ドクター・スリープ(2019年)
DOCTOR SLEEP
監督・脚本・編集 : マイク・フラナガン 製作 : トレヴァー・メイシー、ジョン・バーグ 製作総指揮 : ロイ・リー、スコット・ランプキン、アキヴァ・ゴールズマン、ケヴィン・マコーミック 原作 : スティーヴン・キング 撮影 : マイケル・フィモナリ プロダクションデザイン : メイハー・アーマッド 音楽 : ザ・ニュートン・ブラザーズ
出演 : ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン、クリフ・カーティス、カール・ランブリー、ザーン・マクラーノン、エミリー・アリン・リンド、ブルース・グリーンウッド、ジョスリン・ドナヒュー、アレックス・エッソー
原作は未読。前作「シャイニング」はキューブリックの映画を見た後に読んで、映画とは随分手触りが違うと思っていた。やはりあの映画はあくまでキューブリックの「シャイニング」で、「ホラーの傑作」との評価とは裏腹に、キングがその出来栄えに反発していたってのも肯けたものだった。
さて、本作。なるほど、キングが太鼓判を押しただけのことはある、キングの雰囲気がそこここに漂う一作だった。
簡単に言えば映画「シャイニング」に抜け落ちていた「生きていくことの哀しみ」や「さりげない優しさ」なんだが、「シャイニング」の原作ではジャックの「哀しみ」も充分書かれていたと思うのだ。
怪我をさせたダニーへの負い目や進まぬ執筆、キング自身を投影していたというジャックは、原作ではホテルの悪霊の誘いと、家族、とりわけダニーへの愛に最後の最後まで葛藤するのだが、映画ではジャック・ニコルソンの凄まじい演技もあり、ジャックは完全にあっちの人。妻子を追いかけるクライマックスの狂気の形相には、家族への愛情など微塵も見られなかった。
そもそも映画の方は、悪霊そのものより「あ、こいつ狂ったんだ」とわかる、あの同じ文章が延々と打たれていたタイプライターの原稿のシーンが一番ゾッとしたものだったなあ。
人を取り込もうとする「オーバールック・ホテルとの対決」という観点でいえば、小説ではある意味ジャックがダニーを守りきるとも言えるのだが、映画版ではジャックそのものがホテルに取り込まれてしまっていたし。
以下多少ネタバレあり!
そんなジャックを失って40年。少年だったダニーも大人に。だがあのホテルでの出来事が深いトラウマになり、父と同じアルコール依存症になっているってのが泣ける。うらぶれたユアン・マクレガーが本当にいい味を出している。
心機一転、ダニーは知らない街でやり直しを図り、良き友人にも出会える。ホスピスで働きながら、死を目前にした患者たちにかつての「能力」も使いながら安息を与え、“ドクター・スリープ”と呼ばれて、頼りにされる存在となっているところなど、なんか非常にキングらしい暖かさを感じる展開だ。
そんなある日、ダニーのもとに彼と同じ特別な力を持つ「誰か」からメッセージが届く。
そして、冒頭から並行して描かれる“ローズ・ザ・ハット”たちの怪しい誘拐事件。
やがてローズたちの所業を知り、自分にも危機が迫っていることを察した能力者である少女アブラは、ダニーに助けを求める。
やがてローズたちからアブラを守るために、ダニーは「あの場所」での決着を決意する。
人の生気を喰らうことで恐らく何百年も生きながらえてきたらしい「人に非る者」ローズたち。
レベッカ・ファーガソンが美しくも妖しくて大変によろしかった。
この存在は、前作のシャイニングには全く登場しないが、こういうヴァンパイアじみたのは大好物(笑)なので問題無し。
なんならホテルに戻らずに話に決着ついても俺は文句なかったかも(笑)。
そしてそのホテルだ。ホテルに戻らずに決着もありは、早くも言い過ぎだったと撤回するぞ(笑)。
やはり、双子の姿も、237号室の亡霊も、エレベーターの血の洪水などはもちろん、迷路のような廊下に庭園、バーカウンターやボールルーム、タイプライターに絨毯と、印象深い「絵」が写るたびにテンションが上がる。
引き戻されるダニーの記憶と恐怖。またダニーを取り込もうとする「ホテルの存在」。ダニーはこれをうまいこと使いながらローズとの対決に臨むのだ。
で、終わってみればキングの原作&キューブリックの映画の双方のシャイニングのラストいいとこ取りエンディングで、いやあ、お見事!
こりゃキング本人にもキューブリックサイドからも文句出ようが無いでしょ。脚本に監督、編集まで行ったマイク・フラナガン、良き仕事、お疲れ様でした!と言いたくなる幕切れだった(笑)。
ただ、冒頭書いた通り「哀しみと優しさ」のキング印はしっかりついていて良かったけど、やはりキューブリックのあの映画は別物だよなあ。と改めて思ったのも事実。
てか、シャイニング原作は炎、映画は氷雪と正反対の終わり方だったのだが、この映画の原作「ドクター・スリープ」のラストは、当然この映画版とは違うはず。おお、一体どんなラストにしているのか、グググと興味が湧いてきたぞ。
茶化して書いたけど映画は納得のラストだった。
能力を隠して、人生の影を歩んできたダニー。
能力を隠さず、戦うことも厭わない賢いアブラ。
ダニーが最初はアブラに能力を隠すよう諭していたのだが、これからもダニー自身がかつてディック・ハロランから教えを授かったように、アブラを認め、守る立場になっていくのだろな。
ユアン・マクレガーだけに、オビ・ワン・ケノービっぽくて説得力もあって良かった(笑)。
余談だが両親がそっくりさんで出てくるとはね。母親ウェンディは最初から出ていたが、シェリー・デュバルよりかなり美人になってたな(笑)。ニコルソンのそっくりさんは、あそこまでの狂いっぷりには至ってなかったけど、どちらも◯でした。
恐らく映画としてはキューブリック版ほど後世まで語り継がれることにはならないだろうが、丁寧な仕事ぶりに好感の一本でありました!