クリスマスが近づいてきました。本来なら、楽しく盛り上がる時期ですが、私の働いている施設では、患者がピリピリしているのがよくわかります。

どうしてもクリスマス前は、街中もデコレーションされていますし、テレビやラジオを付けてもクリスマスソングを聞かない事はありません。ここの施設もいろいろな飾りが付けられています。ただ、家族や友人のいる人にとっては楽しみな日であっても、そうでない人にとってはこれ以上の苦痛はない日でもあるのです。クリスマスは自殺率が一番高いというのも納得できます。

今日の午後、2人の女性が争う声が聞こえてきました。中には、ソーシャルスキルのあまりない患者もいるので、思い通りにいかなかったときにすぐに怒鳴ったり、叫んだりすることがあるので、いつものことと思いしばらく無視していました。ところが、その怒鳴り声がだんだんと激しくなり、しまいには殴り合いの喧嘩に発展してしまいました。あわてて、近くにいたカウンセラー達が駆けつけると、ふたりはまずいと思ったのかすぐに離れました。理由をきくと、午後にひとりひとりに渡されるポテトチップスのことをめぐって大げんかになったそうです。どうやら最後に残ったひとつを取り合ったようでした。本当に中身は5歳児のようで呆れ返りますが、肉体的には大人なので手がつけられません。

仲間のインターンが、”これはきっとクリスマスを楽しく過ごせない人たちのイライラが爆発した結果だと思うけど、どう思う?”と聞いてきました。確かに、それはある意味あたっていると思いました。というのも、別の日に、ある男性患者がカウンセリングオフィスへ入って来たときのことを思い出したからです。

カウンセラーのひとりは、4人の子持ちでたくさんも孫もいるおばあちゃんなので、クリスマスが来るのを指折り数えて待っています。彼女は、朝来るとまずラジオを付けて、帰る直前までクリスマスソングを聞いています。そこへその男性患者が入って来たのですが、ラジオから流れてくる曲を聞いたとたん、”クリスマスなんて大嫌いだ。消してくれ。”と、普段は割と温厚な人なのですが、急に表情を堅くして怒り始めたのです。それでも彼の表情に気づかないおばあちゃんカウンセラーは、”だって、クリスマスは楽しいじゃない。心がうきうきするわ。”なんてのんきに答え、そのままにしていました。次の日、彼は耐えられないと言って、施設を出て行ってしまいました。

少しやり過ぎ感のある、クリスマス商戦シーズン中は、不幸な環境にいる人たちに同情せざるを得ません。明日は、施設でクリスマスパーティを開くそうですが、何事もないことを祈っています。
Schizophrenia(統合失調症, 精神分裂病)とアルコール・薬物中毒との組み合わせはよくみられるパターンです。

Schizophreniaにはふたつの主な症状、positive symptoms(幻覚、幻聴、妄想)とnegative symptoms(表情がない、スピーチに問題がある、喜びを感じない等)、に分けられます。想像しやすいとは思うのですが、例えば聞こえないはずの声が聞こえる(ps)ととても不快で、それから逃れるためにアルコールやドラッグにはしることが多かったり、または、何に対しても刺激を感じなくなる(ns)と、刺激を求めるために手を出すことが多いのだそうです。

ジョナサンもそのパターンで、無表情のまま、"I hear voices..."と私に訴えてきました。彼は、その声が嫌でドラッグを始めたそうです。私はそれを聞いた時点でできるだけ早く精神科医に連れていかないと行けないので、彼のインタビューは簡単に済ませ、すぐに別の部署へ送りました。この時、”声”が何と言ってくるのか聞いておけば良かったとちょっと後悔しました。

夕方になって、そろそろ帰ろうとしていた時でした。何人かの患者達があわてて部屋から飛び出して来て、廊下で何やら騒いでいました。話を聞くと、どうやら新しく入って来た、パティという女性が、ずっと暗い部屋の中で、体を前後に揺すりながら(body rocking)何かをブツブツつぶやいているとのことでした。よく聞いてみると、”神が、私に自殺しろと言っている”と繰り返し言っているのです。それで、周りにいた患者は怖くなって、みんな部屋を出たということでした。

