「豆の上で眠る」 湊かなえ | 映画物語(栄華物語のもじり)

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「映画好き」ではない人間が綴る映画ブログ。
読書の方が好き。
満点は★5。
茶平工業製記念メダルの図鑑完成を目指す果てしなき旅路。

★★★☆☆

 人を試すようなことをしたときに、怒るでもなく提示された問題に答えを出して素知らぬ顔をするのは、むしろ後ろめたいことを抱えている証拠である、という話。浮気のチェックと称して相手のスマホの中身を見ることになったとき、もし相手が素直に差し出してきて、かつ、証拠となるものが何もなく、「ほら、何もないでしょ? 他に何か見る?」と余裕をかましてくるようなら、逆に怪しいものである。人は「疑われることに腹を立てる」というのは自然な行為なので、何も出てこなかったときに怒らないというのはむしろ不自然なのである。まあ私の場合、スマホを見せろと平気で言えちゃう神経にキレちゃうけどね〜。じゃああなたのも見せてねというと逆ギレされること請け合い。

 

 いやー、徒労感がハンパ無い読後感である。およそ想像し得る中で一番面白くない結末であった。湊かなえの小説はいわゆる「オチ」が重要である作品が多いと思うのだが、今まで読んだ湊かなえ作品の中で一番つまらないオチであった。

 オチもつまらないし、今までやってきたことは何だったの感が余計つまらなくさせている。

 また本著は、湊かなえの味でもあるのめり込むような文体や構成ではなく、どことなく冗長感溢れるとろい展開で、途中読むのがかったるくなった。湊かなえ作品に期待するのめり込むような疾走感溢れる展開も文体もなく、なんでかなーと思っていたら、「解説」にその答えが書いてあった。本著は湊かなえ初の「週刊連載作品」であるらしい。

 週刊連載作品だから悪いというわけではもちろんない。が、週刊連載作品であることが悪い方向に出ていると感じる。要は話が間延びしている印象を受けるのである。だから、かったるい。

 もちろん湊かなえ作品であるので、それなりに読める作品ではある。読んでいて「ものすごくつまらない」と思ったことは一度もなく、これが湊かなえの作品でないのなら、「普通に面白かった」くらいの感想で終わっていただろう。普通に面白かったけど、作者の他の作品を敢えて読みたいとも思わない、と。

 湊かなえが、それだけ期待値が上がるほどの大家となったとも言える。だが、それが一歩間違えれば「ガッカリ」に繋がってしまうのだから、プロというのはとても厳しい世界なのだなぁと超ひとごとで思う次第である。

 ストーリーとしては、小学三年生のときに行方不明となった姉が、2年後に発見されて帰ってきたのだが、行方不明になったときに一緒に遊んでいた妹は、帰ってきた姉を「本当の姉ではない」と疑い続けるーーというようなものである。ストーリーの大部分は、この妹による当時の回想を中心にして、母が執念深く、ときに非常識な手段を用いて姉の行方を追い、それに振り回される妹のエピソードが中心となる。

 で。

 そこまでしておいて、そんな真相なの? という不満があるのである。もっとなんかびっくりするようなオチであると期待しており、その期待があったからこそ冗長に感じる構成やストーリー展開も我慢して読めていたところがあるのだが、超がっかりであった。がっかりすると、徒労感がすごく、不満が大きくなる。

 わたくしごとであるが、私は自分で勝手に「誕生日には最高のプレゼントを。クリスマスには奇をてらったプレゼントを」となんとなく決めているところがあるため、クリスマスには大抵ガッカリされる。奇をてらうといっても(私としては)そこまで変な物をプレゼントしているというわけではなく、要は一言で簡潔に述べてしまえば、「貴金属」と「ブランド物」を禁じ手として、何が良いかな〜と考えるのである。しかし、不幸にも私のプレゼントを受け取ってくれることとなった歴代のお相手たちは、恐らくは誕生日にそういった物(貴金属やそれに類するもの)をもらっているので(考えてみるといつも誕生日がクリスマスよりも先であった)、クリスマスにもそういった物をもらえると期待していて、文字どおり蓋を開けて見るとがっかり……というパターンが9割以上だったような気がする。はっきり言って値段的には同じくらいの費用を掛けていたのだが、どうもそういうことではないらしいという点が、「期待」というモノの本質を明示していると思うのである。

 「期待に沿わない」という負の感情は、事実関係や相関関係を飛び越えた先に存在するのである。「とにかく嫌だ」という理屈を超えた、どうしようもない、制御不能な感情なのである。そこに「費用は同じくらい」などという理屈が介入する余地はない。

 湊かなえは数多くの傑作ミステリーを紡ぎ出す大家となった。そのため、世間からの(というか私からの)期待値が上がった。その期待に応えられれば、私でいえばつまらぬこだわりなど捨てて素直に世間の流れどおりに特に頭をひねることも悩むこともなく「とりあえずこれなら間違いはない」というような光り輝くモノやロゴをあしらったモノをプレゼントしておけば、今まで以上に好きになってもらえた。しかし一方で、それができなければ、期待していただけに、その愛が萎み、憎悪にも似た不満が噴出されてしまうのである。

 プロとは、この「期待」に応え続けることが仕事である以上、なんと辛い職業であることよ。

 

 以下、中途半端なネタバレ。

 

 この物語の1番の不満は、捜索に執念を燃やした母のやっていたことや、主人公である妹がそれに振り回されながらも自分なりに姉のことを思ってやっていたことが、ほとんど無駄であった点である。そして行方不明となっていた姉が戻ってきてからもストーリーは続き、妹が姉に不信感を抱いていろいろと試すようなことをするのだが、それもまたほとんどが無駄となる。

 つまり、結末=オチと、途中経過に、実はあまり関連性がないのである。行方不明になったとき、実は母親が何もせずにいたとしてもこの結末になったし、妹は疑念を抱き続けていたから自身が真相に辿り着けたとも言えるが、それで何かが変わったわけでもないというか、「知らなかったのは妹だけ」という事実は、じゃあ発見されてからのオチに至るまでの話に何の意味があったの? と虚しくなってしまうのである。伏線とその回収が多少はあったものの、大部分が「無駄」に思えてしまうのである。無駄な事柄にページを割き、その無駄なものを読むことに時間を掛けさせられたというような思いである。

 オチも、最初に述べたように、想像した中で一番面白くない決着であった。

 「行方不明になった姉が、数年後戻ってきた。しかし、本当に姉なのか?」

 というコンセプトには惹かれただけに、非常に残念であった。言うなれば、その魅力的なコンセプトにもまた期待値が上がり、期待値が上がっただけにガッカリ感が大きくなった。

 非常に凝った包装紙で包まれたプレゼントに期待を抱かせ、開けたら想像していたものと全く違ったーー私としてはちょっとしたイタズラ心であったものが、相手は本気で期待しただけにガッカリ感が大きく、そのガッカリ感は怒りへと様変わりする。

 期待には素直に応えるのがよい。もちろん、応えられるのなら、だが。

 人間の期待とは、かくも純粋でありながら難しきものかな。

 

 

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