ルー テイクス オフ/ルー ドナルドソン | Doodlin' Records

Doodlin' Records

神戸元町のバー「Doodlin'」店主がチョイスするジャズレコード紹介。
勝手気ままに書かせていただきます。

3・2・1・0 サンダーバード ア ゴー!!

今の若者には解ってもらえないかも知れないが、僕らが子供の頃、宇宙はロマンに溢れるもので、ロケットはそのロマンに人間を繋げてくれる希望の象徴だった。「高速エスパー」や「宇宙家族ロビンソン」に夢中になっていた僕の幼少時代でも宇宙=ロケットの夢は絶対的なものだったけれど、もっと前の初めて人類が成層圏を突破した1950年代の人々にとってのロケットに託す夢はどんなだっただっただろうと想像してしまう。

もちろん、ロケットの開発の裏には世間一般に言われている様に米国とソ連との冷戦を背景にした争いがあって、それは当然戦争に勝つという前提がありの醜いかけひきがあったのだろう。しかし子供達にはそんな事は関係なかった。ロケットこそ夢であり、希望であり、正義であった。そして宇宙からの悪い侵略者を退治するのもロケットであり、その侵略者でさえロマンに溢れた者として捉えられていた。

1957年の暮れに録音されたルー ドナルドソンの「テイクス オフ」はそんなロケットの勇姿が大々的にジャケットに使われている。そして全てのテイクがロケットに魅せられた当時の人々の気持ちを象徴する様に躍動的で爽快なハードバップに仕上がっている。冒頭を飾るその名も「スプートニック」を聴いてほしい。この時すでに中堅になろうとしていたルーさんを筆頭に、ドナルド バード、カーティス フラー、ソニー クラーク、ジョージ ジョイナー、アート テイラーといった若き精鋭達が一丸となって繰り広げられる超熱演に、大空高く飛び去って行くロケットの姿が本当に重なって見えてしまうではないか。
ジャズ界に若い力でハードバップが華やかに花開いた時代と、10月の空に向かってロケットが逞しく飛び立って行った時代が重なっていたのは決して偶然ではない。「ルー テイクス オフ」はあの時代を今も肌で感じさせてくれる最も好ましい記録だ。そして未来に向かって爽快な激演を聴かせてくれる彼らの姿はまるであのライトスタッフの様にカッコ良かったのではないか?正にヒーローだ。

冷戦もそろそろ終わるといった80年代になって、宇宙開発に大きな変化が訪れた。スペースシャトルが登場したのだ。これによって人類はよりいっそう宇宙に近づいた。月くらいまでの旅行は可能であるらしい。
しかし3・2・1・0でまっすぐ上空に向かって飛び去って行くロケットを見送る楽しみは減った様な気がする。スペースカウボーイ達の夢は現実にはなった。しかし、現実になればなるほどロマンが薄らいで行く様に感じてしまうのは僕だけだろうか?

世紀が変わった現在。日本からほど近い、とあるテロ国家は開発ロケットと称してミサイルを撃ち込む。
ミサイルは武器だ。いきつく先は死と悲しみと憎しみしか待っていない。ミサイルとロケットは違う。ロケットは夢と正義を載せて飛ぶのだ。彼らにはそこから教えなくてはならないのか。