数cmから1万kmの恋 -102ページ目

20cm: 「千野家とのノミュニケーションの始まり」(2)

数cmから1万kmの恋





厨房に入るなり、私は隅っこに置かれたガス台でフライドポテトを揚げている母のそばにピタッと寄り添った。




母から菜箸を受け取り、油の中で激しく泳いでいるフライドポテトを一焦点に見つめた。




頭の中で自分がついさっき喋った英語が繰り返されていた。




”あぁ~!あそこToじゃなくてFromだった!あの動詞の過去形…あぁ、なんでこんな簡単なの思い出せないんだ…”




いつもそうだが、頭で日本語を翻訳し、口から発した直後に文法の間違いに気がつく。




そして間違ってすぐ後悔し、自分の英語力の不甲斐なさに落胆してしまう…。




大学での授業のお陰で前よりは話せるようになった。




しかし実践力、つまり会話はまだまだだった。




私は海外経験がほとんどない。




しかも日本人がたくさんいるハワイに一度だけ大学の友人と旅行に行ったきり。




”いつか必ず留学して、海外に住み、もっと英語ができるようになりたい!”




そう秘めていたものの、まだ両親には切り出せていないままだった。




”そんなに熱意があるなら、どんどんジョンに話しかけて英語を上達させればいいのに…。”




とフライドポテトを油から取り出しながら、心の中で2者に分かれた自分が会話をしていた。




「黄菜、なんとかっていうアメリカのドラマ知ってるが?」




口の中に食べ物が入ったまま、でかい声で父は聞いていた。




「知ってるよ。でも夜遅くやってたからあんま見たことなかったな。」




「ジョンのお母さん、そのドラマに出てたんだってよ。」




「まじで?!」




そのドラマは週一回、深夜に放送されていたのを覚えている。




私は海外ドラマが大好きだ。




小さい頃から、夕方ともなると「Full House」や「アルフ」、「サブリナ」をTVでかじるように見ていた。




ジョンの母親が出演していたというドラマは、ちょうど私が高校生の時日本で放送されていたと思う。




海外ドラマを見たいと思い、深夜まで起きようとするが、必ず途中で寝てしまっていた。





そして実際に何話か見たこともあったが、夕方に子供が見るようなファミリードラマではなく、ちょっと大人なコメディーだったため、理解できないシーンが多々あったのを記憶している。




「うちの父も若い時俳優でしたよ。ゴーストバスターズにも少しだけでてた。」




ゴーストバスターズは子供のころ何度見たかわからない。




今でも時たま地上放送されると、見入ってしまう。




その映画にジョンの父が出演していたと知り、ミーハーなうちの家族は一気にテンションが上がった。




「お父さんも、お母さんも俳優なのに、ジョンは俳優ならないの?」




私が差し出したアツアツのフライドポテトに手を伸ばしながら父は聞いた。




「う~ん、俳優は大変な仕事だからね。それに俺は教えることが好きだから、先生になりたいんです。」




現在ジョンの父は高校の教師をしているらしい。




俳優業だけでは家族を支えられないと、給料の安定した教師へと一転したのだ。




そんな父親をジョンは尊敬しているようだった。




アメリカのブラウン大学の東アジア学科を卒業したらしいが、将来は社会科の教師になる事が夢だと語った。




「さぁ、いっぺ食って飲めよ、ジョン!」




「おう!飲んでるよ!これおいし~い!こんなにおいしい料理作ってくれてありがとう、弘子さん!」




細身のジョンは作りたての熱々の焼きそばを貪りながら、大げさなくらい母の手料理を誉めた。




母は謙遜していたが、満面の笑みを浮かべ、冷えたビールをグイッと調子よく飲みほした。




「はぁー、本当にうまい!!」




まだ言っている。




ジョンも酔っ払ってきたのか、それともアメリカ人だからリアクションが大きいのか…。




急に思い出したかのように、記念に写真を撮ろうと父が言い出し、唯一その場でデジカメを持っていた私がまずシャッターを切った。




「黄菜、おめも写らねば。こさ座れ。」




と父は自分が座っていた席を立ち、私をジョンの隣に座らせた。




なんだか私は変に緊張してしまった。




私が人見知りだから?ジョンがアメリカ人だから?それとも彼が若い男性だから?




よくわからないが、とりあえず私はジョンと距離をあけて椅子の端に腰かけた。




緊張のせいからか、写真を確認したところ私は見事に半目になっていた。




半ば上半身が直立不動の私に、控えめに少し寄り添うジョンの姿がなんだかかわいいと思った。




これがジョンとの初めての2ショットだった。




こうして夜10時くらいまで千野家はジョンと楽しい時間をすごした。




そして明日は町内の昼の盆祭りで、父と一緒にミニライブを行う事になっていた。




父は趣味で作詞や作曲をしている。



過去に何曲か公募し、受賞した事もあるし、県内の市町村からイメージソングを頼まれるほど、ちょっとした有名人だった。




そしてバンドも率いており、来年には結成30周年記念を迎える。




私は基本的にはバンドには所属してないものの、暇を見てはコーラスとしてライブには参加はしていた。



そして明日はバンドメンバーのボーカル、私、父という小編成でミニライブを行う予定なのだ。




「明日ライブやるがら、見にけ!」




「うん、わかった!」




快活にジョンは返答した。




最後の一杯を飲み干し、ジョンは帰り際、




「それじゃ、今日はごちそうさまでした。本当においしかったです。じゃ、陽平、明日ゲームやるぞ!」



いつの間にやらジョンと陽平は明日の朝、彼の家でゲームをする約束をしていた。




私が厨房で母の手伝いをしている間に、お互いゲームが大好きだという事が発覚したらしい。




こうしてジョンとの初めての飲み会は幕を閉じた。




彼は何度もこちらを振り返り、大きく手を振って帰って行った。









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