小栗忠順vsハリー・パークス〜新しい視点のグローバル・ヒストリー〜 | 天地温古堂商店

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歴史、人、旅、日々の雑感などを徒然に書き溜めていこうと思います。どうぞお立ち寄りください。

世界の覇権争いに巻き込まれた幕末のヒーローが、未曾有の危機にどう向き合ったのか。

グローバルな視点と本格ドラマで「新しい幕末史」を描く新番組が始まる。


歴史の空白を埋める機密文書が発掘された。
覇権争いをリードした大英帝国が、江戸や京都に侵攻する全面戦争計画を進めていたことが明らかになる。
戦場を一変させた兵器の威力を実験で解明する。
列強と激しい駆け引きを繰り広げた幕臣・小栗忠順にスポットをあてる。

こうしたことをドラマとドキュメンタリーを交え、グローバルな視点から考察する番組が10月16日午後9時にNHKテレビ総合で放送される。

新・幕末史 グローバル・ヒストリー 「第1集 幕府vs列強 全面戦争の危機」

本作では、昨年の大河ドラマ『青天を衝け』でも武田真治が演じた幕臣・小栗忠順が再び登場する。


大河ドラマ『青天を衝け』で小栗忠順を演じる武田真治 NHKアーカイブスより

 

彼へのインタビューだ。

再び演じることができて光栄に思います。
(日本史では)どうしても、坂本龍馬、新選組、西郷隆盛などが人気を得て、小栗自体はそれほどこんにちまで注目されてきませんでした。
日本の存亡が危ぶまれるなか、イギリスやロシアとの交渉に一歩も引かず、日本の未来のために闘った偉人だと知り、そこに思いはせながら演じさせていただきました。


対する列強の雄、英国の駐日大使ハリー・パークス役をタレントのモーリー・ロバートソンが演じる。

 

NHKスペシャルでハリーパークスを演じるモーリー・ロバートソン (C)NHK 

彼は次のように言っている。

日本の当時の情勢を研究すると、パークスはペリーに匹敵する人物だと思います。
私は日本で中学入試と大学入試を経験しましたが、ペリーしか出てこなかった。
ペリーは大砲で威嚇しましたが、パークスは英国の利益のために幕府にディールを持ちかけ、その影響力は大きかったと思います。


幕末維新の英国公使、ハリー・スミス・パークス。
彼は大河ドラマなどでは脇役の脇役に過ぎないが、幕末維新期の外国人ではもっとも有名でもっとも重要な人物だ。
薩長に肩入れをして一大勢力たらしめ、時代を旋回させた張本人であるかもしれない。

結果の一面に過ぎないが、パークスがその場所を決めた当時の英国領事館は、いまなお英国大使館として続いていて、その場所は皇居にもっとも近く、諸外国の大使館のなかで最高の場所にあるのだ。

小栗忠順(1827〜1868)
 vs
ハリー・パークス(1828〜1885)

この二人がからみ合う。
新しい視点のドキュメンタリー&ドラマだ。

折しも、今年から高校の新科目として『歴史総合』が導入されるという。
番組のタイトルにもあるように、世界史と日本史をつなげて、新しい歴史をつむぎだすグローバル・ヒストリーがはじまるのだ。

ところで、司馬遼太郎は著書『明治という国家』で、パークスについてこう書いている。

パークスは賢い男でした。
しかし真に聡明であるというのは、へんぺんたる文明の差で相手を見ないということです。(略)
パークスならパークスが背負っている英国の国威、英国の文明という尺度で、かれの相手の国を見ます。
そういう人間は、浮世のことで、賢くはあっても、結局はつまらない男です。


と、意外にも辛辣だ。

司馬氏は、パークスの賢さを

巾着切りの賢さ

とも言い表している。
巾着切りとはスリのこと。
ひとの財布がどこにあるのか、右ポケットか左ポケットか、いくらくらいはいっているかということがわかる賢さだという意味だから、相手の国を文化や教養や品格で見るのではなく、カネやチカラという物差しで見定めるということか。

パークスのもとで通訳官を務めたアーネスト・サトウは、彼について、

日本人の請願に対して、彼の荒々しい言葉を通訳しなければならなかったのは、ほんとうに辛いことでした。

と述懐している。

パークスが14歳の少年のころ、中国にわたり通訳官の下働きをしていた。

そのとき身につけた知恵は、

アジア人はおどさなきゃだめだ

ということだったという。

司馬氏はいう。

アジア人はおどさずに下手に出ているとつけあがって尊大になり、まとまるものもまとまらない。ぐわっと、虎や獅子の表情をつくっておどかすと、いっぺんにおそれ入って、要求をのむ。
そういう知恵をかれは中国で身につけました。


これを氏は、浅知恵と喝破している。

中国では古来、大官は皇帝の股肱であり貴族であるため、尊大で労を惜しみ、軽やかに仕事をすることがない。

英国はそうではなかった。

高官でも貴族でも自らの体を動かして身の回りのことをし、スポーツもし、労働もした。
この文化の違いがパークスの不幸であり、彼のアジア外交の起点にもなった。

パークスは、中国でいう小者とみられ、彼の地で軽んじられた。

この国で、英国式をやればかえってあなどられる

傲岸不遜な外交官、パークスの誕生であった。

ハリー・パークス Wikipediaより

日本にも、問題をのらりくらりと先送りする者や無能で高位の者はいた。
しかし、総じて武士階級は四書五経のような基礎的な教養があり、武術・体技を習得していて、労働することを厭わなかった。

パークスは、維新後に佐賀藩出身の副島種臣を知る。
副島は漢学、国学はむろんのこと、欧米の法制、経済にも精通しており、人格も大人(うし)だった。
パークスは、はなはだ畏敬するふうだったという。

小栗忠順は、只者ではない。
勝海舟からは、

あの人は、精力が人にすぐれて、計略に富み、世界の大勢にもほぼ通じて、しかも誠忠無二の徳川武士

と言われた人物だ。

さて、このドキュメンタリードラマで傲岸不遜なパークスがどう描かれ、幕府の最終兵器・小栗とどう対峙するのか。

非常に興味深い。
刮目して見極めたい。

 

NHKプラスで2022年10月23日9時まで配信中


大河ドラマ『西郷どん』にもパークスが登場する