THROUGH MY FINDER -3ページ目

回れ右

口数の少ない小さいおじさんが言っていたことを思い出した。
「道に迷ったら、回れ右だよ。」

僕は今旅の途中、道に迷っている。
僕は「回れ~右!」と叫んで。回れ右とは”時計回りに一周する事か??”と一瞬躊躇はしたものの
そのまま一周くるっと回ってしまった。
回れ右とは本当は右足を引いてくるっと180度方向転換する事だ。
僕は一周してしまった。一周したら元のまま、まっすぐ前を向いていた。僕はそのまままっすぐ前の道を歩く事にした。道に迷ってその場で一回転して何が変わるというのだ?おじさんは何を僕に伝えたかったのだ?腑に落ちないな。どうせ小さなおじさんが言う事だから、信頼性は薄い。いつも口数が少ないんだもの。たまに口にしたことだから僕は覚えていたのだ。馬鹿げてる、まぁいいやと思っていたのだが。
何かがおかしい、さっきと風景が違うじゃないか。僕がいたのはビルが建ち並ぶオフィス街であったのに、今僕の目の前に広がる風景は、すすき野原と湿地帯じゃないか。そして木の橋の上にいるのだ。僕は面食らって腰を抜かした。ほんとに腰を抜かして、地面にお尻を強く打ち付けた。尾てい骨を強打した。脳天までしびれる激痛だ。僕は腰を抜かしたまま、後ろを振り向いた。後ろに広がる風景も湿地帯にただ一本の木の橋が延々と続いている。山一つない。僕を取り囲む360度が見渡す限り湿地帯で橋がその中央にあり、果てまで続いている。

これはこれは道に迷いようが無いじゃないか、だって一本しか道がないのだから。僕はただ一本のその橋の上をあきらめて果てまで歩いてみる事にした、といってもそうするしか無いじゃないか!!一体食事はどうするんだ!この湿地帯にムツゴロウでもいて蒲焼きにすることでもできたらいいのだが。

彼女からの手紙

「夜の四十万に声を聞きます
それは誰の声でもなくて、わたしの本当の声なの

空を見上げてみると、まばらな雲が月明かりに照らされていて
夜の空に浮かんだ羊の群れのようにも見えて
その雲に見え隠れする星があちらこちらに散らばってる
わたし星座なんてろくに知らないし、勝手に繋げてみせるの
そしたら声が聞こえるの、それはきっとわたしの本当の声なの

さっきまでは風も吹いていなかったのに、今風がどこかしらから吹きたって
月明かりでかすかに色を手に入れている木々の梢が大きく揺れて
葉がこすれ合う音がたてるの、まるで息を吹き返したように
そしたら声が聞こえるの、それはきっとわたしの本当の声なの

何にかき乱される訳でもなくて、嘘偽りもなくて、澄んだわたしの声は
こんな夜にしか聞けないのかな

今は星も繋がっていないし、風もやんで、夜の四十万にわたしの声は消えてゆきます

もうわたしの声は聴こえなくなったけれど、わたしの中で山びこがのように
かすかに響いてる

そしてわたしはゆらゆらと揺らされるのだけど、
本物か偽物かわからないわたしに戻っていくのです。」


薄くぼやけた視界の中で再会を果たす