PERFECT DAYS(映画) | 羊飼いの戯言

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作品の感想や雑感をつらつらと述べたblog

 俳優の役所広司さんが結構好きなので出演する作品、映画は見るようにしていますが、鑑賞が公開終了間際になってしまったのが『PERFECT DAYS』。

 

 東京都渋谷区の公衆トイレの清掃員を主人公に、日々の生活の様を記録したストーリー。早朝の起床から朝の出勤前の身支度、出勤中の車のカセットテープから流れてくる1960-70年代の音楽、公衆トイレを巡っては清掃に精を出す愚直さ、銭湯に入り、浅草の一杯飲み屋で夕食を取って家路につき、就寝前に本を読んで眠りにつく流れ。そして一週間の仕上げにはコインランドリーで洗濯して、小さなスナック(ママ役の方の演歌が上手いと思ったらガチ本職の石川さゆりさん)でちょっとした贅沢を楽しむという決まったパターンの描き方がとても丁寧で美しかったです。そして、そんな決まった日々の中にも少しずつの変化がある。それは季節の変化だったり、マルバツゲームだったり、昼食時のOLとの何気ない視線の交換だったり、そういう僅かな変化が定番の日々にを寄せてくれるという描写が心温まりました。主演の役所広司さんが、特に冒頭からずっと台詞なしの演技だけでその生活ぶりを演じ観客の想像をかきたてていくという脚本の大胆さと演技力の豊かさに驚かされました。
 一方で、不意に訪れてくる姪とその母親(主人公にとっては妹)との交流から、主人公が相当な家族関係の苦労を背負ってきたことが仄めかされますし(でもその背景を掘り下げては説明せず、観る人の想像に委ねる)、スナックのママの元・夫(三浦友和さんが演じているのがまたよかった、『西部警察』や『独眼竜政宗』の伊達成実役で好きだったので)とのひと時の交流で、人間の晩年は平穏に見えてゆっくりと終末に向けて進んでいることを意識させられるという展開も、人生は死に向かって進んでいくという重たさをじわりと感じさせてくれました。
 あまり若い人には理解が難しい作品と思われるからでしょうか、客席はおそらく60代以降と見える年配のお客さんばかりでしたが、管理人ももう少し年齢を経てから鑑賞するとまた味わいが違うのかも、と思います。