「この傷はなにでつけたか、旦那さん判断付きますか。Aさん宅の車です」
セダンの車の右ドア横に一直線の傷がある画像を出す。
みるみるうちに顔面が引きつる。
「知るか!」
「これはコインか尖ったもの…車のキーの先とかですかね。
いづれかで削った跡なのはわかりますよね。
車体が動いている時に何かにぶつかった傷であれば斜めに線が入ります。縦揺れ線もなく真っ直ぐに引かれている。これは故意に傷がつけられたものです」
「俺がやったっていうのかよ!」
「バンパーの傷をご覧下さい。
こちらも不自然なカタチで跡が残っています。靴跡の状態です」
校長がポカンとした顔で口を開く
「相当の力ではないと蹴ってこんな跡が付きますか?」
「通常のスニーカーや革靴でしたらここまではつきません。よね、旦那さん」
固まったまま微動だにしない。
「ボスママの配偶者は整備士です。
危険回避のため勤務中は【安全靴】を履かれています。
安全靴とは落下物が足に当たっても怪我をしないようにつま先に硬質の先芯が入っています。
通常、落下物が450㎏~1トンまで耐えられる規格を満たしています。
物理的な理屈で言えば安全靴を履いたまま足先を車にひかれても工具や部品を落としてもケガはしません。
安全靴を履かずに作業しケガを負った場合、労災が下りないケースがあるのと
職務規程で義務化されている事が多い。
ケガが起こるリスクを知っていて労災が下りない選択はしないと思います。
通常、出退勤時は普通の靴を履いて行き、
安全靴自体が重たいので業務中のみ安全靴を履きますが慣れるとそうでもないようで。
車体を蹴り飛ばすにはちょうど良いですね。」
「なんで俺が整備士なのを知ってるんだよ」
自分で考えろ。
「数日おきに車が入れ替わるのは試乗車を通勤に使っているからだと思いまして。
ステッカーの店名に行ってみましたら作業されていました。」
どこまでケチなんだ。通勤費のガソリン代を浮かせるために店の試乗車通勤。
「他にも安全靴なんかいるだろうが!」
普段から履いてるヤツなんていねーよ。
「車体の傷とつま先を合わせてみますか。
私はそこまでするつもりはありませんが。
見積もりだけで55万。」