40cm: 「最後の成人式」 (1)
「黄菜~!!!起きれ~!!!!明子ちゃん、もう来てるで~!!」
けたたましい母の声で、私はベッドから飛び起きた。
「え、なんで!?…やばっ、もう8時じゃん!!」
人生で一度の晴れの日に、私はまんまと寝坊してしまった。
いつもは早起きの両親も、昨日のライブの疲れからか今朝はぐっすり眠っていたらしい。
この日のために買ったクリーム色のカクテルドレスを急いで上からほっかむり、とりあえず化粧ポーチとバッグだけを掴んだ。
”あと何持てばいいんだ??…これで十分だべ!”
私はドタドタと音をたて、ドレスを着たまま大股で一階へと降りて行った。
「待たせてごめんね、明子。時間ないよね、行こう!」
そう言って、朝食も取らず家を出ようとした時、
「まで、写真撮ってける!」
と母がカメラを持って外に出てきた。
ピンク色のかわいらしいドレスに身を包み、髪も化粧も、どこから見ても完璧な明子の横に私は立った。
”成人になる日に寝坊するなんて、なんて出だしが悪いんだ…。”
化粧もしてない、髪もとかしていない、寝起きの腫れぼったい顔のまま私はニコリともせず、記念すべき一枚のシャッターは下りた。
「せば、行ってくる。終わったら電話するから!」
そう母に告げ、私は明子の運転する車に乗り込み、揺れる車内で化粧をし始めた。
丁度化粧と髪のセッティングが終わった頃、私たちは成人式会場となる町民会館へと着いた。
太陽はもうすでに高い位置にあり、車を降りるとジリジリと暑さが増していた。
うちの町では、成人式は1月ではなく8月のお盆に行われる。
毎年大雪が降るため、交通の便もよく、県外にいる成人たちも休みが取りやすいお盆に開催されるのが通例だ。
その為、振袖をや袴を着る成人はゼロで、ほとんどはスーツ、カクテルドレス、そして浴衣で皆おめかしする。
会場に入ると、割と多くの役場の人たちが受付に座っていた。
「おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます…。」
すっかり成人しきった受付嬢たちに返事をし、お辞儀した頭を持ち上げると、受付台の端の方に一人際立って浮いて見える男性に気がついた。
”え?なんでここにジョンがいるの??”
不思議に思いつつも、私はプログラム表を受付嬢からもらい、とりあえずは他の友人の元へ挨拶をしに行った。
懐かしい顔ぶれが一同に揃っていた。
バリバリ仕事をしている子、結婚してる子、数年前と全く変わっていない子、、化粧が濃すぎて誰だかわからない子…どの子も今日のこの日を楽しみにして、生き生きと輝いているように見えた。
友人たちと少し談話をした後、私は明子にジョンの事を話した。
「あそこに座ってる金髪の人、今月から新しくALTになったジョンっていうんだ。ちょっと一緒に挨拶しに行かない?大丈夫、日本語ペラペラだから。」
そう言って少しドキドキしながら、明子を引き連れてジョンに挨拶しに行った。
明子にいいとこを見せようと思ったのか、私は椅子に座っていたジョンの背後から英語で話しかけてみた。
「Hi!」
「はい!」
明らかにそれは日本語の"はい"だった。
驚いたようにジョンは後ろを振り向き、一瞬強張った様子で、私の顔をじっと見つめた。
そして慌てて気がついたかのように、ジョンはすくっと立ちあがった。
「…おぉ、黄菜か!黄菜も成人式来てたんだ。」
「そうだよ。今年二十歳だから。」
ジョンは黒いスーツを着ていた。
すらっと伸びたその細身の体に、ジャケットもパンツも綺麗にフィットしていた。
そして黒い革靴まで伸びたパンツは、彼の足をより一層長く見せた。
初めて見るジョンのスーツ姿は、上品で、プロフェッショナルで、正に男らしかった。
成人式を待ち、ロビーでケラケラ談笑している同級生の男子達とは各段違う雰囲気を私は感じた。
そしていつものラフで、オタクっぽい姿はどこかへと消えていた。
「今日はおめでとうございます。」
ジョンはかしこまった様に一礼して言った。
そして私は腕や肩、そして足があらわになった自分のドレス姿を、彼が見つめている事に気がついた。
”私いつもはジーンズとTシャツしか履かないからな…。どう思われてるんだろう…?”
私はとっさに恥ずかしくなり、両方の二の腕を手で覆った。
その一方でジョンが始め私を認識できず、驚いたような表情を見せてくれた事がなんだか嬉しかった。
”私でもきちんとしたら、それなりに見えるのかしら?”
そんな事を思いつつ、私はジョンのスーツ姿に見入りながら明子を紹介した。
「これ、友達の明子。」
「あ、こんにちは、初めまして。ジョンと申します。」
ジョンがとてもフォーマルな日本語を話したり、日本人らしい振舞いをすると、いつも私は彼の見た目とのギャップに心の中で笑わずにはいられなかった。
明子も少しニヤニヤし、わざとらしくジョン並みに丁寧に挨拶を返した。
「ジョンはなんで今日ここにいるの?」
「仕事。成人式の手伝いで。」
まだ学校は夏休み中で仕事もないため、この日の為に急遽駆り出されてしまったのだろうと私は推測した。
「そっか。仕事頑張ってね。じゃぁ!」
そう言って私と明子は再び友人たちの元へと戻って行った。
数分後、今年で町内最後となる成人式が開会した。
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