Borderline Personality Disorder-BPD-(境界性人格障害)とは、簡単に説明すると、感情や自己のイメージが不安定で、人間関係を上手く持てない障害をいいます。”危険な情事”という映画の、Glenn Closeが演じた浮気相手の役がこれに当てはまるようで、心理学のテキストにもそういう説明の書いてあるものがかなりありました。

”人格障害”という言葉が示す通り、この、XX Personality Disorderと付くものは、その障害が人格そのものと言えるほど、広範囲に渡って態度等に現れます。そして、その中でもBPDは一番程度がひどく、一般的に治りにくいと言われています。

男性教授のひとりが興味深い話をしてくれました。彼が昔あるクラスで、授業を終えたとたん、ものすごい剣幕で女生徒のひとりが近づいてきました。いきなり、”何でずっと授業中私の顔ばっかりみてんのよ!あんた、どうせあたしとsexしたいと思っていやらしいこと考えてたんでしょ。いい加減にしてよ。でも、食事くらいだったら付き合ってあげてもいいけど。”と言ってきました。あまりのことに教授はびっくりして、”私は授業中はできるだけみんなの顔を覚えようと、ひとりひとり目を見ながら話す癖はあるけれど、特別君だけを見つめて話したということは全くないよ。ただ、もし僕の態度で何か不快な思いをさせることがあるのだったら、気をつけるつもりだ。僕は結婚生活も上手くいっているし、失礼かもしれないけれど、特に君が僕のタイプというわけでもない。”と、相手の表情をみながら、ゆっくりを説明しました。そのとたん、彼女は急に顔を真っ赤にさせると、”すみません。私、何か勘違いしていました。本当にごめんなさい。”と謝り、あまりの恥ずかしさからか、走って教室を出て行きました。これがBDPの典型のひとつだということです。

人格障害から精神障害に移るパターンというものもかなりあるそうです。BDPを持っている人は躁鬱病になりやすいと習いました。確かに、症状もすごく類似しています。

施設に来る患者さんの中に、かなりの割合で躁鬱病をもっていると診断された人がいます。私のいるところ、Detoxは、前にも少し説明した通り、いきなりアルコールやドラッグを断たれた人たちがリハビリに行くまでの、最初の1週間過ごすところなので、禁断症状に苦しんで暴れたりすることも少なくありません。始めは、その禁断症状やイライラが積もって、暴言を吐いたり、暴れたりするのかなと思っていました。確かにそういう人たちが多いとは思います。ただ、注意してみると、躁鬱病を持っている患者さんたちはちょっと不思議な行動を取ります。

例えば、いきなりオフィスに入って来て、”施設を出て、他のところへ移りたいから、ここへ電話をしろ!”とどなります。患者の希望をかなえようと、一生懸命カウンセラーが手配しようとしているのに、”あんたは、私がここの施設にいればいいと思っているから何もそうやってしないんだ!”といきなり責め始めるのです。そして、ほんの5分10分したら、さっきまでの勢いはなくなって、”いろいろ助けてくれてありがとう”と、まるで何もなかったように普通に会話を始めるのです。きっとこれは授業で習った通りの、BPDの症状なのだろうと思いました。

人格障害には他にいくつか種類がありますが、調べてみると結構おもしろいかもしれません。周りの人たちの中で、”何かこの人はちょっと変わっている...”と思えるような人がいたら、その人はどれかの人格障害に当てはまるかもしれません。そうやってみてみると、少しその人に対するイライラもなくなるかもしれません。

仕事も終わって家に帰る途中のことでした。ちょっと派手な赤いスポーツカーがしつこくクラクションを鳴らし、私の近くをゆっくりと走行していました。NYなので、平気で知らない人が様々な目的で声を掛けてくることもありますし、仕事場の近所には知っている人はいないので、そのまま自分じゃないと思い無視しようとしました。そうすると後ろを歩いていたカップルから、”あなたの知ってる人じゃないの?”というので、やっと振り返って車の中をのぞいてみると、1週間程前まで施設にいた患者さんでした。

彼の担当はしていなかったのですが、あまりにもおもしろい人だったのでよく覚えていました。一度、女性患者同士の激しい喧嘩になったときに、カウンセラーの一人があわてて、”Call blue! Call blue!"と、建物内に響くように叫んだので、仕事をしていた私も現場に駆けつけた方がいいのか、そのままオフィスにいていいのかかなり迷いました。その迷っている時にたまたま別のインターンが患者のインタビューをしていて、その患者である彼が私のはっきりしない態度を笑って、それ以来、彼の中で私のあだ名が"call blue"になりました。

