加害教諭と弁護士事務所で面会した際、
あらかじめ加害教諭の手荷物一式は、事務所で別保管させていた。
私や娘の荷物はそのまま持って面会した。
弁護士事務所内といえどもやはり
加害者と対峙する際は身の危険を感じていた。
いきなり暴れ出したら、刺されたらと
当然に想定し、スーツ内にそれら隠し持っている可能性は残ったが
手荷物を預かることは多少の安心材料とはなった。
逆を返せば、
被害者が犯罪者を前に怒りや憎しみから突如、暴挙に出ることも弁護士として想定はしただろうが、あえてその打診はされなかった。
弁護士としても加害者と被害者を同じ室内に対面させることはリスクだったと思う。
実際、すでに記したとおり
この加害者の精神状態、認知の歪みは逸脱しているように見受けられた。
底知れぬつかみどころのない不気味さはあった。
これ以上、話すことはないと
最後に娘に
「何も言わないままで大丈夫か」と問うも
加害教諭を睨みつける強いまなざしだけで
なにも返事をしなかった。
元生徒からの視線をそらしたまま
「申し訳ございませんでした!」と、私だけを見る。
野球部員の挨拶かよ。と思わせるハキハキした声で、なんか爽快です、泣いてスッキリしました感まで出す相手。
謝ったからこれで終わりだ。くらいの気持ちが伝わってきた。
私と娘が先に別室へ移り、
加害者がビルから出るのを待った。
娘は弁護士がいる手前、気を張っていたが
「なにあの全部、まわりのせいみたいな言い方」と。
弁護士が
「本当に何も言わなくて大丈夫だった?」と聞くも
「話すに値しないです。」と切った。
事務所を後にし、
娘とそのまま事前に話して決めていた
慰謝料の使い道を果たすために
別の場所に移動した。
一連の経緯を把握している職場の代表が
「どうでしたか」と聞く。
「最低過ぎたのが、さらに最低な人間として上書きされました。死にたい、死のうと思ったと言うくせに死なないんです。」と娘が答える。
「そうですね。
“私の一生懸命、努力して勝ち取った、夢の中高一貫校生活を台無しにしやがって!死にたいなら今、ここで死になさい!私が手を汚すには値しないから自分でさっさと死んでちょうだい”くらい、私なら言っちゃうわ。
“変態は生きている価値なし”って。
なんなら“死んで償って”とかね」
言葉を一切選ばず、大人の女性が
娘に話しかける。
そのテンポと迫真さが突き刺さった。
「言って良かったんですか!?」
「当たり前でしょ。中学生の着替えを盗撮してウハウハ喜んで、
仕事がツラいだキツいだ、甘えてんじゃないわよって!
私の方があんたのせいで何億倍もつらいんだから!って
言ってよし!!」
普段から虐待や性加害を受けている女性や子どもを相手に。
そして自身も元配偶者からのDV被害で顔に刃物の傷、蹴られて折られた足の負傷があるこの代表の女性は一気に娘の心を掴んだ。
「ホント、気持ち悪い男ですよねぇ。いい年して弱いものしか狙えない。
あー、いやだ。
でもねぇ、長女さん、よく頑張ってるわよ。私だったらあんなクソ学校なんか行かないですね。
相当、おかしな学校みたいね。
みんな教員が腐ってる。
まぁ、学校なんてなにか起きればどこも似たり寄ったりだけれど。
そんな場所に、自分の進路のためにがんばって行っているあなたはエラい!!
あんなことがあって、それでも生きているだけですごいことなのよ?
親に言えなくて抱え込んで、ある日突然、爆発しちゃう人なんかたくさんいるんです。
いまは平気!って心に嘘ついて、それで感覚が麻痺して逆に男の人に依存したり、
男の人が怖くて怖くてどうしようもなくなっちゃったり。
反動は必ずでます。絶対に。
でもあなたは偉い!!
“イヤなものはイヤ!”
“許せないものは許せない!”
ときちんと闘ったんだから!
これは自分を誇りに思っていいんです。
自分は こんな辛い目にあったけど、逃げずに闘った!
理不尽な言葉なんかかけてくるヤツはみんなクズ以下。
気にするなって言われてもクズの言葉がいちいち気になって傷つくのはものすごーくわかります。
でもね。クズはそれしか言えないんです。
クズだから。
私みたいに正々堂々、闘ってから言えって言ってやりたいですよね。そいつらに。
まだまだ若い、あなたは傷つきながらもそれに屈しなかった。
なかなか出来ることじゃないの。
偉い!サイコー!自分、すごい!って言っていいんですよ」