154回すべての母より
(百白花)
おいしそうな野菜をぎっしりとざるに詰め込んで持って来るタケオ(柄本時生)。
「陽子、食べておくれや」
「いつも、ありがとう。こんなにたくさん」
おいしい野菜が自慢げなタケオ。
(ナレーション)明日は日向子の入学式という日だったわ。
タケオ「そうか、日向子の入学式かあ。おれと陽子が卒業した小学校に入学するんだな」
陽子「そう、有明山小学校よ。まだ夏子先生がいらっしゃるの。親子2代でお世話になるのよ」
タケオ「すんげーな、夏子先生」
(小学校時代の回想シーン)
陽子に見とれて机から落ちて転がるタケオ。
「タケオくーん」夏子先生(伊藤歩)の声が響く。
(百白花 庭)
手入れをする陽子と徳子。
陽子「おかあさん、日向子の入学式、一緒に行きませんか?」
徳子「和成から聞いたのかい? マサコのこと? 入学のちっと前に亡くなったって」
陽子「…ね、行きましょう」
徳子「ありがとう。…あんたと和成でいっといで。私はおばあちゃんとしてここで見送る。こんな幸せなことはないよ」
徳子、しみじみと「幸せだねえ」
陽子、笑顔で「はい」
「うふふふ」ふたりで並んで笑う。
そこに「こんにちは」と声をかけて現れたのは息子のミノルを抱いた真知子。
続いて、声をかけてきたのは育子(満島ひかり)だった。
(百白花2階の部屋で陽子、真知子、育子の3人がお茶を飲んでいる)
育子はテレビジョンの担当になり、そこで音楽の担当者として会ったのは飯田小太郎(近藤芳正)で、育子と気がつかない小太郎は「かわいいちゃんねーだねー。どう? 今夜、ルービーでも?」と誘うが、育子に「先生、お久しぶりです」とあいさつされて、「えーーーっ」と驚く。
その姿を想像して大笑いする3人。
真知子は子育てと仕事を頑張っていて、保育施設を充実させる運動もしていると言い、町長に抗議文も手渡したと自慢する。もちろん、町長は父親の剛三だ。驚く陽子と育子だが、「いいの、自業自得よ」と真知子は涼しい顔だ。
育子は結婚のことを聞かれ、「結婚の約束をした人がいるからね。結婚するまではうんと仕事をしようと思う」と答える。そして、「いつか陽子のお姉さんになるかも」と言って、「お姉さんと呼びなさい」と威張るので、「嫌だ、育子は育子よ」と陽子も負けてはいない。
良一と茂樹が来たと階下から声をかけられた陽子は真知子たちと窓から顔を出す。
「安曇野の端まででかい笑い声が聞こえていた」と、育子に憎まれ口を叩く茂樹だが、もちろん、黙っている育子ではない。「それで、うれしかった?」と聞き、「それで、何浪中ですか? 茂樹…さん」とからかうと、「6浪中です」と良一が答える。
学校から帰って来た杏子がお客さまだと言う。
やってきたのは、運転手の神蔵を連れた富士子(渡辺美佐子)。日向子のお祝いにわざわざ来たという。
「日向子、大きくなったわね。でも、私のことは覚えていないわよね。まだ赤ん坊だったから」と言うと、「いいえ。いつも写真を見せてもらっていますから、ひいおばあさま」と快活に答える日向子にうれしい富士子だ。
富士子が抱えてきたのは、上質な美しいセーラー服。日向子をはじめ、みなが歓声を上げる中、「神蔵、では帰りましょうか」と、相変わらずの富士子に、みな、目を丸くするが、みな、そろって、意味ありげにせきばらい。それに気がついた神蔵は、いつかと同様に、「あっあああああ…急に足がぁぁぁ」と大げさな声を上げる。
富士子「神蔵、ごくろうさま。では、もう少しいさせていただきましょうか」
ほっとした笑顔のみんなの元に、帰って来る道夫。「おお、みなさん、おそろいでー、おばあさま、これはこれは…」と、あいさつすると、育子が「いないの、気がつかなかった」と口にして、「おいおいおい」と、焦る道夫にみなが爆笑する。
翌日、富士子に贈られたセーラー服と、カヨからのプレゼントである赤いランドセルで身を包んだ日向子と、背広姿の和成、着物の陽子は、みんなが百白花の前に勢ぞろいする中、見送られながら入学式に出かける。
「幸せな後姿だねえ」徳子がしみじみと口にする。
それぞれの顔のアップを映しながら、「少しだけ先の話をするわね」と現代の陽子のナレーションが続く。
