、闘うのは大変です。弁護士も私もみんな味方ですよ。
基金設立のお話、有難くお受けします」
ここで、娘が描く、
循環型の無利子、貸し付け制度について話をし
それの詳細を煮詰め、契約書を取り交わした。
娘の名で。
自分の名前が記された基金名に(運用上は別の呼び名に なっている)、慰謝料が有効に活用されたこと。
実際、現金として目の前に積み上げられた額を娘から、代表者に渡す際に
「 これが、私が受けた被害を金銭に変えたものなのか」という現実を目の当たりにする。
入金通知の数字と、目の前の札束は同じ額であっても、娘、本人にとって実感としては大きな違いはあった。
基金設立をした。
このことは娘にとって、一歩を踏み出せるきっかけとはなった。
中1の段階では、外部受験せず、この事件が風化しないように、自分が居続けること。
そこに娘は強く固執していた。
もちろん、入学するにあたり、この一貫校でしか叶えられないことも多々あったからというのも実際にある。
しかし、中2の終わり、突然、外部受験を決断することとなった。