この時期恒例の戦争に関する小説。
今年は浅田次郎さんの「シェエラザード」を選びました。
本当は、もっと生々しい戦争文学的なものも購入したのですが、
こちらを読み始めたら止まらなくなり・・・。
昭和20年、嵐の台湾沖の東シナ海で2300人もの命を積んだまま沈没した弥勒丸。
建造されたばかりの海運王国日本が世界に誇る豪華客船であったが、
予定されていたサンフランシスコ航路の就航ではなく、太平洋戦争末期の時局で
赤十字の徴用船として運用されていた。
・・・そして現代。
元エリート銀行員で、今は企業舎弟の消費者金融会社社長である軽部順一は、
宋英明と名乗る謎の台湾人から弥勒丸を引き揚げるための費用100億円を貸すよう迫られる。
軽部は専務の日比野と、かつて恋人であった新聞記者・久光律子の協力を仰ぎながら、
弥勒丸沈没にまるわる謎を追求する・・・。
このお話は、実際に昭和20年に起こった「阿波丸事件」をモチーフに描かれています。
浅田さんならではの、登場人物の丁寧な描写に、それぞれに感情移入してしまう・・・。
物語は、昭和20年当時と現代が交互に描かれています。
どちらかというと、昭和20年当時のお話に引きこまれてしまいました。
当時の乗組員(軍人さんではなく、日本郵船の立派な船乗りたち。)の、海の男としての
プライドが胸を打ちます。
彼らは、弥勒丸を本当に愛しており、時折「彼女」と呼んだりします。
そんな豪華で優美な客船は、戦争末期、赤十字の徴用船として運用されてました。
捕虜のための物資輸送に借り出された弥勒丸は「安導券」という、
戦時中の海をなんの攻撃もされずに航行できる、さらに積荷のチェックもされないという
特権を持っていました。
ゆえに、これを悪用しようと企んだ軍により、違法な荷物を積むことになり、
それを敵側にキャッチされ、沈められてしまう・・・という、不幸な結末を迎えます。
そして、何よりも、一般人2300人を人柱として乗船させたということも不幸に拍車をかけます。
弥勒丸の乗組員全員が、船(彼女)を敬愛していて、船乗りとしての誇りを持っていたというのが
特に描かれているので、船が沈むときの悲しさは涙なくしては読めませんでした。
この本は、それほど戦争の悲惨さを描いているわけではなく、
現代における男女の恋愛なども絡めて、悲劇の事件をいろんな方向から描いています。
でも、やはり、戦争当時の軍の横暴さや、結局そういうことに振り回されて犠牲になるのは
市井の人々なんだというのが静かに訴えられていて、じんわりと平和への願いを持たずにはいられません。
船の事故については、タイタニックが余りにも有名ですが、映画で観たタイタニックと比べると、
私はこちらのお話の方がずしりと心に響きました。
やはり、戦時中の出来事というのが強いからでしょうか?
この時期はやはり平和や戦争のことを考えずにはいられません。
風化させてはいけないと思います。
余談ですが、物語にたびたび登場する、「シェエラザード」という曲。
最近、この曲をじっくり聴くのにハマってます。
今更ですが、いい曲です。このお話のBGMにもぴったりです。



