by Kazuo Ishiguro
282ページ
邦題は「わたしを離さないで」。つい最近映画化されたばかりなので、知っているひとも多いはず。映画観たかったのに、結局タイミングが合わず逃してしまった。早くDVDにならないかな。
有名になってしまったがゆえに、読む前にある程度予備知識が入ってしまうこともあるかもしれない。けれども、本当は何も知らずに読み始めた方が絶対に面白いと思う。
幸い自分は、何となく本を手に取ったというだけだったので、余計な情報を全く入れずに読むことができた。
話は、31歳のKathy H.が、寄宿学校Hailshamで過ごした少女時代を回想するという形で始まる。
緑に囲まれた郊外にひっそりとたたずむ静かな学校。
一見、ごく普通の学園生活を送る子どもたち。
しかしHailshamには、ある秘密が隠されていた・・・。
淡々とした語り口の中にひそむ、そこはかとない不気味さを感じながらの読書は、例えて言うなら「放課後の誰もいない廊下を歩いて、音楽室に向かう」ようなものだろうか? 盛り上げて盛り上げて、後からドーンと真相を明かすというのではなく、常温を保ちつつさりげなく核心に触れるのが逆に怖い。
「え? あんた今サラっととんでもないこと言ったよね!?」みたいな。
そういえば、何年か前に「エコール」というフランス映画があった。
内容は全く異なるのだが、現実感のない綺麗で不気味な学校の雰囲気が、何となくこの作品を彷彿とさせた。
ストーリーについては、あまり余計なことを語るべきではないと思うので、英語の話を。ひとことで言うと、「きちんとした英語」。スラングなどを使用しない、学校で習う教科書的な英語。語り手であるKathyの、温室育ちっぽい雰囲気がよく出ている。邦訳は「ですます調」になっていたが、確かにそんな感じだ。
試験には間違っても出てこないお下品な単語やマニアックな単語がないので、洋書をあまり読んだことがなくてもとっつきやすい文章ではある。
ただ、アップダウンの少ない話は、流れに乗りにくい分根性がないときついかもしれない。起承転結のはっきりしたテンポのよい話だと、細かい単語がわからなくてもどんどん読み進めてしまえるのだが、イシグロ作品はじっくりかみしめるように読まざるをえない。
そういう意味では、ちょっとハードルが高いのではないかと思う。
洋書を読む上で、流れというか、ノリというか、そういうのってけっこう大事だ。
洋書デビューしたばかりの頃、四苦八苦しながら「外国語を読んでいた」のが、あるときお話に夢中になるあまり外国語であることを忘れてしまう瞬間があった。
母国語の小説を読んでいる感覚とはまた一味違う、「洋書ハイ」みたいな状態、けっこう快感なのです。
面白さ:★★★★★
英語の読みやすさ:★★★☆☆~★★★★☆
なんとなく涼しくなるので夏の夜にオススメ度:★★★★★