「この映画を観て、自分の考え方が変わった。」
そう思わせる映画でした。
今回紹介する作品は、映画『廃用身』。
現役医師で作家でもある久坂部羊さんの同名小説を映画化した作品で、高齢者医療と介護の問題を真正面から扱ったヒューマンサスペンスです。
正直、ここまで踏み込んだ内容を、よく映画化したなと思いました。
『廃用身』とはどんな映画?
舞台はデイケア施設「異人坂クリニック」。
院長・漆原糾は、「廃用身」と呼ばれる、回復の見込みがない手足に着目した独自の治療を行っています。
その治療を受けた高齢者たちは、
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身体的負担の軽減
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精神状態の安定
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性格の変化
など、予想外の“良い変化”を見せ始めます。
編集者の矢倉は、その医療が高齢者医療を変える可能性を感じ、漆原に出版を持ちかける。
しかし、内部告発や患者宅で起きた事件をきっかけに、理想的に見えた医療の裏側が明らかになっていきます。
合理性を追求した先にあるものは、救済なのか、それとも狂気なのか。
本作は、医療倫理、介護、老い、人間の尊厳といった重いテーマを観客に突きつけてきます。
「廃用身」という言葉のリアルさ
まず印象的なのが、「廃用身」という言葉です。
映画では、「脳梗塞などによる麻痺で、回復の見込みがない手足」
という意味で使われています。
正式な医療用語ではなく、おそらく作品独自の造語だと思われます。
しかし、その響きが異様にリアル。
実際に医療現場で使われていてもおかしくないような説得力があり、それがこの映画の怖さを増幅させています。
1970年代ディストピア映画を思い出した
この映画を観て、1970年代に量産されたディストピア映画を思い出しました。
例えば、
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『赤ちゃんよ永遠に』
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『ソイレント・グリーン』
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『ローガンズ・ラン』
など。
当時は「人口爆発」が恐怖として描かれていました。
しかし現代日本が抱える問題は逆です。
少子高齢化。
3人に1人が高齢者という時代。
慢性的な介護人材不足、外国人労働者への依存、ワンオペ夜勤、認知症高齢者の増加――。
現場はすでに疲弊しています。
『廃用身』は、そうした現実に対して、“ある意味、残酷な方法”で問題提起をしています。
染谷将太が圧倒的にハマっていた
主人公・漆原を演じる染谷将太さんは、まさに適役でした。
理想と狂気の境界線を行き来するような演技が見事です。
「この人は危険だ」と思う一方で、
「でも、言っていることは間違っていない部分もある」
と感じてしまう。
そこが本当に恐ろしい。
瀧内公美の“静かな演技”が凄い
漆原の妻を演じる瀧内公美さんも素晴らしかったです。
セリフは多くありません。
しかし、
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視線
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表情
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沈黙
だけで、夫が壊れていく様子を表現していました。
家庭内の不穏さを、静かに、しかし確実に伝えてきます。
六平直政演じる岩上武一が強烈
映画前半の実質的主人公とも言えるのが、六平直政さん演じる岩上武一。
元運送会社経営者で、現役時代は厳格で支配的な人物。
現在は要介護状態で在宅生活を送っています。
彼は「Aケア」と呼ばれる処置を受けます。
これは、“廃用身”と認定された手足を切断するというもの。
最初は右足のみ。
すると床ずれが改善し、精神状態も安定する。
その後、さらに左足、左腕も切断する決断をします。
最終的には右腕一本だけで生きることになる。
かなり衝撃的な設定ですが、映画はそれを必要以上に煽らず、むしろ冷静に描いています。
だからこそ怖い。
『PLAN75』よりも現実に近い恐怖
本作を観て、映画『PLAN75』を思い出した人も多いと思います。
ただ、『PLAN75』が“近未来SF”寄りなのに対して、『廃用身』はもっと現実的。
「これ、もうどこかで起きていてもおかしくないのでは?」
と思わせる具体性があります。
そのリアリティが本作最大の恐怖かもしれません。
この映画を観て、自分の考え方が変わった
この映画を観て、自分の生活を見直そうと思いました。
私は40年以上ジム通いをしていて、筋肉量、ベンチプレス等の挙上数値を追い続けてきました。
しかし本作を観て、60歳を超えた今、
「必要以上に身体を大きくすることに意味があるのか?」
と考えるようになりました。
介護される側になった時、身体が軽い方が周囲の負担は減ります。
調べると手足は全体重の約40%を占めるという結果が出てきます。
もちろん、だからといって極端な結論に進むわけではありません。
ただ、
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年齢に応じた身体管理
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健康寿命を延ばす努力
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周囲に負担をかけにくい身体づくり
は必要だと感じました。
映画の中にあった“答え”
この映画、基本的には答えを提示しません。
しかし、ある意味で監督なりの回答だと思えるシーンがありました。
それが、公園で地域住民たちが体操している場面。
映画の中で2回登場します。
「ああ、これなんだな」と思いました。
地域とつながること。
身体を動かすこと。
孤立しないこと。
健康寿命を延ばすこと。
とても地味ですが、結局それが最も現実的な答えなのかもしれません。
また、自宅近所でも同じような光景を多々確認することができます。
総評|今の日本だからこそ刺さる映画
評価はAマイナス。
かなりの問題作です。
しかし、超高齢社会の日本だからこそ作られた映画だと思います。
介護、福祉、尊厳死。
多くの人が見て見ぬふりをしているテーマを真正面から描いた作品でした。
しかも、エンタメ映画が並ぶシネコンでこの作品を上映していること自体、かなり挑戦的だと思います。(隣のスクリーンでは『名探偵コナン』を上映。
重い内容ですが、観た後に確実に何かが残る映画でした。
最後に余談ですが、「エガちゃんねる」でおなじみのアラキオさんがヘルパー役で出演しており、エンドクレジットで名前を見た瞬間、内容とのギャップで少し笑ってしまいました(笑)
気になった方は、ぜひ劇場で観てみてください。
以上













































