新説『マジすか学園4』
#3898『そのアイドル、天然につき48 伝わらない気持ち』
水泳大会が終わり、スポーツセンターの玄関先で、番組に出演した全員を高級ホテルのランチビュッフェに招待すると、かおたんが発表した。
歓声が上がる中、ユナが疑問をぶつける。
かおたんがユナの方を見る。
『明日の昼、食べに行くんだがね』
『えー!明日のお昼に!?』
『そう!明日だったら、あんたたちまだいるでしょ。STUでんつの子たちも帰るのは明日の夕方だそうだから、十分間に合うがね。みーおんや菅原ちゃんもOKだよね』
『そうなんだ。それだったら安心だね。でもどうして最初から明日のランチだって言わなかったの?』
『ホテルの名前をテレビで言ってしまったんだで、明日のランチだって言ったらいろいろ騒ぎになるかもしれんからだわ』
『あーっ。そういうことかぁ』
『あんたたちとはこれから一緒のバスに乗ってハウスに帰るけど、自宅に帰る子たちには、集合場所と時間をあとで一斉送信しとくわ。あっ、ひゆかちゃんとれみたんは来れる?』
かおたんに聞かれ、ひゆかがれみたんと意思の疎通を図ってから答える。
『なら良かったわ。それから亜柚香とまなかと心愛。あんたたちのハタチをお祝いしてあげるで、明日は絶対に来やあね』
みんなの視線が3人に向けられる。揃って目を丸くしたあと、亜柚香が『えーっ、本当なの〜。ありがとう!嬉しい♫』と喜び、まなかは『かおたん。今日は本当にありがたぐちです』と続き、心愛も『名古屋まで遠征した甲斐があったなぁ。かおたん、ありがとう!』と感謝の気持ちを伝えた。
『みんな、よく頑張ってくれとるでね。大したことはしてあげられんけど。じゃあ、そういうことで、みんな今日はお疲れさまでした!それじゃあまた明日〜!』
大勢がバラバラで『お疲れさまでした!』と声を掛け合い、見送りに来てくれたスポーツセンターの関係者にお礼を言ってから、ゾロゾロと駐車場に向かう。
そんな中で、ゆうゆはかおたんの背中を追い掛ける。番組に出させてくれているかおたんに、どうしても直接伝えたいことがある。水泳大会が始まる時にも無理を承知で宣言したのに、冗談だと思われたのか、MCのくれなにスルーされてしまった。
バスに乗り込もうとする背中に声を掛ける。
『かおたん、待ってください。ゆう、今日の放送で番組に出演するのを最後にしてください。テレビでも言ったんですけど、アイドルを卒業するからです。夢だったトングを使う仕事をします。こんなゆうを今まで番組に出演させてくれて、本当にありがとうございました!』
振り向いたかおたんが、平然を装うように答える。
『何言っとるのー。さっきもテレビでそんなこと言っとったけど、冗談はもういいてー。それとも白雪姫か「KEYABINGO!」のドラマで喋るセリフの稽古でもしとるの?明日はランチにちゃんと来てよ。来週も、るーちゃんと一緒に出てよ。あーっ、あんたが乗るバスのみんなが待っとるで、早く行きやぁ』
『えっ、ちょっと待ってください💦冗談でもセリフの稽古でもありません!ゆうは今日を最後に…、あーっ!』
話している途中なのに、かおたんが振り切るように軽くジャンプし、バスのステップに飛び乗ってしまった。追い掛けようとしたら、欅坂の何人かが横から急いで乗り込んだため妨害され、その直後にドアが閉まった。これでは全く話が伝わらなかったではないかと、ゆうゆは諦めるしかない。そしてバスが走り去った。
駐車場に残っているバスは、スタッフ用を除くとあと2台で、ヤンキーチームが乗るバスは既にドアが閉まっており、走り出すのを待つだけだ。残りの1台が各自の自宅を回ってくれるバスなので、ゆうゆはこれに乗らなくてはいけない。シャチホコセブンのあかりんやあんにゃが、ドアの前で『ゆうゆ、早く〜』と呼んでいるので、急いで駆け出す。
車内に乗り込むと、ゆうゆは2人掛けの誰も座っていない座席を見つけ、そこの窓際に座った。何度も卒業の意思を伝えているのにいつも受け流されてしまい、今は誰とも話したくない気分だ。
◇続く