「あ、ちょっと待ってください。あの人ももうすぐ来ますよ。どうせ聞きたがるだろうから、そろうのをまってからにしたらどうですか?」
「ああ、そうだね、もうそんな時間だねえ。うん、まちましょうか」
「じゃあ、私は看板かえてくるね」
カフェ「南斗」がクローズし、バー「なんと」がオープンするころに
いつもこの時間に彼はやってくる
「な~なな~な~な~なななな~な~ななな~ん、なんという~おか~し~♪」
なんさんが、なにか不思議な替え歌を歌いながら、店先の看板を裏返しライトを点灯する
部長が2杯目のビールジョッキを空にした、ちょうどそのときバー「なんと」の重いドアがギギッっと軋んでひらき、真っ黒い影がはいってくる
それは・・・
黒い皮手袋に、黒い足袋。
黒い下駄、黒い襟巻。
黒い着流しには清明桔梗が染め抜いていある
鼻緒だけが赤い
そう、それは・・・・
つづく