1m: 「盆踊りミニライブ」(1)
父と私は早朝から機材のセッティングに追われていた。
一時間後、バンドボーカルも合流し、メインステージの横にある小さな町内会館で軽くリハーサルを行った。
すると町外から来た音響スタッフが私達のそばに寄ってきて、
「サインもらえねが!」
とCD片手に頼み込んできた。
実はローカルながら、父はバンドとしてCDを発売している。
発売と言っても、町内のホテルやコンビニ、そして自分達の手や口コミで販売する程度だ。
録音、ジャケット、ミックスダウン、編集と、全て自主制作でしかもCDは格安。
おそらく、今日のイベントで調達したであろうCDを持って、音響さんが必死に頼んできたのだ。
「わいや、困ったな。」
今までサインなど書いたことがない父とボーカルは戸惑っていたが、なんだかそれっぽく自分たちが作ったCDのジャケットにサインをしていた。
「ねーちゃんもサインしてけれ!」
「え、あたしもですか??」
最初は丁重にお断りさせていただいた。
なぜなら私はただの日雇いコーラスだし、普段はバンド活動には参加していないからだ。
「いつかねーちゃん、有名なったときのために。この通り!」
と思いもよらぬことを言われ、渋々と私は人生で初めて人に頼まれてサインを書いた。
芸能人みたいな凝ったサインは即興では書けないと思い、とりあえず筆記体のアルファベットで丁寧に自分の名前を書いた。
時刻は昼をすぎ、町内会館のある小さな広場にはたくさんの人が集まっていた。
金魚すくいに、ヨーヨー、綿飴、イカの串焼き。
突き抜けるような晴天の下、小さな子供達は浴衣に身をまとい、大人たちは一杯片手に上機嫌で、お祭りムードは増していった。
「まだジョン来てないね。」
「んだな。どごさいったべ?でもすぐくるべ。…あ、1枚ですか?ありがとうございます!」
と母は父のCDを売るのに忙しく、ジョンの事はあまり気にしていないようだった。
私は何故か普段は着ることがない、ピンク色の服を着ていた。
そしていつもは一本に結んでいる長い髪も、今日だけは下ろしてハーフアップにしてみた。
”今日は色んな人に見られるのだから、ちょっとはおしゃれしないと…。”
汗で首にまとわり付く髪の毛を手でとかしながら、私はジョンが現れるのを待っていた。
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