ホエア?/ロン カーター | Doodlin' Records

Doodlin' Records

神戸元町のバー「Doodlin'」店主がチョイスするジャズレコード紹介。
勝手気ままに書かせていただきます。

1961年にプレステッジより発表されたロン カーターの初リーダーアルバム「ホエア?」は、コントラバスとセロを自由奔放にあやつるロンの実力と、尋常ではない変化にとんだ音楽性を誇る一大傑作である。
参加メンバーはロン カーターのベースとセロ。エリック ドルフィーのアルトサックス、バスクラリネット、フルート。マル ウォルドロンのピアノ。チャーリー パーシップのドラム。これにベース専任でジョージ ディヴィヴィエが加わった合計5人。しかしその音楽性の幅は通常の5人編成のそれをはるかに超えてしまっている。

その原因は何といってもロンがベースとセロ、さらにドルフィーが例の如く3つの管楽器を使い分けているのが大きい。
そのうちドルフィーの実力と特異性に関しては今さら説明の必要はないだろう。1961年といえばブッカー リトルとの5スポット出演もあったし、ヨーロッパにも進出した大変な年だ。本作でもその気迫はそら恐ろしいものがある。
そしてロンもこの後マイルス デイヴィスのレギュラーメンバーになってベースの第一人者となるのが当然であるのを十分理解できるほどその腕前は確かだし、定評のあるセロもこの地点で既にスタイルが確立されていたのが理解できる。とにかくロンのセロを聴くのは一つの喜びだ。

更に本作の特筆すべきところは、5スポットにも参加した、どんなスタイルにも適応出来るうえ全てがオリジナリティーに溢れている鬼才のマルに、当時もう既にベテランの粋に達しながらも誰よりも強烈にグルーヴを送り込む名手のデュヴィヴィエとパーシップを得ている点だ。要するに参加メンバーを見ただけでその凄さは100%想像出来るうえ、実際に聴いてみるとその想像をまだ上回った聴き応えを思い知るのが本作なのである。

本作はそんな合計5人が最初から最後まで一丸となってひとつのセッションをこなしたというタイプの作品ではない。つまり曲によっては誰かが抜け、また誰かが抜けとるいう編成の変化を楽しめるのが特徴だ。そしてロンとドルフィーが一人で複数の楽器をこなす。したがって両面の全6曲がどれもこれも違う顔を持った演奏となり、その多彩さはとうてい5人だけで作ったとは思えない広がりを持つ。
例えばA面ではロンのセロ、ドルフィーのバスクラによる全員参加での火がついた様な「ラリー」で始まったと思えば、続く「ベース デュエット」はその名の通り二人のベース奏者のかけあい。そして「朝日の如く爽やかに」ではドルフィーのアルト、ロンのベースによるオーソドックスなフォーマットによるストレートなジャズ(といっても大変特異だが)が連なっている。
またラストの「ソーサー アイズ」では快調なドルフィーのフルートに、パーシップのおせおせのブラシワークがあまりにも心地よくフィットしている。これなんか超がつくほどのスーパードラマーであるパーシップにしか出来ないのではないかと思ってしまうし、そんなスーパーブラシとドルフィーのフルートはあまりにも相性が良い。

この様に本作はメンバー全員の実力を、考えに考えぬかれた組み合わせで最大限に発揮させている。この様に曲ごとにメンバーが入れ替わる作品は現在では特別珍しくない。しかし1961年の地点で、いくら特異な才能を持ったメンバーとはいえ、限られた5人でここまでヴァラエティーに富んだ作品を、しかも初リーダー作で残すロンの才能には驚きを隠せない。

最後に、70年代になってから一部であまり良く言われていないロンの奏法について、僕が故市川 修氏に直接聞いた話しを。
市川さんがニューヨークで修行をしていた70年代、とある縁であるレコーディング セッションを見学させてもらえる事になった。その時のベースが誰あろうロン カーター。そして生で聴くロン カーターの演奏は口から心臓が出るくらいの強烈なものであった(これ市川さんらしい表現)もうロン カーターは世界で一番凄い!と市川さんは感激した。
後日、そのレコーディングがレコードになり発表された。喜んで針を落とす市川さん。しかしそこから聴こえて来たのはピヨ~ンピヨ~ンと言う気の抜けた様なベース音だった。

「エンジニアの誰もがロン カーターの音、よう出さんかったんやなー」と残念がる市川さんであった。