日向子は東京で結婚して、今も幸せに暮らしているわ。
和成さんはあれから、焼き物づくりに夢中になって1年の3分の1は多治見で仕事している。
真知子はだんなさまとの夢だった会社を興した。
育子は世界中を旅する番組をて手がけるようになった。
茂樹兄さんはやがて医大に合格。日向子と同じ年に大学生になり、須藤医院を開いて育子と結婚した。
みんなそれぞれに幸せだったんじゃないかしら。
(現代の百白花)
陽子の長い長い物語を聞き終わった房子(斉藤由貴)。
そこに現れた夫の原口。「房子、そろそろ行こうか。車で待ってる」
陽子「原口さん、房子ちゃんをよろしく」
原口「はいっ」力強く答え、「家内がお世話になりました。ありがとうございます」と頭を下げる。
陽子「楽しかったわ。ありがとう、房子ちゃん」
房子「こちらこそ。本当に楽しかったです」
陽子「また、いつかいらっしゃい。『つづく』よ。心に太陽を」
房子「心に太陽を…。じゃ…」
立ち去ろうとする房子を呼び止めるように「こんにちは、陽子」「こんにちは、陽子さん」と声をかけて、ふたりの女性が現れ、びっくりする房子。
房子「あ、あの…、白紙同盟そろいぶみですよね?」
育子「真知子でございます」
房子「えっ? えっ?」目を白黒する房子。
真知子「逆よ、逆。私が真知子」
房子「(納得して)ですよね。育子さんと、真知子さん。うれしいーっ。お会いしたかったんです」感激する房子。
陽子「今度ね、房子ちゃんのご主人が札幌に転勤になるのよ」
育子「じゃあ私、行くから。一緒にあそぼ」
房子「はいっ」
陽子「だいじょうぶ? この人行くと言ったら、ほんとに行くわよ」
房子「もちろんです。お待ちしてますっ」
育子「あなた、私のこと、怖い人、強い人って思っていたでしょ? でもね。ほんとに一番強いのは真知子の方よ」
陽子「ふたりに比べたらつつましやかに暮らしてきたほうよ。…あら、なんで笑うのよ」
房子「(名残惜しそうだが)私、そろそろ行かないと」
陽子「それじゃ、いっといで」
房子「いってまいります」「じゃ」
帰りかけて立ち止まった房子が振り返り、手を乾杯の形にして差し出し、
房子「女性たちよ…」と呼びかけると、
陽子・真知子・房子「よき人生を」と返す。
乾杯の手をみんなで差し出し、そろって笑う。白紙同盟に参加できて、満足な房子だ。
陽子・真知子・房子、お茶を飲みながら、
「でも、長いわね、あたしたち」
「だれが最初にいなくなるのかしらね」
「最初も最後もいやね」
「2番目がいいわ」
「私も2番がいい」
「どうすればいいの?」
「じゃ、ずっと生きてますか?」
「決定~っ」
「決定~っ」お便所で誓い合った女学生の思い出の場面が重なる。
(再び、当時の陽子が百白花でカーテンを開けて外に出る)
あれから数年後、私は母の亡くなったときとおなじ年になった
「おはよう、おかあさん」
おひさまを見つめて、笑顔の陽子。(終了)
感想
いやいや、とてもいいドラマでした。こんないい方ばかりはいないでしょうと思ったり、現代の陽子さんたちがみなさん、生きて元気でいらっしゃるという設定も夢物語のように思ったけれど、それを忘れさせてくれるほど、昭和の最も厳しい時代、戦時中を生き抜いてきた方たちの持つパワー、足りるを知る心が幸せに導いてくれるのだというメッセージには、たくさんの幸せを受け取った気がします。
私が好きだったのは、陽子や茂樹たちが、お父さんに対して、きちんと敬語で話をしていたこと。けじめのついた家族。それは堅苦しいとかではなく、互いの存在を尊敬しあえるからこその姿勢。なんでもぐだぐだになってしまいがちな今の世の中で、忘れてしまった親子関係の美しい形のような気がしました。
最終回で出演された現代の育子さんと真知子さんが黒柳徹子さんと司葉子さんというのもよかったですね。若尾文子さんの陽子さんとともに、みなさん、実年齢が77歳くらいで同級生と言ってもいい方たちで、現役でご活躍中の方たちですし、ぴったりでしたね。ただ、物語の陽子さんは10歳以上年上で、90歳くらいのはずですけれど。
また、いつか、「つづく」の先も見たいな。そんな気がします。