これだけ多いと、これはレギュラーとして活動していたクインテットなのではないか?と見る向きもある。しかし、この3人がレギュラーで活動していたという記録は今のところ僕は知らない。やはり世間で言われる通りレコードを出すために集められたメンバーによるブロウイング セッションであったと見る方が正解なのではないだろうか?。
この23曲は全てプレステッジの契約アーティストだったレッド ガーランドとジョン コルトレーンの名義で発表されている。
簡単にその内訳を見ると、まず最初のセッションがガーランド名義の1957年11月15日で、この日は実に10曲もの曲数を録音している。続いてはその1ヶ月後の12月13日で、この日の録音は5曲。そしてこの二つのセッションは共にベースがジョージ ジョイナー、ドラムがアート テイラーが勤めている。
3回目からはコルトレーンの名義で、まず1958年1月10日のセッションが5曲。こちらはベースがポール チェンバース、ドラムがルイス ヘイズに変わる。
少し間を置いた5月23日のセッションもコルトレーン名義で3曲が録音されていて、こちらはベースがチェンバース、ドラムがアート テイラー。
以上23曲。これらは一応ガーランド名義のものはガーランドのアルバムへ、コルトレーンのものはコルトレーンのものへと上手く分散はされている。ただし録音日に5人共が今日は誰のリーダーセッションなのか把握してたかどうかは知らない。しかもレコード番号はばらばらだし、発売されたのも恐らく二人共がプレステッジを出てからのものが半数以上を占めている様だ。この辺は流石一束なんぼのプレステッジといった所。録音当時は新進気鋭だったこの3人だが、録りためたものを時間をかけて発売して行けば、ある程度の金にはなると見ていたのだろうか。
紹介する作品はガーランド名義の最初の2セッションから5曲選ばれたガーランドのもので、全曲が同じメンバーで集められたもの。このクインテットによるガーランド名義のアルバムは4枚。8枚のうちの後の4枚はコルトレーンのものだから、これもまた上手く出来ている。それはいいとして、ガーランドの4枚のうち番号順では7130の「オール モーニング ロング」が最初のアルバムだ。これは恐らく録音後すぐに発表されたもので、恐らくガーランドがまだプレステッジに籍があった頃の発売であったろう。
対して、本作の番号は8059。これは4枚中3番目にあたるもので、かなり後の方に発売されたものと見られる。ひょっとしてガーランドがプレステッジを出た後かも知れない。
したがって、本作は余ったテイクで編集された続編または未発表集の様に見られても仕方がない。しかし、結論から先に言えば本作にはそんな劣る要素はただひとつも無い。むしろ、このクインテットのアルバムの中では最もバランス良く曲が配列された優れものとして、Doodlin'に集まるコアな人達にも認められているくらいの出来なのだ。特にA面の流れは見事という他はない。
そのA面はベニー グッドマンとチャーリー クリスチャンが作った洗練されたブルーズ「ソフト ウィンズ」から始まる。僕の知っている同曲のほとんどはミディアムよりややスローなテンポだが、ここではブロウイング セッションだからだろうか、少しアップテンポに変えて演奏されている。それでも元々の持つ洗練さは全く失われていないし、最初にソロをとるガーランドの猛烈なスイング感には息をのむばかりだ。このスイング感は各ホーン陣のバッキングに廻っても全く止むことはなく、刺激的かつ情熱的な煽りを受けて、バードもコルトレーンも嫌がうえにも全力で吹ききるしかなくなっている。こんなガーランドを聴けば今なお彼の評価が全うには与えられていないのではないか、と感じる。
続いてガーランドのピアノでテーマを奏でる「ソリチュード」は一転して静かでムード溢れるトラック。これまたブロウイング セッションだからか、こちらも元々のエリントンが作った形で、全く何も挟まず実に忠実に再現している。その忠実ぶりに至っては、そのまんまやないか?という声も聞こえてきそうではある。しかし、ガーランドの持ち前の独特な華麗なタッチにそんな装飾など一切不要という、これはその見本の様な演奏と言えるだろう。このムードにのせられたバードとコルトレーンも、スタイルの新旧など一切関係のない、素晴らしい構成力に溢れたソロを展開する。これを名演と呼ばずして何を名演と呼ぶのだ?と言いたくなる。
以上が本作のA面である。もちろんハードバップで本領発揮する「アンディサイデッド」「トゥー ベース ヒット」、それに寛いだバラードの「ホワット イズ ゼア トゥ セイ」が挟まるB面も素晴らしい。
言えるのは、こんだけの実力を持つプレイヤーが集まったものなら、それがブロウイング セッションであろうが、たとえ手の込んだアレンジなど施していなかろうが、それは全く問題にはならないという事。したがって、恐らく残っている曲を適当に編集してもこれくらいのクオリティーの作品は完成する。凄い奴らはどんな形で発表しても凄いのだ。そして、有名なマイルスのマラソン セッション同様、23曲をちゃっかりと売り物にするプレステッジの商魂に感謝するしかない。
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