彼は典型的なずる賢いタイプの患者で、私がインターンであまりきついことを言わないことをいいことに、他のカウンセラーが席を外すと、するっとオフィスに入って来て勝手に私用で電話を使います。でも、彼の電話の相手が大抵、彼のまだ小さい子供であったりすることが多いので、そのへんは見逃すことにしていました。背も大きく、いろいろ悪いことをして来た彼でも、子供と話すときには、とても優しいお父さんになっていたのがとても印象的でした。

その彼は、私が働いていない週末に”卒業”していたらしく、今日は偶然忘れた荷物を取りに来たということでした。数日ぶりに見た彼は、少し痩せ、着ているものも仕事帰りなのかちゃんとした格好をしていたので、とてもあの施設で毎日大声で歌を歌っていた人とは思えませんでした。”見違えちゃったから、すぐにわからなくてごめんね。”と言うと、彼は誇らしそうに、”先週末に卒業したからね。いろいろお世話になったね。他のカウンセラーにもよろしく。”と何とも言えない笑顔で言いました。私も”Good luck!”と返し、お互い握手を交わして別れました。

いつも、他のカウンセラーが、元患者からお礼の連絡があったりすると、本当に普段見られないような嬉しそうな表情をするので、そういうものなのかなぁと思っていました。でも、自分がこういう立場になってやっとわかるような気がします。スーパーバイザーはよく、”患者がお礼を言ったとしても、気分はいいかもしれないが、それは私たちの力ではなく、彼らが彼ら自身で立ち直ったんだ。と同時に、彼らが立ち直らなかった時も、それは私たちのせいではないのだから、落ち込む必要もない。”としつこく繰り返しますが、でも、今日だけは、ちょっといい気分でいたいと思います。
Antisocial personality disorder(反社会的人格障害)の次に、私が個人的に興味を持っている障害は、通称OCD(Obsessive-Compulsive Disorder)とこちらでは呼ばれているものです。日本では強迫性障害と言われているようです。Obsessionとは、無意識だったり自分では抑制がきかない思考やイメージが頭から離れないことを言い、例としては、細菌などに自分が汚染されることを極端に恐れることがあげられます。Compulsionとは、ritual behavior(儀式的な行為)ー繰り返し行われる行為(ガスを止めたかとか鍵をかけたかなどを不必要に何度も確認したり、手をしつこく繰り返し洗ったりすること)をさし、その行為はどうやっても止める事はできません。多くの有名な映画にもこのOCDをもった人物が描かれていますが、その中のひとつで、ニコラス・ケイジ主演の”Matchstick Men”でこれらの行為が描かれているのが印象的だったので、興味のある方はご覧になってください。個人的にこの映画は好きです。

ただ、私も含めて多くの人が、電車やバスのつり革や手すりをちょっと汚いなと思ったり(見た目は何もないとしても)、本や雑誌を買う時に同じものが2冊以上ある時には、誰もまだ手を触れていないだろうと思われる後ろや下の方から取り出す事があると思います。アメリカではこういう時ふざけて、”私、ちょっとOCDがあるから”なんて言いますが、これは本当のOCDではないとされています。その分け方はとてもシンプルです。自分でこういった行為を嫌だとか治したいと思っている(ego-dystonic)か、そうでないか(ego-syntonic)というだけです。ちなみに、ego-syntonicでOCDほどまでではなくても、軽く似たような症状がある場合には、OCPD(Obsessive Compulsive Personality Disorder)と呼ばれます。部屋を異常にきれいに掃除・整理整頓することが好きな人がこれに当てはまると思われます。

少し余談なのですが、このdystonic-syntonicルールによって、同性愛というものが精神障害とされないとなっています。

前置きがかなり長くなりましたが、まだOCDを持つ患者さんには会った事がありませんが、私のスーパーバイザーが、ちょっと変わったタイプのOCD患者さんを持った事があったそうです。

トムは小さい頃から不思議なファンタシーを持っていました。それは、母親の前で自殺をするというものです。その考えに押しつぶされそうになるたびに、母親は何としてでも止めてきたのですが、ある日、トムが拳銃を持ち出し自分のこめかみに銃口を向けました。もうすっかり疲れきった母親は、とうとう”撃ちなさい”と言い、止めなかったのです。彼はそのままこめかみを真っすぐ撃ったつもりだったのですが、方向が反れ、前頭葉の方を打ち抜きました。幸い命を落とすことはなく、病院で回復したときにトムは、自分の異様なファンタシーもなくなっていることに気づきました。スーパーバイザーが言うには、OCDを抱える人たちには共通で前頭葉やその他の部分に異常が見られるそうで、実際この障害を治す時にはその部分を切り取ることもあるということでした。つまり彼は、とてもラッキーなことに、自分で自分を治療したことになります。

後に、彼はこの経験を生かして、心理学者になったということです。