彼女は幻聴を止めるための薬がきれたため、また症状が出てきたそうです。同じインターンの子が、”あなた心理学やってるんだから、ちょっと話してきなさいよ。おもしろいかもよ。”なんて冗談半分で言ってきたのですが、ためらっているうちに、彼女は別のところへ連れていかれてしまいました。Schizophreniaは授業でも一番といっていいほど力を入れて習ったところなので、今度チャンスがあればまたいろいろ質問してみたいと思います。
朝から一人の患者さんに苦労させられました。

ジョンは40代のホームレスで、アルコール依存症でこの施設に来ました。昨日到着したばかりで、今朝は疲れているのか、ずっと寝てばかりいます。先輩カウンセラーから、ここの施設に来たら、患者はintake(最初に行うインタビュー)を受ける義務があるから、叩き起こしてでもオフィスへ連れて来いと言われ、午前中に2、3回彼の部屋を訪れては、ベッドに横になったままの彼に後でと追いかえされます。

やっと午後になって、彼もさすがにベッドにばかり横になっていられなかったのか、やっと部屋から出てきました。すかさず飛んで行って、質問させて欲しいというと意外と素直にオフィスについてきました。最初に簡単な家族構成などを聞くのですが、もうその時点で明らかに嫌そうな表情をし始めました。返事はほとんど、首を縦か横に振るだけ。それでも構わず、とりあえず早く情報をもらって終わらせてしまえばこっちのものだと思い、気づかないフリをして続けました。

今までの職歴を訪ねた時に、彼の態度は一変しました。いきなり、”こんな質問が本当に必要なのか!”と前のめりになって怒鳴り始めたのです。こういう言い方をされるのは、割と慣れているのですが、それでもほとんど患者さんは、”これはルーティーンの質問で、あなたをよく知らないカウンセラー、ナース、医者がこの質問表を見て、あなたが大体どういう人物で、どういう経歴をたどってきたのかわかるし、もう一度同じ事を尋ねなくてもいいように書類を作っているだけだ。”と説明すれば、大抵は納得してくれます。ところが、ジョンはその説明もさせないまま、席を立ちました。それに気づいた他のカウンセラーが、彼をつかまえ激しくやりとりを始めました。彼女は、”これはとても大事な質問で、患者は答える義務がある。これに納得しないのなら、もうあなたがどうなっても私たちは知らない。”と言い切りました。これに対してますますジョンの態度は頑なになり、部屋に引きかえしていきました。

別の男性カウンセラーがこのやり取りに気づき、自分がジョンに説明に行くと言い、ジョンの部屋でしばらく何かを話している様子でした。この男性カウンセラーは、ソーシャルワーカーのような資格を持っているわけではないのですが、大きな体のわりにとても患者に対するケアがきめ細かくて、周りからお兄さんのように慕われています。男性カウンセラーが帰ってくると、ジョンがなぜ拒否したかを彼には説明したそうです。まず、昨日到着したばかりで、あまり気分が良くない(detoxに来る患者は、いきなりアルコールや薬物を断たれるのでこういうパターンが珍しくありません)。そこへきて、急に会った事もない人物にパーソナルなことを聞かれる(彼らは話しにくい問題を抱えている事が多いので)。これらの問題がとても彼を居心地悪くさせたらしいのです。

そういえば、サイコセラピーのクラスを取ったときに、患者との人間関係(rapport)を築くことから始まると習ったのを覚えています。心理学を習ったことがある人は(あるいは、習った事がなくても)、アルコール・薬物依存の後ろには、何かしら心理的な問題が潜んでいることが多く、生い立ちや経歴等はとても重要な情報を含んでいることは当たり前のことだと分かるはずです。ところが、きっとジョンにはそういう、私たちが当たり前だと思っていたことは、当たり前ではなかったのだと思います。たとえそれを知っていたとしても、ただでさえ答えにくいプライベートな質問には誰でも躊躇すると思います。そこで、次にはrapportというのが重要になってくるのだと思いました。患者をただの質問するだけの対象として(思っていたとは思いたくないですが)扱っていたかのような態度が、ジョンを怒らせたのだと気づきました。明日からは、少しずつ挨拶を交わすなどして、彼から私に心を開いてくれるようになるまで辛抱強く待ちたいと思います。